警視庁・諜報部

9



 アッという間に十二月になった。
 気温はグッと低くなり、ドンヨリした雲が寒さを余計助長させるように流れる頃。

「…よ、ろしくお願いします」

 マドンナちゃんは諜報部≠ニパネルがついた小部屋に緊張しながら入り、頭を下げた。

 急遽誕生した新設部署ということで、二十人くらいのキャパの空き会議室を改造した部屋が諜報部の居室だった。
 機密情報も扱うため、他の部署とは隔絶された空間である。
 部屋の中はサイバー課から持ち込まれたパソコンや大きな電源が所狭しと並んでおり、個人デスクと椅子が至る所に配置されていた。

「お、きたきた」

 既に居室の中には三人の男が思い思いの場所で寛いでいて、そのウチの一人が「お嬢のデスクはソレな」と一番日当たりの良い場所を顎で示した。

「ミナミ先輩!」
「久しぶり」

 彼はミナミ先輩という。
 元・サイバー課の東南トンナンコンビの一角であり、仕事はできるが死ぬほど腹が黒いと有名な男である。
 爽やかな短髪に黒縁メガネのインテリ。琥珀色の切れ長な瞳を持つハンサムな男だ。
 彼は警視庁警察学校第103期生──つまりマドンナちゃんの一期上の先輩であり、交番勤務をたった半年で終わらせてサイバー課に引き抜かれたエリートである。
 交番勤務自体をすっ飛ばした降谷やマドンナちゃんはさておき、ミナミ先輩も十分すぎるくらい優秀な男なのであった。

 さてマドンナちゃんはミナミ先輩の姿にパアッと顔を輝かせて走り寄った。
 知り合いがいると心強いし、何より彼は情報の集め方を教えてくれた師匠なのだから。

「ミナミはソイツと知り合いなのか?」

 ミナミ先輩の奥に座っていた厳つい顔のお兄さんが銀縁メガネをクイッと上げながらマドンナちゃんを見た。
 彼は東南コンビのもう一角──ヒガシ先輩だ。警視庁警察学校95期出身の三十五歳。仕事はできるが死ぬほど素行が悪いと有名の男である。
 七三分けの黒髪に神経質そうな表情。趣味は筋トレと豪語するだけあり、鋼の肉体はスーツの中に苦しそうに収まっていた。敏腕銀行員というよりもインテリヤクザみたいなナリである。

「あ、ハイ。四年前くらいかな…喫煙所で意気投合して」
「その節はお世話になりました」
「いえいえ」

 ミナミ先輩とマドンナちゃんは顔を見合わせ「懐かし」という顔をした。

 あれは四年前。例の萩原の事件の直後、マドンナちゃんが闇雲に情報を集めようとしていた矢先のことである。

『な、お前マドンナちゃん≠セろ?』
『…あ、はい。そうです…あなたは、えっと…』
『ミナミ。お前らの一期上』
『じゃあ、えっと…サイバー課の』
『あぁ知られてたのか』
『有名人じゃないですか』
『お前ほどじゃないさ』

 一期上のサイバー課にバケモンみたいに優秀な先輩がいる。という噂を知っていたマドンナちゃんは「お会いできて嬉しいです」と笑った。
 それからちょっとだけ悩み、考え、小さく息を吸って、ミナミ先輩に頭を下げたのだった。

『ぅお、何だよ』
『お願いします! 情報収集のノウハウを教えてください!』
『意味がわからん。…あー待て。分かった気がする。アレだろ? こないだ爆破されたヤツってお前の同期の…』

 ミナミ先輩はスグにピンときた顔で言った。彼は一瞬でマドンナちゃんの思惑に気付いたのだ。バケモンみたいに優秀、という噂は嘘ではないらしい。
 マドンナちゃんはこれに小さく頷き、バチッと強い目でミナミ先輩を見上げた。大きな瞳から燃えるような決意が滲む。

『私、どうしてもやり遂げたいことがあるんです。でも、圧倒的にチカラが足らない。知識がないんです。…だから、』
『俺に教えを乞いたいってワケか』
『はい。貴重なお時間を頂戴してしまうことにはなるのですが…』

 マドンナちゃんは必死に頭を下げた。
 ミナミ先輩はこれに戸惑ったように頬を掻き、マァしかしかわゆい女の子に頼られて嫌な気持ちにはならなかったので。

『いいけど。俺スパルタだぞ?』

 と笑って頷いたのだった。
 それから宣言通りミナミ先輩に情報収集のノウハウを叩き込まれ、ハッキングのやり方も教わり、一種の師弟関係を築いていった。
 その頃からミナミ先輩にはお嬢≠ニいう愛称で呼ばれ、マドンナちゃんはかわゆい愛弟子となったのだ。

