お買い物デート



「おい」
「は、はい?」
「お前、なんでそんな顔隠してんだ?」
「そ、それは・・・」

怪訝な顔をしながら尋ねてきたリヴァイさんに、わたしは言葉を詰まらせた。
わたしの只今の格好はといいますと・・・、
帽子にサングラスにマスク
確かにぱっと見とても怪しい。

でもしょうがないじゃないですか!
だってわたし一応、一応アイドルなんですから。
それに今は男の人と一緒に歩いているものだから、余計気にしてしまう。

「ちょっと職業上、あまり街で顔は出せないんです」
「ほう・・・さっきも思ったが、お前の職業とはなんだ?」
「え・・・」

ストレートに聞かれてしまった。
あまり人には知られてはいけない仕事です、と言えば妙に納得したように頷かれてしまった。

「(低い対人能力でもできる仕事だろうからな、それなりに規制があるのだろう)」
「(なんかものすごく失礼なことを考えてる気がする・・・!)」



△▽



「なんだここは・・・!」

それが近くのショッピングセンターに着いたときのリヴァイさんの第一声だった。
見渡す限りの人、人、人
何十階もあるこの建物には夏休みということもあり、大勢の人でごった返していた。

「とりあえず、ここにくれば必要最低限のものは揃うと思いますので、」
「そ、そうか・・・」

未だにぱちくりと目を瞬かせるリヴァイさんがなんだか可笑しくって、わたしはマスクの中でくすりと笑った。

自動ドアを入ると途端にうだるような暑さは消え、ひんやりとしたクーラーの風に冷やされる。

「なんだこの風は」
「クーラーといって、夏の暑い間は冷たい風を、冬の寒い間は暖かい風を出してくれるんです。」
「それは便利だな」

わたしの言葉に感心したように二回ほど頷くリヴァイさん。
エレベーターの前で紳士服のフロアを探し、ピッと上りボタンを押した。
そんなわたしの横でリヴァイさんは物珍しそうにエレベーターの扉や1階のフロアを見渡している。

「なあ、なまえ」
「、う、はい?」

リヴァイさんに名前を呼ばれて肩が少し跳ねる。
だいぶ彼と話すことには慣れてきたのだけれど、やっぱりまだ男の人に名前で呼ばれるのには慣れない。
そんなわたしの心なんて知らないであろうリヴァイさんはエレベーターを指差し「これはなんだ?」と聞いてきた。

「これはエレベーターといって、人を上の階に上げたり降ろしたりする機械です・・・あ、ちょうど来ましたね、乗りましょうか」
「あ、ああ」



△▽



「八階紳士服のフロアでございます」

エレベーターガールのお姉さんの言葉を背に、わたしとリヴァイさんはエレベーターを降りた。
エレベーターの中でもリヴァイさんは「こいつはなんだ」とエレベーターガールを指差したりするから本当に焦った。
他のお客さんもたくさん乗ってて笑われたし・・・心臓に悪い。
それにただでさえリヴァイさんは顔がものすごく整っているので目立つし・・・あうううう・・・

「おい、なまえ」
「は、はい?」
「あれはなんだ?」

スーツを着たマネキンを指差して質問するリヴァイさんに他のお客さんの視線が集まるのを感じて、わたしは深いため息をついた。

(もうこれ以上目立たせないでください・・・!)

とりあえずこっちへ行きましょう、と出来るだけ早歩きでこの場を去ると、日常的に着れる紳士服売り場に到着した。

「ではリヴァイさん、ここら辺で好きな洋服を買うので、気に入った物をこのかごに入れていってください」
「分かった。・・・すまないな」

ポン、とわたしの頭に手を乗せると、リヴァイさんはポロシャツのコーナーへと消えていった。
羞恥で顔が真っ赤なわたしを残して。

「〜〜〜!」

人生で初めて、父親やドラマ共演者以外の男の人から頭を撫でられた。
途方もなく恥ずかしくって、わたしはマスクを鼻の上まで押し上げてまっかっかになった顔を俯いて隠した。

(反則です、リヴァイさん・・・!)



△▽



「このくらいでいいか?」
「そうですね、しばらくはこれくらいあれば大丈夫でしょう」

リヴァイさんの選んだ洋服がぎっしり詰まった大きな袋みっつを眺めながらわたしは頷いた。

「おい、その袋はなんだ?」
「あ、これですか?」

リヴァイさんが洋服選んでいる間わたしが別のお店で買ってきた袋を見て首を傾げられた。

「一着だけわたしが選んで部屋着を買わせていただきました」

きっと似合うと思って・・・と呟くと、ありがとな、と再び頭をぐりぐりと撫でられる。あう、帽子ズレる!
わたしが恥ずかしさであわあわと慌てるのを見て、リヴァイさんはフッと笑った。

(あ、笑うんだ)

わたしはぼんやりとそんなことを考えた。
整った顔のリヴァイさんは仏頂面をしていてもかっこいいのだけれど、笑うともっとかっこよさがきわだった。
これでいろんな女の人をおとしたんだろうなあとか超どうでもいいことを考えながら、わたしも少し笑ってみせた・・・マスクで隠れているけれど。

「では、夕飯の材料を買いに行きましょう」
「ああ、わかった」

帰りがけに寄ったスーパーで、またあれやこれや聞いてくるリヴァイさんにわたしが恥ずかしさで気が遠くなったのは30分後の話である。

(なまえ、あれはなんだ)
(うあああ!恥ずかしい!!)





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