▼ 双子誕生日SS
夏休み最後の日曜日。この日、琉依は朝からそわそわしていた。
何と言っても、今日は夏祭り。そして綺依の浴衣姿が見られる初めての機会なのだ。
いつも琉依ばかりが浴衣で、服装を合わせてくれない綺依に少なからず不満を抱いていたが、今日は違う。一緒に浴衣を着て夏祭りに行ける今宵が待ち遠しかった。
早く夕方になってほしいな、とごろごろベッドの上を転がっていると、部屋の片付けをしていた綺依にプリントの束で叩かれた。
「寝てる暇があったらテスト勉強でもしろ」
そういわれつ、渋々起き上がる。テスト勉強なんて、明日やるのに(※テストは明日)。
ふてくされながらも勉強をやっていると、待ちに待った夕方が来た。
机に向かっている綺依を後ろから覗き込み
「おにぃ、お祭り行こっ!」
と声をかける。が、
「今からは蚊に刺されるから嫌」
と冷たくあしらわれた。
「ふぇぇ……じゃあいつだったらいいの?」
「夜。日が暮れてから」
「分かった……」
恨めしそうに綺依を睨み、琉依は布団に潜り込んだ。
もう勉強には飽きたので、祭りへ行くまでふて寝しようと思ったのだ。
それからどれくらいの時間が経っただろうか。
頭からすっぽり被った布団を剥ぎ取られた。
煌々と明かりを放つ電灯に照らされ、琉依はぐずりながら目を覚ます。
「祭り行くぞ」
声が降ってきた方を見上げると、浴衣を羽織った綺依の姿があった。
この間琉依が選んだ、淡い墨色に白い輪っかが染め抜かれた、軽やかな生地。
少し憂いを含んだ表情やさらさらと流れる黒髪とうまく調和し、より一層綺依の美しさを際立たせている。
想像通り、いや想像以上にかっこいい彼に、琉依はしばし見とれた。
「早くしろ。行くんだろ?」
苛立ち混じりの綺依の言葉に、琉依ははっと我に返る。
「ふぇ? あ、うん、行く!」
慌てて飛び起き、用意してあった浴衣を着た。
いつもの、水色に薄紅の桜が散ったもの。
支度を整えて下駄を履くと、さほど遠くない祭りの会場まで歩いて向かった。
会場となっている神社に着くと、既に大勢の人で賑わっていた。
建ち並ぶ露店に目を奪われ、その度に足を止める。
「ねぇ、おにぃー。金魚すくいしたい」「飼育できないからダメ」
「ヨーヨー釣りしたいー」「処分に困る」
「射的! 射的は?」「金の無駄」
しかし琉依のやりたいことはことごとく却下された。これじゃあ一体何をしに来たのかが分からない。
どんどん楽しみが減っていき、琉依の気分も沈んでいった。
綺依に財布の紐を握られている以上、どうしようもない。
琉依が悲しげにため息をついたとき、不意に綺依が立ち止まった。
後ろを歩いていた琉依は、ぶつかりそうになって慌てて顔を上げる。
「わぁっ、おにぃ何?」
琉依がきょとんとしている間に、琉依は目の前の露店へと立ち寄った。
何やら買い物をすると、手に商品を持って戻ってくる。
それを琉依にずいと差し出すと
「これでもくわえて黙っとけ」
とそっぽを向きながら言った。
琉依が受け取ったのは、大きいリンゴ飴だった。
コーティングされた透明な飴が、店先の照明を受けてキラキラと輝いている。
微かに甘いその香りに、琉依は顔をほころばせた。
「ありがと! おにぃ大好き!」
「……それ食べ終わったら、帰るからな」
その言葉に頷き、リンゴ飴を頬張る。
甘酸っぱい味が口いっぱいに広がると同時に、さりげなく手を繋いで隣に並んだ綺依への、嬉しいような少し恥ずかしいような気持ちも胸の内に広がった。
ひとときの幸せを噛み締めつつ、琉依は呟く。
「リンゴの味は初恋の味だっけ、おにぃ」
-終-
1週間近く過ぎてしまった気がする( ノД`)
双子の誕生日は8/28ですが、書き終わったのが9/2。
ゴメンねΣ(ノд<)
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