 その懐かしいエピソードを聞いたヒガシ先輩は「ふぅん」と興味なさげに天井を見上げてから、

「…待て、つーことはだ」
「なんすか」
「お前、あん時俺に隠れてヤニ休憩行ってたってことだよなァ?」
「は? 違うでしょあの時ヒガシ先輩トイレでアイコス吸うのハマってて毎日事務さんに怒られてあでででで」
「それは今関係ねェだろ。俺が言ってんのは、テメェごときが休憩を一人で取ってんじゃねェってことだ」

 徐にミナミ先輩にヘッドロックをかけて制裁をし始めた。
 こういうことを常にしているので東南コンビと敬遠されているのである。

 マドンナちゃんはそんな二人をあわあわしながら傍観し、しかし先ほどのミナミ先輩が言った「トイレでアイコス」という言葉にあれ…? と思い、

「もしかして、ヒガシ先輩の中学の時のあだ名って物知りメガネ≠ナした?」
「あ゛ぁ゛!?」

 睨まれた。
 そらそうである。暴言だからだ。

「嬢ちゃん、何でそんなこと知ってんだ? 俺のファンか?」
「あ、すみません…警視庁入庁のしおり≠ノ書いてあったもので…」
「警視庁入庁のしおり?」
「懐かしいな。俺が書かされたんだよソレ。一期下のコウハイが入ってくるんだからって…」
「…やっぱテメェかミナミィ……」
「あでででで」

 ミナミ先輩はヒガシ先輩に再びシメられた。そらそう。
 何はともあれ、ヒガシ先輩のことも(死ぬほど間接的にだが)知っていたので、マドンナちゃんは再びホッとした。

 ──そして、残るもう一人も。

「マドンナちゃん…」
「あ…もしかしてティモンくん…?」
「ボ、ボクのこと覚えててくれたの!?」

 部屋の隅っこに目立たないように座っていた男がピョコ、とマドンナちゃんの隣にやってきた。
 地味な顔に小柄な身体の、どこにでもいそうな男である。

 が、マドンナちゃんは彼のことを知っていた。
 彼は警察学校時代の同期であり、マドンナ協会員でもあり、さらにはマドンナ協会の諜報部員を担っていた男だからだ。
 よく芹沢が「ティモンはすげぇよ」と言っていたのを知っているし、警察学校対抗体育祭では彼のお陰で相手チームの動向を知ることもできた。
 そこで培った能力を生かし、公安の諜報部員として優秀な働きをし、この度諜報部に抜擢されたというワケだ。

 余談ではあるが、ティモンくんはマドンナ協会の誰よりも早く警視庁に入庁し、マドンナちゃんの情報を協会に報告していた働き者である。
 もちろんプラーミャとの一件や、連続爆破犯とのあれこれ、警視庁の妖精さんの正体なども協会に報告し、マドンナちゃんの武勇伝の語り部となった男なのだ。

「嬢ちゃん、ティモンってなんだ? 確かソイツの名前は…」
「あぁ、タカギシくんですよ。でも彼、警察学校ではティモンって呼ばれてたので…」
「ボクの本名も覚えててくれたのッ!?」

 ピャ! とティモンくんは顔を真っ赤にしてふうふう言いながら照れていた。本当に愛いヤツである。
 ヒガシ先輩とミナミ先輩は「ふぅん」と頷き、それからマドンナちゃんとティモンくんに向かって右手を差し出すのだった。

 素行の悪いインテリヤクザ・ヒガシ先輩。
 ヒガシ専用腹黒サンドバッグ・ミナミ先輩。
 地味顔の頑張り屋さん・ティモンくん。
 元・警察の顔の妖精さん・マドンナちゃん。

 この四人で、新生・諜報部の発足である。





「…マ知ってるヤツも多いと思うが、この部署に直の上司はいない」

 全員の自己紹介及び握手を済ませ、マドンナちゃんが淹れたお茶を飲んでホッと一息ついたところである。
 一番年長のヒガシ先輩が偉そうに机に頬杖をつきながら話した。

 この部署専属の上司はいない。また、この部署は他のどの部署にも属さない。
 なぜなら、各メンバーが刑事部・警備部・公安部・地域部をそれぞれ担当し、彼らの仕事に必要な情報を集め、まとめ、サポートするのがこの諜報部の仕事だからだ。

「マァ一応総務部の部長が兼任してこの部を見てくれるらしいから…なんか困ったことがあれば…」
「………」
「俺でいい。俺に言え」

 総務部長の名前を聞き、マドンナちゃんはイ゛ーッという顔をした。
 彼は四年前からマドンナちゃんの敵であり、ひと月前に三行半をつきつけた相手なのだから。

「総務部長は嫌いか?」
「嫌いです。…が、仕事は仕事ですから。私はやるべきことをやるだけです。レポートラインは関係ありません」

 これにヒガシ先輩はハッと鼻を鳴らして笑い、「いいオンナだな」と呟いた。気の強い女が好きなのだ。

「あーだめですようヒガシ先輩。マドンナちゃんにはカレシがいるんですから…松田くんっていう怖ぁいカレシが」
「松田?」
「ミナミ先輩、彼のこと知ってるんですか?」
「あー…マァちょっとな。昔一回だけ喋ったことがある。髪の毛ボワボワのヤニカスだろ?」

