散々だ。

我慢して、我慢して我慢して、かゆいのも恥ずかしいのも耐えて、ようやく名前に抱いて貰えると思ったのに。軽くいなされて、後回しにされて。たまったものじゃない。勝手にスると怒られる…というか前不機嫌になって酷くされてから自制しているのに、焦らされて頭がおかしくなりそうだ。寝ても覚めてもよぎるのは名前の事で欲求不満もここまでくれば笑い草だろう。

ようやく会える今日
絶対に一言文句を言ってやろうと靴紐を締めた








「お待たせしましたー!って、うわ…」

「てめぇ…さんざん焦らしやがって……」

「…あー、それは、うん。ごめんなさい。とりあえず場所変えましょ。今日はホテルじゃないんで」


いつものように駅で待ち合わせ、合流する。
一瞬顔を変えた後名前は承太郎の腕を引いて歩き出した。思わず不満の漏れる承太郎にぞんざいに謝ると急ぐ様にホームに向かった。


「…おい、一体どこに……」

「私のお家ですよ。引っ越したばかりで何もありませんけど」


振り返りもせずに言う名前に承太郎の足が止まる。雑多な人混み。背の高い美女は目立つのか突然棒立ちになった承太郎に視線が集まり、散った。


「無用心がすぎるぜ……いつも、こうなのか」


沸き上がるのは心配と不安と、嫉妬か
そもそもうら若い乙女が売春している事が犯罪であるのに、その買い手を、いわば加害者に自宅を明かすなんて危険だろう。一体どれほど借金が残っているのか知らないが、できることなら辞めさせたいのだ。…ただ、辞めたらもう名前に会えないと思うと言葉がつっかえるのだが。

しかし、なるほど。
相手の懐に入り込み、もうどうにもならないくらいになった頃に名前に一歩近づかせる。ズブズブになった相手をさらに引き込む。この手腕こそ彼女の技術か。だとしたら彼女は一流の域だろう。自分の前に名前の家に招かれた連中が妬ましくて殺してやりたい

そんな承太郎なぞいざ知らず、あっけからんと答えた。


「しませんけど?というかお金の絡まないセックスとか初めてです。…ほらさっさと歩いてください。さっきから顔がヤバいんですよッ」


そこまで言うと承太郎の分まで切符を買い歩き出した。どこか名前も気がそぞろで慌ただしい。承太郎はと言うと名前の言葉に呪われた様に凍りつき、跳ねる心臓を抑えていた。

セールストークだろう
顧客を逃さないための布石、言わばサービスでおれを抱こうとしているのだ。だからこれもリップサービスでしかない。そのはずだ。じゃなきゃ名前のように未来ある少女がこんな年増の、同性を抱くか?そう言い聞かせるも芽吹いた希望は枯れてくれなかった。











どれほど経っただろうか
無言で電車内を過ごした。一駅、二駅と過ぎようやく目的地に着いたのか名前が白いコートの袖を引いた。先へ先へと急ぐ名前に引きずられる様に住宅地を抜ける。ついたのはさほど大きくない一軒家だった。


「ここです。ちょっと色々あって引っ越した新居で…っと開きました。どーぞ」

「…お邪魔する」


引っ越したばかりと言うのは本当らしい。
人が暮らす最低限の荷物しかない、無機質な空間。ごく普通の玄関であったがラグや小物が全くない。そこに承太郎が足を踏み入れた後に名前は鍵をかける。ガチャリと響いた金属音に囚われた気がした。


「………脱いでください」

「…あぁ?」

「服脱いでってんですよぉ! 朝から何なんですか? もーッ! 目は潤んでるしほっぺは赤いし、よくそんなメス顔晒して表歩けましたね……」


承太郎の背中で名前がいきなり叫んだ。
ふてくされる様な声色で呟く姿は年相応で愛らしい、がそれ以上に承太郎の気を引いたのは内容だ。ギョッとした顔で思わず振り向き問い詰める。


「メス顔…? おれが、か……?」

「えぇ、はい。鏡持ってきましょうか? とにかく、全裸にならないと部屋には入れませんからね」


こうなった名前は頑固だ。
きっといくら言葉を尽くしても玄関から先に進ませてはくれないだろう。いや、そもそもメス顔とは何だ。そんな、そんな顔で。名前に犯されたいのが見透かされるような顔でいたのか。今更ながら羞恥に煽られ顔があつくなる。


