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数時間後、悩める青年と悩める少年2人は、向かい合って食卓を囲んでいた。図ったかのように、母親は仕事で帰宅が遅くなるとのことだった。
それぞれがそれぞれに思うことがあり、会話などほとんど無く、重い空気が流れていた。亮さんは未だ、双子の担任に言われたことを自分から話すべきか、それとも先に2人の母親に話すべきか迷っている。彼には、そのどちらも得策ではないように思えた。
少し前まで部外者であった彼は、綺依のことも琉依のことも、知らない部分がまだまだある。これはそんな自分が首を突っ込んでいい事柄では無いだろうから、やはり母親に伝える方が良いのではないか。そう彼が決しようとしたとき。

「……今日、進路相談があった」

低く、少し掠れた声で綺依が告げた。他の2人の反応を待たず、綺依は続ける。

「母親に経済的負担をかけたくないし、亮さんにも迷惑かけたくないから、俺は国公立に行こうと思ってる。できれば琉依と同じ大学。
担任にはトップクラスの大学に行けるとかいわれたけど琉依には無理そうだから、どこか地方の大学でも、と思ってる。
でも琉依が……わかってはいたけど……この家から出たくないと」

言い終わり、ちらりと琉依を見る。琉依は口をへの字に曲げて聞いていて、何も言わなかった。
一方で亮さんは、彼らの担任からの話は自分がした方が良いと感じた。綺依が国公立を志望していることは担任から聞いて知っていたが、それは綺依の遠慮から来ているということに気が付いたからだ。
そろって箸を止め、うつむく双子に、亮さんは伝える。

「実は今日、2人の担任の先生から僕に電話がかかってきて。その進路相談についてだったよ。
来月の三者面談までにある程度志望校を絞り込んで、ご家庭でも共有しておいて下さいって」
「は? あの人、亮さんに電話かけたの?」

すかさず、綺依が顔をしかめた。そして少し間をおいて、ポツリと呟く。

「三者面談ったって、どうせ来ないだろ……」

綺依と、それからこの言葉を聞いた琉依の脳裏には、小学校の授業参観に一度も来なかった両親が思い出されていた。
今の母親はあの頃と同じか、それ以上に仕事が忙しそうで、平日の昼間に学校へ来れるとは到底思えなかった。
綺依は再び黙ってしまう。琉依も口を閉ざしたままだ。
2人の様子で、亮さんはおおよその事情を察することができた。2人が、過去の出来事から諦めてしまったことがあるということが亮さんにとって寂しく、と同時に2人を愛しく思う気持ちが込み上げてくる。

「三者面談、僕が行ってもいいかな?」

問いかけの形ではあるが、拒否させない強さを孕んでいた。

-続く-

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