▼ *June Bride
日本は梅雨に入り、雨が降り続く毎日。
琉依は毎朝、カーテンを開けては溜息をついている。
「おにぃ、今日も雨だょ……」
せっかくの休日なのに、これじゃあどこにも行けない、と目に涙を浮かべながら綺依を見上げる。
「家で大人しく寝てろ」
綺依はそう言い置いて、さっさと何処かへ行ってしまった。
残された琉依は二度寝する気にもなれず、テレビを見ることにした。
つけてみると、ちょうどやっていたのは"ブライダル特集"。
おススメの式場やウェディングドレスなど、とても華やかである。
「ジューンブライドかぁ。いいなぁ、僕もおにぃと結婚できたら――」
琉依の頭の中は、めくるめく妄想でいっぱいに。頬は緩み、目はどこか遠いところを見ている。
「――琉依、何やってんの?」
不意に呼ばれ、振り返るとホールケーキを両手に抱えた綺依が。
「あ、おにぃ! 別に何もしてないよぅ」
「嘘つけ。顔がにやけてる」
持っていたケーキを机に置くと、琉依の頬を左右に引っ張った。
「何考えてたか、言ってみ?」
「へ、へっほんひひ!」
「結婚式?」
綺依が手を離すと、赤くなった頬をさすりながら琉依は答えた。
「6月だから、ジューンブライドの特集やってたの……」
「ふーん。で、何でそんなににやけてんの?」
「あ、それは……」
いくら兄のことが好きだとはいえ、同性だし兄弟だし、結婚したいだなんて到底言える訳もなく、琉依が黙ったままでいると
「俺との結婚式でも想像してた?」
とにやにやしながら綺依が尋ねた。
「だって、おにぃのこと好きだから……」
観念してそう琉依が言った瞬間、綺依にキスをされた。驚いて見上げると、
「ケーキ、一緒に切ってくれるよな」
とナイフを手渡された。その意図を察した琉依は、満面の笑みを浮かべて受け取る。
「ウェディングケーキ、入刀だよね」
そして二人でナイフを握り、ケーキを切り分けた。
二人のウェディングケーキは苺と桃のショートケーキで、琉依の好みに合わせて甘めに仕上がっていた。
「やっぱり、おにぃのケーキおいしい!」
琉依は笑顔で頬張り、ほっぺたを手で押さえる仕草をする。
もう一口食べると、すかさず綺依が唇を塞いだ。口内のケーキを舌で絡めとり、ちゅっと唇を吸って離す。
「うん、甘い」
そう言って、琉依を抱きしめた。
「琉依――誰にも渡さないから」
昏(くら)くひずんだ独占欲を囁かれ、甘く悶える琉依。
「おにぃ、大好きぃ……」
しどけなく綺依の首に腕をまわし、唇を薄く開く。綺依はその口許へケーキを運ぶと、舌を挿し込み絡ませた。唾液とケーキが、混ざり合い、くちゅくちゅという水音が室内に響く。
そうこうして、二人がケーキを食べ終わったのは一時間後であった。
「おにぃは僕の旦那さんだよね?」
琉依が訊くと、綺依は彼を抱き寄せて
「当たり前だろ」
と返したのだった。
-end-
2012年6月の拍手御礼SS。
今読み返してみたら、何だか頭に虫がわいていたようで(・∀・)←
まぁ、ジューンブライドだしたまにはこういうのも……。
てか、ブライドのスペル合ってるの?←ぇ
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