「脱がないんですか? もう帰ります?」

「い、いや、…ぬぐ、から……」


刺す様な視線の前でコートに手をかけた。
扉を向く様に名前の前で一枚づつ脱いでいく。上がタンクトップだけになった時思わず手が止まった。ここは玄関だ。間違っても裸体を晒す様な場所ではない。もしも名前が扉を開けたら、そうでなくても誰かが覗き窓から見たら、名前に、ひとまわりも年下の少女に抱かれたがっている淫らな自分が見られてしまう。


「…名前、ここでは、嫌だ……」

「そう言って恥ずかしいのもイイんでしょぉ?早くしてください。……私も、はやく空条博士が欲しいんですよぉ」


機嫌をもちなおした様で名前はいたずらに笑った。
求められている。名前が、おれを欲しい、と。その言葉に思わず固まった。ドキドキと跳ねる心臓がやかましい。続きを催促する目に震えた指先が操られる。インナーの端を摘んだ。悪魔の目は揺らがない。そっと上に持ち上げる。タンクトップだ。あっという間に脱げてしまう。一瞬見開いた瞳が蠱惑的に歪んだ。


「…ふ、ふふっ! 博士ったらえっちですねぇ。今日ノーブラだったんだ」

「………この方が、早いと思って、な」

「ふーん、ブラ脱ぐのもじれったいぐらい発情してるんですか。ほら、下もですよ。早くぐちゃぐちゃにされたいんでしょ? 」


淫乱だと揶揄され顔に血がのぼる。
羞恥にまみれ、舐めるような視線から逃げたくて仕方ない。けれど名前は逃してなんてくれない。片腕で直立し自己主張する乳首を隠しながらベルトに手をかける。いつもよりも時間をかけながら片手で革のベルトを引き抜いた。手が止まる。これを、これをここで晒すのか。魔がさしたとしか言いようのない愚行だった。昨日の自分を殴ってやりたい。


「くーじょーさーん?」

「…ん」


名前が急かす。
どうせ後でベッドの上で見せるものだ。第一こいつを選んだのは名前だ。だから、だから大丈夫。じっと見つめる名前の前で純白のズボンを脱ぎ捨てた。

その下にあったのは下品な紫
ケバケバしい蛍光色にラメのレースが縫い付けられ激しい自己主張をしている。その色もさることながら布面積の少なさが目を引く。手入れがしてあるのか陰毛は見えないものの限界に挑む様な丈のローライズ。

名前が承太郎に与えたものだった。


「っは、あっはは! それ気に入ったんですか?……でも、臭くないですねぇ、洗ってはあるんだ。ねぇ、どんな気持ちでこれ履いてきたんですか?」

「…ぅ、うるせぇ。も、いいだろっ!」

「はい! これ脱がせるの勿体無いですもん。リビングは突き当たりです。お夕飯はサクッと作っちゃうのでそのまま待っててください」


からりと笑うと靴を脱ぎ捨て家の奥に名前は行った。承太郎とすれ違い際に脱いた服を拾い上げて、だ。これでもう承太郎はこの家から出る事が出来ない。名前から服を返してもらわない限り、外出の自由もないのだ。パンツ一枚で過ごす恥辱、衣類を着る事すら許されない被虐にじくりと腹の奥が疼いた。とろりと蜜が流れ出る感覚がする。薄いローライズではすぐにバレてしまうだろう。慌てて意識を逸らすと名前のあとを追った。







食事は確かに美味しかった。
両親を亡くしてから一人で生きてきた、というだけあって作る手つきはこなれたもの。決して大きくはない簡素な机の上に並ぶ品々は家庭的な暖かみに溢れている。破ったオムレツから半熟の卵がきらきらと乱反射しながら湯気を立ててチキンライスを覆う。ぐぅと鳴った腹の虫に名前は笑うと一口スプーンで拾った。


「はい。あーん、です」

「あ、…あーん、んぐっ!」


一瞬あっけにとられ、勢いに押された様に開けた承太郎の口にオムライスが放り込まれた。口の中に卵黄のコクが広がる。それを追う様にトマトの酸味がきいた米、淡白ながらも旨みのある鶏肉が舌の上で踊る。


「どうです?」

「…ふむっ、ん、おいしい、が…ちと熱いな」

「っふふ、すいません。ちゃあんとふーふーしますね」

「………いや、いい」


ニコニコと笑いながら食べ進める夕餉
どこまでも穏やかで平和なひと時だった。

ただ一つ承太郎が淫らな姿であることを除いて。
食欲と性欲を司る脳の部位は同じだというが、はち切れんばかりの欲求はこんなものでは誤魔化されないのだろう。空調が効いているにもかかわらず鳥肌が立ち、時折足を組み替え熱い息を漏らす。名前はごく普通に服を着て、ごく普通に食事をしているのに自分は娼婦の様な姿で、乳を揺らし股を濡らしている。おかしな性癖でもあったのか空間の異常さに肉欲が煽られた。今だって名前がフォークを握る指先がナカを擦るのと同じ指だと思うだけで、その手を取って舐めしゃぶってしまいたくなる。

