深夜二時のナイトメア



強い血の匂いがする。嫌だなあ。そう思った。
古い町並み。家が潰れている。女の人が瓦礫に挟まれて出られなくなっている。綺麗なひと。
子供が三人、瓦礫を退けようと必死になっている。あれ、あの子、わたしに似てる。

『カルラさん!!嫌!!嫌あぁ!!』
『母さん!俺が助けるから!!』
『エレン、ミカサ、なまえ、逃げなさい!!』
『嫌ぁぁぁ!!!』





『おい、なまえ、なんだコレは?』
『わかりません・・・』
『なまえ、本当に心当たりないの?』
『ないですよう・・・三上さん、これって・・・』

着信アリ:18件
留守電メッセージアリ
そんな文字が無機質に表示されているなまえのスマホを囲んでリヴァイと三上が眉根に皺を寄せる。泣きそうななまえの頭を優しく撫でると、三上は深刻に呟いた。

『悪戯だといいんだけど・・・タチ悪いわね。これ、たぶん・・・』
『何だ?』
『ストーカーよ』

三上が留守電メッセージの再生ボタンを押す。数秒のノイズ音の後に聞こえてきたのは、

≪あいしてるよ、なまえちゃん≫

歪んだ愛のこもったメッセージだった。





海が見える。夕日がなまえとリヴァイを照らしている。リヴァイの足が、消えかかっている。

『なまえ、必ずだ。必ず、また会いに来る』
『リヴァイさん・・・』
『俺は必ず巨人を殲滅する。そしてまた、お前の世界に来ると約束する』
『・・・はい』
『        』
『え・・・?』
『        』





△▽



「はァ・・・っ!」

なまえは飛び起きると辺りを見回した。
薄暗い明かりの中、見慣れた自分の部屋の景色に胸を撫で下ろす。

(なに、いまの夢・・・)

夢にしてはあまりにもリアルで、あまりにも残酷な夢だった。
ぼんやりと靄がかかる記憶の中、なまえは必死に今の夢を思い出そうとする。

一つ目の夢。これは全然わからない。以前夢で見た大きい裸の人間に、女の人が食べられそうになっていて、子供が三人瓦礫を掻き分けていた。あの子供のうちの一人が、わたし?そんなわけない。だってこの世界には巨人なんていないのだから。

二つ目の夢。これはものすごくリアルだった。わたしのスマホを囲んで三上さんとリヴァイさんが深刻な顔をしていた。ストーカーがあらわれた、そんな内容だった気がする。

ふ、となまえは隣で眠るリヴァイを見た。ぐっすり眠るリヴァイの寝顔は案外幼くて、とてもじゃないが人類最強とは思えない。

(安心、するなあ)

リヴァイがこの世界に現れてから一ヶ月がたった。なまえは当初の人見知りは何処へやら、リヴァイに対して吃ったり素っ頓狂な声をあげることはなくなった。
嬉しいと思う反面、最近はリヴァイといるとどうも動悸が早くなったり、変に緊張したりしてしまっているのだが。

そういえば、と三つ目の夢を思い出す。あれはおそらく、リヴァイさんが帰る夢。帰らないで欲しいって思ってるのかな、わたし。変なの。早く元の世界に帰してあげたい筈なのに。
それに、あの言葉。リヴァイさんは最後何を言おうとしてたんだろう。波の音に掻き消されて、肝心なところが上手く聞き取れなかった。

(まあいっか、夢だし。)

そう思って、なまえは横になって目を閉じる。チクリと一瞬痛んだ胸から目を逸らそうとして、再び微睡んだ世界に足を踏み入れた。



まさかこの夢の出来事が全て未来に起きる出来事だ。なんて。

あるわけないと信じていた。





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