15

瞬く間に床に築かれた小さい山を見て、朔は呆然とする。

「……何だよ、これ」

下駄箱に入っていた封筒なんて、嫌な予感しかしない。
わなわなと震えながら、試しに一番上の封筒を手にとって開けてみる。
はたして几帳面な字が並んだ文面は、紛れもなくラブレターのそれだった。
恐らく他の封筒も。

「何でこの学校にはホモしか居ないんだよ!」

朔は声を荒げると、手にとった手紙を床に投げつけた。

「こればっかりは、夏だから仕方ない」

手紙の山を一瞥したあと、玄関の掃除用具入れを開けながら水静が言う。
そこから取り出したのはゴミ袋だった。
水静はそれに次々と手紙を放り込んでいく。

「夏だから……?」

朔は慌てて彼を手伝いながら、そう尋ねた。
夏は何か特別なのだろうか。

「朔くんはこっちに来てまだそんなに経ってないから知らないと思うけど、夏になると近くで夏祭りが開かれるんだよ。
屋台が出るし花火も上がる比較的大きい祭りだからさ、みんなカップルで行きたがるわけ」

少しうんざりしたような水静の口調。
彼に告白する生徒の数がここのところ増えていたのもこのせいなのだと、朔は悟った。

「でも俺はこんなに大量の手紙を貰ったことは無いな。
よほど朔くんが近寄りがたいと思われてるのか……」

「告白も手紙も、俺は勘弁だ」

朔は憮然として返し、ラブレターでいっぱいになったゴミ袋の口を結ぶ。
そして学校の裏手にあるゴミ集積所へそれを運び、これまでのストレスをぶつけるかのようにやや乱暴に投げ捨てた。

「さ、朔くんは夏祭り行かない?」

水静の言葉に朔が振り返る。日が沈み、辺りは薄暗い。
その中でもはっきりと認識できるほど、水静は頬を赤らめていた。

「……時原も一緒じゃん」

ため息をついて冷めた目で見る朔に、水静は慌てて首を振った。

「俺はそんなんじゃなくて、ほら日織も来るだろうし」
「……」
「だからさ、朔くんも行こうよ。な?」

最後はもう、ほとんど懇願だった。
このまま居られるのも鬱陶しいので、朔は渋々了承する。

「その日が暇だったら、行ってもいい」
「じゃあ、日が近づいたらまた言うから」

そう微笑む水静に、朔は少しドキリとした。
胡乱げな表情や、それとは逆に嬉しそうな顔は幾度も見てきた。
しかし、今のように微笑んだ表情は見たことがなかったのだ。
彼のように綺麗な微笑みは初めて見た。

「……帰る」

内心の動揺に気付かれたくなくて、朔はそう一言告げると足早に歩き出した。

「あ、朔くんちょっと待って!」

そのあとを追いかける水静。
彼の頭の中は、既に夏祭りのことでいっぱいだった。


>>続く

さあ、このイベントを書くのはいつになるでしょう←


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