 どうやら東南コンビは二人ともタバコのことをヤニと呼んでいるらしい。
 ティモンくんが頷くと、ミナミ先輩は「あー…」という顔でヒガシ先輩を気の毒そうに見やった。

「アイツ多分喧嘩強いっすよ。ヒガシ先輩筋トレ好きなだけで喧嘩ァ弱いんだから、人のオンナに手ェ出すのはやめ…あででで」
「俺ァガキにゃ興味ねンだよミナミィ…それに俺はアンミカさんしか興味ねぇ」
「暴力って二百種類あんねん…!」

 口答えしてきたミナミ先輩は再びギチギチにシメられた。
 マァしかし既にマドンナちゃんとティモンくんはこの数十分で慣れてしまったので、呑気にお茶を啜ってホワホワしていた。

「…あー、何の話してたっけ…そうそう総務部長の話だ。半期ごとのOJT評価者は総務部長だ。だが実務で困ったことがあったら迷わず俺に言ってくれればいい。で、担当だが…」

 ミナミ先輩をシメるのに飽きたヒガシ先輩がぬるくなったお茶をグイ、と一気に流し込んで話した。

「ティモンは引き続き公安絡みをやってくれ。今までの仕事の延長だ。簡単だろ?」
「あれ、ティモンは潜入やってたんじゃなかったのか?」
「ええボクは体育会系じゃなくって…。潜入よりも情報集めのが得意でして。主に潜入捜査官への情報の受け渡しをやってました」
「ふぅん」
「ミナミは地域部全般」
「ゲ、一番デカいヤツ振ってきやがった」
「規模はデカいが小粒だ。我慢しろ。…俺は警備部。マァ一番案件は少ないが一個一個が重いヤツを引き受ける。…で、嬢ちゃんは、」
「刑事部ってことですね」
「オウ。花型だぞ」
「なんやかんやお嬢が一番忙しいかもな。大粒で規模がデカい」
「それだけ期待されてんだ。頑張れよ」

 ──期待されてる?
 ──違う。これは挑戦状だ。
 ──部長たちから、私への挑戦だ。

 ヒガシ先輩の言葉にマドンナちゃんは力強く頷き、意気揚々とノートパソコンを肩掛けカバンに詰め込んだ。

「挨拶行ってきます」
「オウ。気ィつけてな」
「なんでパソコン?」
「私の座右の銘・備えあれば憂いなしなので」
「は、なるほどな。行ってこい」

 お嬢はニコ! とパワフルに笑って諜報部の居室を出て行った。
 残された男たちは「俺たちもアイサツ行くか~」とダラダラ伸びをして。残ったお茶を一気飲みして。

「やっぱいいオンナだな」
「俺もそう思います。マァ人のなんで手は出しませんけど」
「マドンナちゃんの笑顔見ると元気が出ますよね。ボクも頑張ろ」

 お嬢のパワーに当てられて、全員ニコニコヘラヘラしながら立ち上がるのだった。



△▽



「こんにちは。本日から諜報部に配属され、主に刑事部を担当することになりましたみょうじなまえです。」

 さて場面変わって刑事部の居室である。
 真っ黒のスーツを着た男たちは、目をウットリハート型にして一人の女を眺めていた。

 清らかな天使が笑顔を振りまいていたからである。
 その美貌は朝日に照らされてキラキラ輝き、スラッとした脚が、細っこい腰が、ふわふわの胸がイチイチ眩しく訴えかけてくるのだ。

 自己紹介が終わったマドンナちゃんは、誰か話しかけてくれるかな…と淡い期待を抱いていたのだが。

「ヤバいぞすげぇいい匂いする」
「お花畑かな…」
「誰か話しかけろよ」
「無理だよお前いけ」
「お願い誰か先月の連続爆破犯逮捕への貢献のお礼言って!」
「無理だって話しかけたらきっとオレ浄化される」
「カ、カレシとかいるのかな…立候補しちゃおうかな…」
「ざっけんな! マドンナちゃんに言い寄ろうなんぞ百年早い!」
「暴動だ! 暴動だ!」

 誰も直接は話しかけて来ず、しかし遠くから口々に囁かれるお褒めの言葉に「えっと…」と困ったみたいに頬を掻くのだった。

 男たちの興奮は仕方のないことである。だって今まで警察の顔≠セった高嶺の花が急に自分たちの目の前に立っているのだから。
 今までテレビの中でしか見たことがなかった人気アイドルが同じクラスに転校してきたのと同じことだった。
 ので、口々に興奮を囁きあうものの直接喋りかける勇気はない。

