03

いつもと変わらない、2人きりの帰り道。
しかし毎度のように快活に喋り続ける琉依は、今日は黙りこくっていた。その代わり、隣を歩く綺依の顔をチラチラと見遣る。
綺依が不機嫌な表情を浮かべていることは珍しくない。
が、一日中こうなのは久しぶりである。
きっと何か気に障る出来事があったのだろうが、琉依にはこれといって思い付かなかった。

「ね、ねぇ、どうして怒ってるの?」

小走りで綺依の隣に並びながら、琉依は思いきって尋ねた。
しかし綺依は冷えた声音で「何でもない」と返すだけ。困ったように琉依は眉根を寄せる。
何でもないはずは無いだろう。綺依がよく機嫌を悪くするのは事実だが、いつでもちゃんとした理由があることを琉依は知っていた。

「本当はどうしてなの? 僕が悪いことしたの?」

もう一度質問を投げかけるが、今度は答えてくれなかった。
そしてそれ以降、綺依が琉依に必要以上に口を開かなくもなってしまった。
琉依から話しかけたとしても、数回のやり取りで会話が終了してしまう。
その度に琉依は潤んだ瞳で綺依を睨むが、それでも綺依は頑なに口を閉ざしたままだった。


何日かそんなことが続き、見かねた亮さんが琉依に何があったのかと尋ねた。
悲しげな表情を浮かべる琉依は、ゆっくりと首を横に振る。

「嫌なことがあったんだろうとは思うけど、どうしてなのか僕には全然分からなくて……」
「そっか……。悩みがあるなら相談してくれてもいいのに。
綺依くん自身はそれを良しとしないんだろうね」

苦笑いを浮かべながら亮さんはそう言った。
隣で聞きながら、琉依は考える。
綺依には相談相手が居ないのだろうか。
自分では頼りにならないのだろうか。
少しだけ目頭が熱くなるのを感じたが、両手でごしごしと目を擦って紛らせた。

「これからは頼ってもらえるように、頑張らなくっちゃ」

琉依は呟いて、台所に立つ綺依を見つめた。

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「どうすれば頼れる人間になれるかな?」

金曜日最後のロングホームルーム。
今日は進路相談の為に自習となっていた。
ついさっき、綺依の番が回ってきて彼は教室を出ていった。
その間に琉依は、達幸に相談しようと考えたのだ。

「え、何いきなり?」

先生が居ないのをいいことに漫画を読んでいた達幸は、驚いて顔を上げる。
深刻そうな表情の琉依は、机に目を落として続けた。

「綺依が最近ずっと機嫌悪いけど、何があったか全然教えてくれなくて……。
今までも僕が綺依に頼るばっかりで頼られたこと無いし。
でもいつまでもそんなのじゃダメだから、僕も綺依に頼られたいの」
「あ、あぁ……」

確かに琉依が頼りにならなさそうなのは事実である。
誰に対しても、振る舞いが弟キャラなのだ。
実際弟であるから、それを直すのは難しいだろうと達幸は思った。

「本人が何も言ってこないなら、放っておけばいいんじゃないのか?
琉依はアイツに構いすぎなんだよ。
人付き合いだって嫌いだろうし」

呆れたような口調で達幸が言った。

「放っておくなんて、綺依は僕のたった1人のお兄さんなんだよ?
そんなこと、出来るわけ無いもん」

ムッとして琉依は反論する。
だが達幸はそれを聞き流した。
自分が琉依の目を覚ましてやらなければ。そんな衝動に駆られた。

「だから琉依は感覚が麻痺してるんだよ。
だって、絶対おかしい。
琉依はアイツを信じたいだけ――」

先ほどより真剣に、強く放たれた言葉は途中で途切れた。
いつの間にか綺依が傍まで来ていたのだ。

「琉依、次」

冷ややかに達幸に視線を向けながら、琉依に告げる。
琉依はハッとして頷くと、パタパタと駆け出す。
それを見送って、綺依は何も言わずに自分の席へと戻った。

「何だよ、何なんだよ一体。
何が琉依をああさせてるんだ……?」

硬直したまま、達幸は開いた漫画に目を戻す。
しかし内容は一切頭の中に入ってこなかった。
ギリ、と奥歯を噛み締める。
琉依を救わなければ。


>>続く

達幸はあれです。
あの年頃の男子にありがちな?変な使命感を持ってるのです。


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