06

「あ、でも最近は"冬の君"ってのも人気だな。その内に特集組むとか、新聞部が言ってたわ」

「……誰だよ、それ」

あからさまな嫌悪の表情を浮かべて朔が訊ねる。
すると、日織は彼の目を見据えてこう言った。

「結崎」

たっぷり一呼吸分置いて、朔は言葉を返す。

「はぁ? 意味が分からないんだけど。なんで俺がそんなダサい呼び名で呼ばれなきゃならないのさ。第一、"冬"ってなんだよ」

低めの声のトーンと不機嫌そうな表情から、彼のイラつきが分かる。日織は頬を人差し指で掻きながら、困ったように笑う。

「えーっと、それは……」

まるで冬のように冷たい受け答えをするから、などとは本人に面と向かって言えるものではない。水静が言わせれば、彼は単に"ツン"の割合が多いだけだということらしいが。

その時、座っていた2人の頭上から声が降ってきた。

「朔くんが冬生まれっぽいからじゃない?」

見上げると、先ほど戻ってきたらしい水静の姿があった。

「マジで。俺、秋生まれなんだけど」

怪訝そうな顔つきをする朔。彼の言葉を受けて、日織がちらっと水静の方を見た。一瞬ニヤッと笑い

「そうなんだー。え、誕生日いつ?」

と尋ねる。

「10月20日」

そう朔が返したとき、チャイムが鳴り響いた。

「あ、じゃあ待たな!」

椅子から立ち上がると、日織は急いで自分の席へと戻っていった。水静にだけ見えるように、ピースサインをしながら。

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その日水静が寮の部屋へ帰ると、日織から電話がかかってきた。

『どうだった? 俺の昼休みのナイスプレー』

「ナイスプレー?」

聞き返すと、彼はチッチッチと舌を鳴らし

『結崎の誕生日だよ。俺が訊いたからこそ、お前は誕生日を知れたんだ。誕生日になったらプレゼントでも贈ってやれ』

「……まぁ、感謝はしてる。けど、男同士で誕生日プレゼントなんてあげるか?」

『俺はよく分かんないけど、友達は恋人にあげてたぞ。あ、もちろん男な』

「ふーん……」

そんなものなのか、と妙に納得してしまう水静。片や日織は、電話の向こうで肩を竦めていた。

『ま、お前の健闘を祈ってるよ。それじゃあな。俺は宿題をしなきゃいけない』

「じゃ」

水静が電話を切ると、まるで彼の電話が終わるのを待っていたかのように部屋のドアがノックされた。開けると、そこには朔が立っていた。

「ど、どうかした?」

顔に動揺を滲ませつつ、水静は声をかける。

「新聞部の取材が来た。助けてくれ」

困り顔で朔は答えた。その後ろから、デジタルカメラを首にぶら下げた新聞部の記者と思しき生徒も顔を出す。

「あー……。とりあえず2人とも俺の部屋に上がってよ」

仕方がないので、水静は2人を部屋へ招き入れた。


>>続く


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