 だって彼女は、肉眼で見るにはあまりにも美しすぎた。天使か女神か妖精の類の整い方である。
 そのあまりの美しさに、白鳥は真っピンクのハンカチで何度もかけてもないメガネを拭い(エアメガネなのでただ空間を擦っているだけである)、千葉は後輩の高木から顔の下の贅肉をタプタプされ、本日付で捜査一課に赴任してきた伊達は「どこも変わらんなァ…」と遠巻きに呆れ笑いをするしかなかった。なに、今目の前で繰り広げられている光景は親の顔より見てきた光景なのだから。

 マァしかしいつまでもこのままではいけないので、代表して捜査一課の若頭・目暮が「オホン」と空咳をして男たちを黙らせた。

「キミたち、気持ちはわかるがあまり彼女を困らせないように」
「…サセン」
「ごめんさい…」

 これに男たちは「すません」「めんなさい…」とスゴスゴ後ずさった。なに、尊敬する目暮に諭されたのが恥ずかしかったからだ。
 目暮はそんな男たちに苦笑してから、困り顔の彼女に「すまないね」とウインクした。キュッと両目とも瞑る、オジサン特有のヘタクソなウインクである。

「目暮だ。役職は警部。捜査一課の担当をしている」
「よろしくお願いします」
「刑事部は荒くれ者が多いが…マァ気のいいヤツばかりだから安心してくれ。何か困ったことがあればワシに言ってくれ…あ、でも松田君のが言いやすいかね?」
「え?」
「彼とは警察学校時代の同期だったと聞いてるんだが…もしかしてあまり仲良くなかったのかい?」

 一瞬マドンナちゃんは固まるが、どうやら彼とコイビト関係だということがバレているワケではないことを知り少しだけ安心した。
 別に、もう警察の顔を辞めた今となっては彼との関係を隠さなくてもよくなったのだが。それでも仕事で密接に関係するようになったことで、余計な印象を周りに持ってほしくなかったからである。
 ある程度の信頼関係ができるまでは彼のカノジョだという事実を知られたくはなかった。

「いえ彼とは…警察学校時代同じ教場でしたし、仲良くはしていただいておりました。ので、何か困ったことがあれば彼に言ってみます。もしくは伊達くんに」
「あぁ伊達君もそうか。同期だったね」
「そうっすね。…でもマァ、お前的には松田のが言いやすいんじゃないか? だってお前ら…」

 なまえに「よろしくな」と声をかけようと近付いてきた伊達が話に入ってきた。ちょうど自分の名前が出たからだ。
 だってお前ら付き合ってんだし。と言おうとして、マドンナちゃんの鋭い視線を感じて「グ」と黙る。

「…あー…仲良いもんな」

 伊達は咄嗟に言葉を変えた。
 そうか、ビジネスパートナー同士の惚れた腫れたは嫌だよな…と。あの問題児たちを束ねていた男だ。こういう気遣いは人一倍うまい。

 これに目暮は「よかった」と呟いて息を吐いた。
 あの問題だらけの松田のことだ。もし彼女と仲が悪かったら仕事に支障が出ると心配していたのだ。
 それに彼の同期の伊達が赴任してきたのも大きい。今後松田が問題行動を起こした時は迷わず彼に止めてもらえばいいのだから。

 がしかし、今のカミングアウトに愕然とした人間たちもいた。密かに松田を想う事務の女の子たちだ。
 彼女たちは直接的に松田に対してアタックはしたことはないものの、さりげなくボディタッチをしようとして失敗したり、さりげなく飲み会の席で隣に座って逃げられたり…と惨敗続きのかわいそうな女の子たちである。

「え、まさかのマドンナちゃんが松田さんの同期…?」
「しかも仲良しって言ってた…?」
「そりゃあんな美人が同期ならウチらが相手にされないワケだわ…」
「目が肥えまくってるハズだわ…」

 と、シオシオになって悔しがるのだった。

「すまないね。彼は今、相方の佐藤くんと出てしまっているよ」
「いえ、問題ありません。確かに彼にも挨拶したかったですが…またの機会に取っておきますね」

 ふわ、と笑ったなまえに目暮も微笑み返しながら、「本当にこの子がそんなに優秀なのか…?」と疑問に思った。
 確かに、マドンナちゃん≠ニ呼ばれているだけあって、顔は抜群に良い。性格も良さそうだし利発そうだ。オーラもある。
 が、内示をひっくり返すほどのチカラを持っているようには見えなかった。目暮は今回の異動の経緯を軽く聞いていたのだが、そう≠ノは見えなかった。
 国際指名手配犯や連続爆破犯を捕まえたり、妖精さんとして自分らをサポートできるような…小耳に挟んだ武勇伝を実践した女だとは信じられなかったし、部長たちにタンカを切るような女には到底思えなかった。

 ──噂は所詮噂なのか…?

