*春眠暁を覚えず





 春眠暁を覚えず



カーテンの隙間から溢れる光で、綺依は目を覚ました。
清々しい春の朝。いつもならすぐに起き上がるのだか、今朝は眠気が勝った。

「まだ琉依は寝てるしな……。そう慌てて起きることもないか」

そう独りごちて、もう一度布団に潜り込んだのだった。

それからしばらくして。今度は琉依が目を覚ました。そして隣に綺依が寝ているのを見つけると

「やった、おにぃより先に起きた!」

心の中でガッツポーズをした。あまり見る機会のない綺依の寝顔。魅入られたようにうっとりと眺め、息をする度震える睫毛に触れようとする。しかし、その直前に綺依はぱっちりと目を開けた。

「琉依……何しようとした?」

行き場を失ってふらふらと彷徨う琉依の指を掴み、薄っすらと微笑を浮かべながら尋ねる。瞬間、琉依の背筋に冷たいものが走った。

「なに……も……」

身体を起こした綺依は、ふるふると首を振る弟の顎をつい、と持ち上げる。

「嘘をつくような奴にはお仕置きが必要だな」

琉依の怯えたような表情は、ただ綺依を煽るだけ。これからどんなお仕置きをされるというのか。期待と恐れに胸中を支配されながら、黒く笑う兄を見上げる琉依。

「おにぃ――」

「あー、でも後でいいわ。眠いし。てことで、もっかい寝るから」

おやすみ、と告げて綺依は再び布団の中へ。1人残された琉依は、身体の奥に感じた疼きをどうすることも出来なかった。

「お仕置き……してほしかったのに……」

恨みがましく呟くと、自分も布団に寝転がった。そして寝息をたて始めた綺依にぎゅっとしがみついて、そのまま眠りに落ちたのだった。


-end-





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