第一印象が大切です



「あ、あの、」
「あ?」
「ひっ・・・」

カチャ、と耳元で音がする。
わたしはここで、はじめて男の人に刃物を突きつけられてることに気づいた。
黒髪から覗く鋭い視線に冷や汗がつぅ、と背中を伝う感覚。

「もう一度聞く。ここはどこだ?」

どこだ?と聞かれましても、わたしからしてみれば貴方は誰なんですか。
半ばパニックになった頭でぐるぐる考えるのはストーカーとか変質者という類なのだけれど。
でもいま刃物をわたしは突きつけられてるのであって・・・もしかして、絶対絶命だったりするのかもしれない。

「おい」
「っひ、あ、な、なんです、か・・・」
「いい加減に答えろ。ここはどこだ?」
「と、東京ですが・・・」
「あ?トウキョウ?」

訝しげに眉を潜める男の人を見て、わたしの頭の中は真っ白になる。

「えええと、その、東京の中の、新宿区の、その、」

わたしはしどろもどろになりながら言葉を紡ぐ。
この人がどの答えを望んでるのか全くわからないけれど、とにかく喋り続けなくては、と本能が叫んでいた。

だけど、わたしの話を黙って聞いていた男の人の「ここは、ウォールマリア、ウォールローゼ、ウォールシーナのどこにあるんだ」とかいうわけのわからない言葉に、なんだか頭を抱えたくなった。



△▽



「・・・と俺は推測する」
「は、はあ・・・」

リヴァイさん、と名乗った男の人の話を一通り聞くとわたしはゆっくりと息を吐いた。

「つまり、異世界トリップ、ということでしょうか・・・」
「信じ難いが、この窓の外に広がる景色と、この家の中にある物などを考えるとそういうことになるな」

笑い飛ばせられたらどんだけいいだろう。冗談でしょう、いい加減にしてください。そう言いたかったけれど、リヴァイさんの格好や大真面目な顔を見る限り、嘘をついてるようには見えなかった。

改めてリヴァイさんの格好を見ると、緑のケープの下にはたくさんのベルトで服に金属の箱のような物を固定していた。
整った顔にアニメのコスプレみたいな格好をしているリヴァイさんは、本当に異世界から来た人のように思えてしまう。

「本当に、お前の住む街には巨人がいないのか?」
「は、はい・・・」

どうやらわたしがリヴァイさんに対して敵意を持ってないことがわかったらしく、リヴァイさんはとりあえず落ち着くために、とわたしが淹れたコーヒーを啜った。

リヴァイさんの世界は巨人が人間を支配している世界だという。人類は生き残るために高さ50メートルの壁を築いて、その中で暮らしている。リヴァイさんは巨人の殲滅を目的とした軍の兵士である。らしい。

「おい、女。名前は何て言ったか」
「ひ、あ、えっと、みょうじなまえです。あ、みょうじが苗字で、なまえが名前です」
「そうか。なまえ、暫く俺を住まわせろ」
「え、ええ!?」

頭が真っ白になる。
今、この人は何と言ったのか。わたしの耳が間違っていなかったら、暫く住まわせろと言った。わたしの家に。彼を。
皆さんお忘れではないでしょうか。わたしは、せーの、コミュ障ー!

「え、あの、その、無理です」
「あ?」
「ひいいっ!と、とにかく無理です!男の人が、年頃の一人暮らしの女子の家に住むだなんてそんなふしだらな・・・」
「安心しろ。てめえみてえなガキ興味ねえ」
「お、同い年くらいじゃないですか・・・!」
「あ?俺は27だぞ」
「えええ!?」

わたしと同い年くらいだと思っていた男の人はまさかのアラサーでした。まる。

「いやいやいや、だからってやはりわたしの家に住むのはだめです!」
「・・・ほう」

わたしが慌てて言うと、リヴァイさんは不敵に笑う。
・・・ガン!と凄まじい音がしてわたしの隣にあったクッションにリヴァイさんの拳がめりこんでいたのはほぼ同時のことだった。

「ひいいあ!?」
「俺を住まわせるか、この座布団の二の舞になるか、どっちかだ」
「そんな・・・!」

というかクッション殴ってなんでそんな擬音が出るのか分かり兼ねます・・・。

どうしよう。どうしよう。どうしよう。
ほぼ真っ白の頭で必死に考える。
仮にもアイドルであるわたしの家に男の人が住んでることがわかったらどうなるの、とか。
極度の引っ込み思案であるわたしの家に彼を住まわせたらわたしがストレスで死んでしまいそう、とか。

でも、と考える。
もし自分が異世界トリップをしてしまったとして。
きっとわたしだったらどうすればいいのかわからなくなってしまって。きっと、そうだ、とても心細くなってしまうだろう。
目の前の仏頂面のこの人はどうか知らないけれど、きっと少しは不安に違いない。
助けて、あげたほうがいいのかもしれない。

「わ、かりました・・・でも、ひとつだけ、お願いしたいことがあります」
「なんだ?」

ぎこちなく息を吐くと、わたしはまっすぐリヴァイさんを見つめた。

「わたしの家に住んでいる間は、暴力は、やめてください」
「・・・善処しよう」

家族や仕事以外では、はじめての男の人との関わり。
不安しかないけれど、少しだけ頑張ってみようか。

「これから、よろしくお願いしますね、リヴァイさん」
「、あ、ああ。よろしく頼む」

へにょりと笑って見せるとリヴァイさんは一瞬驚いたように目を見開いてから頷いてくれた。

これが、すべてのはじまり。





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