 目暮が抱いた疑問は最もだった。ふわふわ笑うこの女は、到底そんなことをできるような女にはパッと見は分からない。

 しかし、その数分後。
 目暮はその実力を目の当たりにすることになる。





「目暮警部! 通報がたった今入りました! 米花町で強盗事件発生。犯人は車で逃走中。米花銀行から通報です!」

 穏やかな空気は、鋭い声によって簡単に掻き消えた。
 今まで遠巻きにマドンナちゃんを見て鼻の下を伸ばしていた男たちは急にキリッとした顔になり、一瞬で蜂の巣をつついたような騒ぎになる。

「マジか!」
「どの班が行ける!?」
「白鳥班集合」
「誰か外回りしてねぇのかよ」
「松田・佐藤コンビがちょうど出てる!」
「オイ誰か連絡しろ! 連携とれ!」

「犯人の車、特定しました」

 騒然とする居室内は、かわゆい声によってピタ、と水を打ったように静まり返った。

「マドンナちゃん…?」

 誰かのデスクの上で持ってきたノートパソコンを開いてカタカタさせる女が発した声である。
 女の澄んだ瞳にパソコンの四角いライトが反射する。
 薔薇色の唇をキュッと結んで画面を睨む横顔は、先ほどまでほろほろ笑っていた女と同一人物とは思えない。
 完全にスイッチを切り替えているのだ。

「たった今、米花銀行付近の監視カメラの履歴を探り、犯人の車を特定しました。白のワゴン。スズキ製。犯人は五人組。杯戸町方面に向かって逃走中」

 女──マドンナちゃんの備え≠ェ功を奏した瞬間である。
 この異様な状況に、刑事たちは「え」という顔で立ち竦む。淡々と話す美貌は冷たいほどに整っていて恐怖すら感じたのだ。

「松田刑事には連絡済みです。現在向かってくれています。が、先ほど申し上げた通り犯人は五人集団。応援で何人か向かった方がよろしいでしょう。どなたか私も連れて行ってください」
「し、しかし…」

 目暮が渋い顔で言い淀んだ。
 確かに彼女の迅速な情報収集力や冷静な判断は舌を巻くものがある。だからといって、この華奢な女──悪い言い方をすれば足手纏いを現場に連れて行っていいものだろうか…と思ったからである。

 目暮の考えていることなど、マドンナちゃんには手にとるように分かった。
 ので、「いいですか?」と前置きを置いてから。

「私の仕事は皆さんのサポート≠ナす。ここで情報を収集してどなたかにお伝えして動いてもらうよりも、その場にいてリアルタイムの情報をお伝えした方が一分以上も早い。情報は水物です。早い方がいいに決まっています。なので連れて行ってください。大丈夫。自分の身は守れますから」

 と、畳みかけるように言い切ったのだった。
 それからゆるりと伊達を見上げた。「お願い」という媚びた視線で。

「…ったく…」

 伊達は乱暴に頭をガシガシ掻き、「俺らの姫さんは変わんねーなァ…」とごちる。
 警察学校時代から変わらない。意志の強さも、瞳の奥で眩く光る輝きも。

「すいません目暮サン。コイツ連れてって構いませんか? マァ生憎俺にゃまだ相棒がいないんで、もし刑事がペアで動かなきゃいけねぇなら誰かもう一人…」
「…ぼ、僕が行ってもいいですか!」

 これに名乗りを上げた者がいた。高木である。
 高木渉巡査。松田と同じタイミングで捜査一課に赴任してきた新米刑事である。
 オマケに所轄時代伊達のパートナーとして働き、松田の相方の佐藤に一目惚れをした縁深い人物だ。

「高木君か…相方は?」
「病欠です。なので僕を今日かぎりでいいので伊達さんのパートナーにしてください。佐藤さ…ア、伊達さんの力になれるよう頑張りますので!」
「本音が透けてんぞ高木ィ…マいいや、ワタルブラザーズ再結成だな」
「よろしくお願いします!」

 頭を下げる高木に、目暮はそれ以上何も言えなかった。
 若い者がこうしてやる気を出しているのだ。応援してやるのが自分ら年長者のすべきことではないのか──と。

 ので、「分かった。じゃあ念の為ワシも行こう」と頷き、意気揚々と居室を出ていく伊達たちの後に続くのだった。



△▽



「伊達くん、その信号右。松田くん、その角で待機。十秒経ったら発進して三つ目の角を左」
「任せろ」
『了解。…佐藤、今の指示通りに頼む』
『で、でも犯人の車はどこにも…』
『いいから、言われた通りにしろ』

 異様な光景だった。
 目暮は額から吹き出す汗を拭いもせずに、横に座る女を唖然とした表情で見ていた。

 目暮が乗る車を運転するのは伊達。助手席には高木が座っている。目暮とマドンナちゃんは後部座席で揺られていた。
 マドンナちゃんはパソコンから一度も目を離さず、運転する伊達とスマホに向かって永遠に指示を飛ばしていた。