耐えられていたのは承太郎自身の異常とも言える精神力のおかげだった。ここで今すぐ抱いてくれと叫ぶのは簡単だ。きっと蔑むようにからかって、踏みにじるように可愛がってくれる。しかしそれには唯一のプライドが邪魔をする。ここまでしたのに蕩けた承太郎を置いて料理を始めた名前に言うのは癪だった。今更に過ぎるとは思うが最後の砦というものがある。太腿をすり合わせ必死に誤魔化した。





「…ご馳走様」

「はい、お粗末さまです! お湯は湧いてるので先入っててください。食器洗ったら追うんで」


これでいいか、と言う様に目で問う承太郎
それを無視してこれからの要件を述べた。そう簡単に寝室に連れ込んでは面白くない。隠せたと思い込んでいる様子も可愛らしいが、どうせなら泣きじゃくって縋り付いてくるまで追い詰めたい。名前は内心悪辣に笑い追い立てた。目の前で餌を取り上げられた犬の様にしょぼくれて、しかし何事もない様に振る舞おうとする承太郎は滑稽で嗜虐心煽るものだった。食事中に案内したからたどり着くことはできるだろう。あのローライズを脱がせないのは惜しいが時間はたっぷりあるのだから。








ユニットバス、シャワー、鏡とボディソープ
一般的な浴室だ。小さなバスチェアと湯桶がある。何度かかけ湯で汗を流した後、ざぶりと承太郎は湯に浸かった。カバー越しの電球がその裸体を照らし、立ち込める湯気が潤いをもたらす。そうしてようやく一息ついた。本来ありえない場所で肌を晒すと言うことは地味に精神を削る。ましてやあれほど欲を掻き立てられた状態ではなおさらだ。いっそこちらから襲ってやれば良かったかもしれない。煮えたぎった欲求は未だくすぶったままだった。


「湯加減、どーですかぁ?」

「んん、悪くねぇぜ。って、お前…」

「それは何よりです。邪魔しますね!」


扉越しの声に応えた直後に冷気が入ってくる。
驚き目線をやると名前が入ってきていた。いつもあまり見ることのない名前の体。ついその肌に目がいってしまう。


「じっと見ちゃって…すけべ」

「っな!、いや、それはてめぇだろうがッ!今日だって……っあんな風に、見て…」

「んーまぁそうですね。えっちな博士は見られるだけで感じちゃいますもんね? だから精一杯のご奉仕も兼ねていっぱい視姦してあげたんですけど…ヨかったみたいですね」


とんでもない事を言いながら湯を浴び浴槽に入ってくる。静止どころか反論もできないまま膝の上にのしかかられた。二人ぶんの体積に耐えかねた水が溢れる。ニィっと笑った顔が承太郎の目の前にあった。ギラついた捕食者の目に思わず硬直する体。その秘部をするりと指が這った。


「ねぇ…気づいてないと思いましたか。今日ずぅっととろけたおめめしてましたよ。こう、肉欲にとけて、はやくグチャグチャに犯してって感じの顔」

「、っそんなわけ、…っん……」


しなだれかかった体は承太郎に密着し、耳元近くでいやらしく囁く。浴槽内でギリギリ伸ばしきれた足の間、ずっと刺激を待ちわびてた媚肉が指を食む。決して奥に入る事はなく、器用に陰核をなぞり潰した。座ったまま乗られ抵抗を封じられたまま水中で何度も表面だけ擦られる。逃れようもない体勢でビリビリと甘美な電流が体に走るのを享受する。承太郎にできることと言ったら首を振って名前の声から、その耳に当たる生暖かい吐息から逃げる事だけだった。


「ふふっ、やぁらしい顔ですね。わかりますか? ここヌルヌルしてるの……こーやってスッスッてクリちゃん可愛がってもらうの、好きでしょう」

「…っふ、んッ……ぁ、ぅ…、!っゃあ、」

「ゆっくりしてあげますね。すーりすーりって、ね…?」


熱い。
お湯も、蒸気も、腹の奥もだ。冷えた名前の体が気持ちいい。どうしようもない官能がどんどん溜まっていく。無視できない、しかしはじける事もない快感が澱の様に積み重なる。どうにもできなくて、どうにかしたくて、イキたくてたまらない。ぎゅっと名前の指を締めつけて、必死に腹筋に力を入れる。ぐぅっっとわだかまりになっていた熱が集まる。イケる。かき集めた快感でイく。くっと足先を反らした。


