16

突然に琉依から抱きつかれた綺依は驚いて、琉依の肩を押す。
しかし、琉依はなかなか綺依から離れない。
琉依が顔を埋める綺依の首に、琉依の吐息がかかる。
そのくすぐったさに身震いし、誤魔化すようにすぐ咳払いをした。

「と、とにかく、まず宿題をしろ」

そう言われてようやく身体を離した琉依は、些か不満そうな表情に戻る。
やれ、と目で指図してくる綺依に渋々頷き、ペンケースの中からシャープペンシルを探し出して右手に持った。
その間、琉依の目の前に綺依が広げて置いたのは、数学の問題集。
今日習った単元のページだった。

「今日の宿題はこの2ページだから、教科書かノートを見て解け。
どうしても分からない問題は、長時間悩んでも仕方ないから飛ばすこと。
じゃあ問1から……40分経ったら見てやる」

ちらりと時計を確認し、琉依に告げる。
琉依は不貞腐れたまま、もたもたと問題を解き始めた。
彼が宿題に手をつけ始めたところを見届けると、綺依は彼の向かいに移動して自分の宿題を始める。
琉依が問題を解く手はなかなか進まず、ウンウン唸りながら教科書とノートを行ったり来たりする。
めくるページも、よく見れば同じページをめくっては戻り、めくってはまた戻りを繰り返していた。
彼とは対照的に、すらすらと空白が埋まっていく綺依の問題集を時折そっと盗み見れば、気付いた綺依が、人差し指で教科書をトントンと小突いた。
40分はあっという間に過ぎ去っていく。
全ての解答はもちろん、添削まで綺依は終えていたものの、琉依は1ページ目の7割ほどのところで止まっていた。
見たところ、それ以降の問題には手をつけていないようだ。

「最初の俺の話聞いてたか?」

半分呆れ、半分諦めたように綺依が尋ねる。

「教科書とかノートで探したんだけど……」

萎縮しつつ琉依は答えるが、綺依は首を横に振った。

「それ以外に、どうしても分からない問題は長々と考えてても仕方ないから、飛ばして次の問題へ行けって言っただろ」
「でも次の問題やっても、それも分からないと思う……」

琉依は素直に思ったことを述べただけだったのだが、綺依のこめかみがピクリと動いた。

「もしかしたらその次の問題は、自力では解けなくても教科書見ればそこまで時間がかからずに解ける可能性だってあるだろ。
初めから全部わからないって決めつけずに、一回最後まで通して見てみろ」

イライラしながら琉依から問題集を取り上げ、彼がどうにかこうにか解答を書いた数問の答え合せをする。
時間をかけて教科書とノートを見直しながら解いていただけあって、彼が答えた問題はケアレスミスを除けばほとんどが正解だった。
赤ペンで丸がつけられていく問題集を見て、琉依はほっと安堵したような表情を見せる。
綺依の手元に差す西日がボールペンの透明な軸を透かし、白い紙の上に赤インクの影を落とした。

「この調子だと明日になっても宿題終わりそうにないから、残りは教えてやる」

丸をつけ終わった問題集を琉依に返し、綺依は教科書とノートのページを繰った。
板書をそのまま写しただけの、まとまりが無く読み辛い琉依のノートを見て、顔をしかめる。

>>続く

- 16 -

[prev] | [next]


「#オメガバース」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -