非日常へのご挨拶




家のドアを開けたら、見知らぬ人がいた。



「おつかれさまー!今日もよかったよー!」
「なまえちゃん今日も可愛かったよ!おつかれさま!!」
「ありがとうございまーす!おつかれさまです!」

スタッフさんやカメラマンさんからの言葉ににこにこ笑いながらお礼を言う。
見送られながら車に乗り込み、笑顔で頭をさげた。


わたし、みょうじなまえはアイドルというものをしている。
歌ったり踊ったり、時にはバラエティとかドラマなんかもでて、自分で言うのはちょっと恥ずかしいけど、一応そこそこ売れてるアイドル・・・なのかな。

明るくて元気が売りのアイドルなのだけれど、そんなわたしには一つだけ秘密がある。

「もう、見えないんじゃない?」
「ほんと?・・・はぁあ」

少し車を走らせた所でのマネージャーの三上さんの声に、わたしは盛大にため息をついた。

「緊張したあ・・・」

アイドルの秘密・・・それはわたしが極度の引っ込み思案であるということ。
人前が苦手。笑顔が苦手。そんなアイドルなんてあんまりいないと思う。
そもそも、両親が芸能事務所にわたしの写真を送りつけなければ、アイドルなんてやらなくて済んだのに。

良く言えば引っ込み思案で恥ずかしがり屋。悪く言えばただのコミュ障。そんなわたしを心配して両親がやってくれたことなのだけれど、本当にありがた迷惑な人たちだと思う。

「そういえばなまえ、ライブの話だけど、」
「ライブ・・・」

三上さんの話で一気に現実に引き戻された。
来月に控えたワンマンライブのお話らしい。ライブって知ってる?大勢の人の前で歌って踊るんだよ?大勢の、ひとの、まえで・・・

「三上さん・・・やっぱ、ライブキャンセルは・・・」
「無理ね」
「うああああ」
「(大丈夫かしら・・・)」



△▽



「じゃあね、来週までにどっちの衣装にするか決めておいてね」
「うう。・・・はい」
「明日は久々のオフだからゆっくりしてて。明後日は今日撮影したポスターを確認するから事務所に12時にきてちょうだい。」
「はい・・・」

スラスラと予定を確認すると三上さんはそれじゃあ、と車を発進させる。

「あ、それともう一つ」
「?」
「夏休みで大学がないからってあんまり家に閉じこもってちゃだめよ。彼氏の一人や二人つくっちゃいなさい!」
「!?・・・三上さんのばかあ!」

あはははは!と笑いながら去って行く三上さんを見送ると、わたしは深いため息をついた。
事務所的には問題はないんだろうけど、やっぱりアイドルが彼氏とか作るのってどうなんですか。

「あ、わたしプライベートで男の子と喋ったことなかった。」

アイドル以前の問題だった。はあ・・・。



△▽



コツコツ、と少しヒールのある靴で小娘の一人暮らしにしては豪華で広すぎるマンションの廊下を歩く。

夏休みということでしばらく大学はない。今日のお仕事はポスター撮影だけだったから、午前中に終わってしまった。
午後はなにをしようかな。
そんなことを思いながら家のドアを開けた。



そんな時。



「え、」

家の中に見知らぬ人がいた。
スチャリ、と音がしたのはほぼ同時。

「え、あ、え??」
「おい、女。答えろ。ここはどこだ。」

眉間に深々と皺を刻んだ男の人がこちらを睨んでいた。





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