 が、その指示が変なのだ。
 普通であれば、覆面のまま犯人の車を追いかけ、逃げられないギリギリまで追い詰めて捕まえる。
 しかしなまえはスグに両車にサイレンをつけさせ、警察車両であることをアピールするように命じた。
 その状態で、犯人の車を直接追いかけることはせず、あっちへこっちへあらぬ方向に行くように指示を飛ばしていたのだから。

 ある時は犯人の車とは逆方向に向かわせたり、同じ場所をひたすらグルグル走らせたりと、まるで迷走しているかのような指示である。
 それ以上に、この車を運転する伊達も、通話相手である松田も何も疑問を持たずに指示を遂行しているのが異様だった。

 この状況に戸惑っているのは目暮だけではない。助手席の高木も「え、え?」と首を傾げているし、電話口から漏れ聞こえる声からも佐藤が戸惑いながら運転しているのが分かった。

 目暮はゴクリと生唾を呑み、ズレてもいないハットを被り直す。
 まるで、何かとてつもないことをしているような。そんな予感がしたのだから。

「──かかった」

 ひらけた川沿い。車通りの一切ない道路に出た瞬間である。
 マドンナちゃんがボソリと呟いた。

 その声に目暮は引っ叩かれたように前を見る。

 白のワゴンが急ブレーキで止まっていた。
 その奥から、佐藤が運転する真っ赤なマツダのRX―7が止まり、見事犯人を挟みうちにしたのだと知った。
 民間人を一切巻き込まないであろうこの場所で。

「ま、まさか、このために…!?」
「詰将棋、得意なんです」

 驚愕する目暮に、なまえはやわこく笑って続けた。

「これで犯人は袋の鼠も同然。煮ても焼いてもよろしい」

 と。まるでギロチンの刑を言い渡す女王の風格で。

「ッシャ! 行ってくる」
「ぼ、僕も行きます!」

 慌てて車から飛び出し走って逃げようとする犯人たちを見て、伊達が気合を入れて運転席のドアを開け、高木も後に続いた。
 向こうの車から松田と佐藤も駆け寄ってくる。

「嘘だろ嘘だろ嘘だろ!」
「残念だったなァ…俺たちにゃ勝利の女神がついてるもんで」
「おとなしくしなさいッ!」
「クソッ!!」

 逃走しようとした犯人たちは四人刑事たちによっていとも簡単に制圧された。
 投げられ、締め技をかけられ、蹴り飛ばされ、全員が地面に「伏せ」の体勢で転がされた。

 が、刑事四人に対して犯人は五人。つまり一人で二人の犯人を担当する男がいた。伊達である。
 近くにいた松田は「マ班長なら大丈夫だろ」と自分の下に這いつくばる男を締め上げていたのだが──、

「グッ! 離せ!」
「あ、オイ!」

 やはり渾身の力で抵抗した犯人には敵わなかったようで、伊達は一人取り逃がしてしまったのだった。
 この事態に、刑事たちは「ヤバい」と焦った。
 スグに追いかけたいのだが、如何せん自分たちもそれぞれ犯人を押さえつけているのだ。

「くそ、!」

 後部座席で若者たちの大立ち回りを呑気に見ていた目暮が慌てて出て行こうとした瞬間。

「だから煮るなり焼くなりしていいって言ったのに。ぬるいのよ」

 弾丸のように後部座席から飛び出した女が、逃げ出した犯人に一瞬で追いつき、右腕を捻り上げて地面に押し倒した。
 ──言わずもがな、マドンナちゃんである。

 艶やかな髪を風に靡かせて走る横顔は、まるで城から逃亡するお姫様のように美しかった。
 その髪も、翻るジャケットも、コンクリートを鳴らす高いヒールも、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
 
 その美しさに刑事たちはポケッと見惚れていたため、気付いたら犯人が地に伏していた、というワケだ。

「えーっと、こういう時なんて言うんだっけ。…あ、そうだ、逮捕しちゃうぞ」

 かわゆい声のお姫様は、押し倒した犯人の上に乗っかったまま。ポケットの中に入れていた社員証の首輪部分の紐をブチッと千切り、鮮やかな手捌きで犯人の両手首を縛り上げた。

 そして唖然とした表情でコチラを見る刑事たちを振り返って、困ったように眉を下げて言うのだった。

「ごめんなさい、どなたか手錠二つ持ってませんか?」

 と。



△▽



「おッ」
「帰ってきた帰ってきた!」
「お疲れーッ」
「マドンナちゃん大手柄!」
「ヤバいヤバいヤバい手が震える」

 応援に駆けつけた刑事たちと犯人を分担し、最寄りの警察署に送り、銀行に盗まれたお金を返し、諸々の諸手続きを終わらせ、漸く警視庁に戻ってきたマドンナちゃん御一行を迎えたのは割れんばかりの拍手と歓声だった。

