▼ 09
去年の始業式のあと、真っ先に水静を呼び出したのが青城だった。
10分足らずで帰ってきた水静に訊くと、付き合ってほしいと言われたが他の男子たちと同じように断ったという。
その時日織は青城がフラれるなんて初めてのことではないのだろうかと思ったのだが、だからといってどうということもないだろう、と大して気にも留めなかった。
しかし青城にとってこの出来事は、相当な屈辱を与えたらしい。
青城は水静に執着し、どうにかして彼を手に入れようと策略を巡らしたのだ。
様々な局面で水静が不利になるように裏で糸を引き、困っているところへやって来ては「自分のものになれば助けてやる」というようなことを言う。
その都度水静は追い返していたのだが、それがまた青城のプライドを傷つけることになっていたらしい。
そんな彼の干渉が最近少なくなったと思っていたら、朔に目をつけていたのか。だが、あの青城がきっぱり水静を諦めるとも思えない。もし青城が水静の朔への思いを知ったらどうなるか。いや、2人が仲良さげに会話しているところを見ただけで、青城の行為がエスカレートするかもしれない。
幸か不幸か、朔は無表情で対応も素っ気なく、水静と仲が良さそうには見えないかもしれないが――。
「日織、どうした? そんなに思い詰めた顔をして。腹でも痛いのか?」
ふと顔を覗き込まれて、日織は我に返る。
考え込んでいて周りの声が聞こえていなかったようだ。
「いや、大丈夫。ちょっと考え事してただけで」
笑みを作って見せたが、きっと不自然に引きつっているのだろう。
友人は納得のいかなさそうな顔をした。
「そう、ならいいけど……、じゃあ、俺はこっちだから。
また明日な」
「あ、うん、バイバイ」
友人と別れ一人になるとまた、青城のことを考え始めた。
この事は水静にいうべきだろうか。いや、言ったところでどうにかなる訳でもないだろう。
俺が青城を二人に近づけないようにする? そんな力はあるはすがない。
何もできず、ただ状況を見守っていることしか出来ないのだ。
日織は溜め息をついて、家の門を押し開けた。
部屋に入ってケータイを確認すると、水静から不在着信が入っていた。
何かあったのだろうかと思い、すぐにかけ直す。
すると、9コール目で彼は出た。
「不在着信入ってたけど、何かあった?」
『あぁ、明日の予定を訊こうと思って。時間割を撮ってくるの忘れたから』
水静の答えを聞いて、そんなことかよと気落ちする。心配していた自分がバカみたいだ。
「それなら結崎に聞けよ。隣なんだから」
『いや、まぁ、そうだけど』
「そうだけど?」
『朔くんの部屋に行くのは忍びないというか、何と言うか。何人(なんぴと)たりとも聖域には足を踏み入れるべからず、みたいなさ』
「……あっそ」
『冷たっ! いいよ、日織には朔くんの清廉さが分からないんだ。で、明日の時間割は?』
「ん、明日は一時間目が数学、二時間目が古典――」
日織が言い終わると
『ありがと! じゃあな』
「あ、ちょっと待って」
『何?』
「最近、青城が何かしてきてない」
やっぱり少し不安なので、尋ねてみる。
『青城? あー、あの金持ちで自意識過剰で、この世で一番自分が格好いいと思ってそうなアイツか。
別に何もしてきてないけど』
「そう、ならいい。
それじゃあ、明日」
きっと青城はまだ様子を窺っているのだろう。何かをしてくるとしても、しばらく先になりそうだ。
電話を切ると、安心したせいかどっと疲れが出てきた。
ベッドに倒れ込むと、一気に眠気が襲ってくる。
宿題は起きてからやろう……。
そう思って彼は、深い微睡みに落ちていったり
>>続く
何か、日織が青城のことが好きみたいになってる((((;゜Д゜))
そしてやっぱり短い。
けど、キリが良かったからさ……。
うん、朔くんが出てこなかったね。
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