「女神様。握手してください!」
「憧れてます。本日マドンナ協会に入会しました!」
「ヤ正直舐めてた! 俺を殴ってください」
「なァビールかけしようぜビールかけ!」
「なんで部外者がここにいるんだ? お前鑑識だろ」
「どうもコンニチハ。マドンナ協会会長の芹沢ケイジです」
「この業界(マドンナちゃん界隈)の有名人だ! 握手してください!」

 と。もう定時過ぎているのにてんやわんやの大盛り上がりなのだ。

 そして、午前中とは違い直接マドンナちゃんに話しかけてくるヤツらも出てきた。
 そのあまりの熱に、マドンナちゃんは「わぁ><」と目を白黒させ、困ったみたいに横にいた伊達を見上げた。

「もしかして助け求めてんのか?」
「わりと」
「慣れてんだろ」
「いや、ここ四年こういうのなかったから…」
「あー」

 なるほど。と思う。
 この四年間、彼女は警察の顔として働いていた。
 それはほぼ芸能人のような扱いであり、彼女とすれ違っても熱い瞳を向けるだけか、「いつも見てます!」「応援してます!」と伝えて逃げるように去っていくかの二択しかできなかったのだ。

 が、今日から彼女はビジネスパートナー。
 オマケに民間人を巻き込まずに犯人を追い詰め、取り逃がした犯人をねじ伏せて徹底的に理解≠轤ケてきたのである。

 ので、人間離れした清らかな天使から、頼りになる憧れの天使になったのだ。
 文字にするとあまり違いは分からないが。つまり何が言いたいかというと、彼女は刑事たちにとって昨日までよりも午前中よりも少しだけ身近な存在となったのだ。
 マァしかし彼女と目を合わせて話せる人間はまだほとんどおらず、大体がマドンナちゃんと目があった瞬間「アッ」「ニ゛ッ」と声をあげて天を仰いでいた。

 そんな彼女にキラッキラの笑顔で駆け寄ってきた女がいた。佐藤である。

「クイーン先輩!」
「キュッ」

 呼ばれた名前に、マドンナちゃんは首を絞められた子ウサギみたいな声を出して固まった。

『クイーンさん!』
『クイーン先輩!』
『クイーン! クイーン!』

 ──自分を見上げて恍惚の表情をする大勢の人間たち。
 ──パァン、と地面に叩きつけられた鞭。
 ──スポットライトの真っ赤な光。

 脳裏にダーッと映像が流れ、爆音のヘヴィメタルのギターソロがギュイイイと鳴り響く。

 一瞬にして真っ青な顔をしたマドンナちゃんだったが、誰も其れに気付かない。
 今しがた呼ばれたクイーン≠ニいう名前にも誰も反応しない。
 なぜなら、マドンナちゃんは「天使」「妖精」「女神」などの別称で呼ばれることが多々あるからだ。
 だので、わざわざ「クイーンって?」と聞いてくる人間はいなかった。

「あの私、佐藤美和子って言います! 宮本由美と大学の同期で…」
「由美ちゃんと?」
「そうですそうです! クイーン先輩は…」
「ちょ、ちょちょちょっと待って!」

 マドンナちゃんは慌てて顔の前に人差し指を添えた。
 興奮したように捲し立てる佐藤を取り急ぎ黙らせたかったのだ。

 それからパッと周りを見渡して、周りの人間が皆ビールかけをしようとする芹沢にいいぞいいぞやれやれやめろやめろと大騒ぎしているのを知る。
 今自分たちは注目されていない。その事実にホッとし、マドンナちゃんは「ちょっと」と佐藤の手を引いて廊下に飛び出したのだった。




「ごめんね、連れ出して」
「いいですけど。クイーン先輩は…」
「まずそのクイーン先輩≠チていうのをやめてくれると嬉しい…黒歴史なの」

 必死の形相で両肩を掴むマドンナちゃんに、佐藤は「あっ」という顔をして口を覆った。
 なぜか。その名前は彼女の大学時代のあだ名であり、心の底から忘れてしまいたい黒歴史なのだから。

「ご、ごめんなさい私…」
「いや、いいのよ。佐藤さんは悪くないから。…それで、佐藤さんは由美ちゃんの」
「親友です。大学の同期で…つまりその…えっと、マドンナ先輩の後輩になります」
「あ、マドンナ先輩になったのね私」
「だって私だけお名前で呼ぶの恥ずかしいじゃないですか」
「何よそれ」
「憧れなんです」

 佐藤はウットリ夢見心地の表情で話した。

 彼女はなまえの大学の一期下の後輩である。
 大学時代からなまえはそれはもう有名で人気のある女だった。眉目秀麗・成績優秀の四字熟語を体現したような女だったのだから。
 マァしかし佐藤は後輩だったので「一期上にすっごく美人な先輩がいるらしいよ」と噂で聞くだけの間柄。ほぼ都市伝説のような存在だった。
 それがなまえが大学三回生の時、クイーン事件≠ネる事件が起こり、一気にその存在を大学中に知らしめたのだ。
 もちろん佐藤もその事件で彼女を知り、ひょんなことからなまえと仲良くなった宮本由美に何度も「紹介して! あ、やっぱだめ! 私が仕上がってないから!」と早口で捲し立てるレベルで憧れていた。

 クイーン事件が何だったのか、というのは今ここでは割愛する。何故ってこの話はとてつもなく長くなるし本題から外れてしまうからだ。

 とにかく、佐藤はマドンナ先輩に並々ならぬ憧れを抱いていた。
 彼女が警察学校に入った、と聞いた時なんて大喜びで、「私と同じく警察を目指してたなんて…これって運命?」と浮かれまくった。
 警察学校に入学してからも何度も教官に彼女のことを聞き、彼女の武勇伝にイチイチ興奮し、また一期上の問題児の先輩たちのせいで厳しくなったルールに文句を言っていた。…まさか憧れのマドンナ先輩がその問題児集団と密接な仲になっていたなんて夢にも思ってなかったワケだが。

 そんな憧れのマドンナ先輩がビジネスパートナーになり、そしてその初日にあんなカッコいい仕事姿を見てしまったということで佐藤は大興奮なのだった。
 誰もいないと思っていた伊達の車から彼女が飛び出してきた時なんて、ビックリしすぎて危うく犯人を取り逃してしまいそうになったほどだ。
 だって、まさか自分の相棒の通話相手がマドンナ先輩だなんて思ってもみなかったのだから。意味のわからない指示を出してくる女、くらいにしか思ってなかったのだ。

「そっか…」

 佐藤の熱弁を聞いたマドンナちゃんは照れ照れしながら頬を掻いた。
 純粋に嬉しかったのだ。
 ので、昼間の険しい顔など存在しなかったかのように柔らかな表情でほろりと笑った。

「ありがと。憧れてくれて」
「ヴッ」
「これからよろしくね、美和子ちゃん」
「ヴーッ!」
「泣いちゃった…」

 感情が昂った佐藤はペショペショになってしまった。なに、それ程佐藤の中のマドンナ先輩≠ヘ神聖で、尊くて、美しい人なのだから。

 と、そこへ。

「おい、ナニ後輩泣かせてんだよ」
「泣かせてないもん」
「ま、松田君…?」

 濃紺のスーツを着崩した松田がやってきた。昼間の犯人確保で着崩れたまま直していない様子である。
 松田は女二人を不躾に眺め、佐藤が感極まって泣いているのを知り、それからなまえの頭をぐりぐりやった。
 これになまえはイ゛ーッという顔になり「離してよじ…松田くん」と自分の頭をぐりぐりする松田の大きな手を抓る。

「松田くん、だァ?」
「なに」
「そういや昼間の電話でもそう呼んでたな」
「そうだけど」
「理由は」
「わかるでしょ」
「わかる」
「じゃあいいでしょ」
「わかりたくねぇから言ってんの」

 グズグズ鼻を啜る佐藤は二人の会話に全くついていけずに「?」という顔になる。もう涙は止まっていた。

「とにかく私が美和子ちゃんに意地悪したわけじゃないから。勘違いしないでよね」
「その心配はしてねぇよ。どうせ勝手に感極まって泣いただけだろ。佐藤のヤツ、帰りの車ン中でしつっこくお前のこと憧れだなんだと喋ってたから。…マァでも後輩イジメんのもほどほどにな」
「だからいじめてないもん…」
「ねぇ私ここにいるんだけど。しつっこくて悪かったわね」
「ヤベ、忘れてた」
「そんなことある?」

 松田はこの数秒でカノジョのことしか見えなくなっていたのだ。悪いクセである。

「ていうかじ…松田くん何か私に用事?」
「これから捜一でお前の歓迎会やるって芹沢が聞かねぇから呼びに来た」
「芹沢くんって捜一じゃなくない?」
「俺に言うなって。…とにかく俺は伝えたからな。諜報部で歓迎会がねぇならコッチ来いよ」
「あ、うん。聞いてみる」

 そういえば、挨拶行くって出て行ったきりだったわ。
 朝作ったグループライン【諜報部(4)】を慌てて覗けば。

【ティモン:誰も戻ってこないので帰ります】
【ヒガシ:すまん。アンミカさんの出待ち】
【ミナミ:俺は今、なぜか東北にいます】

「なんつーか、自由だな…」
「ミナミ先輩はお仕事かな? わからない」

 自由すぎる同僚たちに二人して首を傾げ、マァいっかと【終業します】とだけメッセージを返し、

「美和子ちゃんも行こ?」

 かわゆい後輩に微笑みかけたのだった。


▽クイーン事件についてはあと二話くらい先で詳しく書く予定

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