「…ダメです。イッちゃだめ。我慢我慢、ね?」

「〜〜〜っ、や、ぁ…っなんで、…ッぅう…」


瞬間、性感が散った
わずかな刺激に集中して、頑張って、なんとか絶頂できると思ったのに。まるで子供に言い聞かせるように耳元で囁かれた瞬間に消えてしまった。いや、消えてはいない。あっちこっちに飛んだ悦楽がじくじくとすすり泣いている。目尻から涙がこぼれる。堪える術を忘れたかの様にあふれ、止められない。いやいやとぐずる姿はとても権威ある大人には見えないだろう。


「ダメったら駄目ですよ。ここ、どこだと思ってるんです? エッチなことはベッドの上でしましょうね。だから遊ぶのはいいけどイクのは我慢です」

「………、はやく、上がる。なまえっ」

「はーい。体洗ってあげますからね。終わるまでがんばってください」


浴室の温度にとけたのか駄々をこねる子供の様だ。
ざばりと上がった後にバスチェアに座らせる。のぼせ気味なのかすっかり真っ赤だ。異国の血が混ざった白い肌が綺麗な桃色に染まっている。イキそこねた承太郎は正面にある鏡に映った顔に驚愕することになった。誰だ、この女は。眦から涙を流し、快感に潤んだ瞳で見つめ返している。だらしなく惚けた口元は荒い息をこぼしている。まるで発情した雌だ。とろんとした目で見つめ返すそいつは間違いなく承太郎だった。


「自分のいやらしい顔に夢中ですか? 私の事、忘れないでくださいね」

「、ん、っぁあ! っひ、なんだ、」

「えー? 体、洗うって言ったでしょ」

「っだからって、おい、スポンジ等、は、」

「引っ越したばっかなんで」


そう名前は言うとにちゃりと音を立ててボディソープ塗れの手のひらで承太郎の体を撫でた。鏡の前に座らせ、欲情した様を焼き付けさせる。全く、こんな顔を日中晒すなんていくらなんでも無用心がすぎる。さすがにここまで酷くはないが今日あった時から目は色欲に歪んでいたと言うのに。こちらをふり向こうとする承太郎の首を鏡に向ける。こんな絶景、独り占めするには勿体無い代物だ。


「っふ、ん……っっ、っふーッ……」

「そうそう、イキまくるのは後でですよ。いい子ですね」


必死で喘ぎ声を殺す
浴室で反響する声がより淫欲を煽るのだ。ならばそれも我慢すればいい。唇を噛むと名前が悲しい顔をするからそれもできない。きゅっと一の字にひき結んだ口元で沸き上がる色情をこらえる。目の前でツンと張った乳房を揺らす淫売も苦しそうだった。ぬるり、と暖かい手が首筋を這う。そこから肩、腕、するっと手を滑らせ脇の下、脇腹へ。まるで舐めるような感覚が動く。その度にヒクつかせる女陰を引き締め快感を逃した。


「っひ、ぁ、っ…そこは、だめだ、」

「汚いの、やでしょう。それともくっさいおまんこ癖になっちゃいました?」

「ッ、そんな訳ねぇ!」

「じゃあ失礼しますね」


太腿の間をずるりと蛇が這う
腕まで泡だらけにした名前は背中に自分の胸を押し付けるようにして背後から両脚の間に手を差し入れた。ぬるり、ぬるりとなんとも言えない感覚が背筋を走る。こそばゆいような気持ちいいような、今すぐ逃げ出したい気持ちに駆られる。敏感な内腿に擦り付けるように何度も腕を出し入れする。まるで前からする素股だ。にちゃにちゃとボディソープが陰部を擦り上げる。その度に抑えきれない吐息が漏れた。


「ッ、ぅ、っはぁ…ん、く、ぅう……、っひぅ、」

「イッちゃ駄目ですよー」


はやく、早く終わってくれ
そう願うもぬちゃぬちゃと粘液が立てる音は止まない。我慢、我慢、がまん、がまん。快感からなんとか気をそらそうと首を振り、目を瞑っても音からは逃げられない。狭い浴室で反響し大きく聞こえる水音は鼓膜から脳髄を犯した。だらだらと愛液が垂れるのがわかる。それとボディソープが一緒になって酷い刺激を承太郎に流し込む。





ようやく全身を洗い終わった時にはヒクヒクと陰部を震わせ、だらしなく愛液を垂れ流しにする承太郎の姿があった。しかしまだまだ夜は終わらない。何せ、宣言通りベッドの上でかわいがるために一度も承太郎は、この一時間もの間、名前にイかせて貰えなかったのだから。情欲ではち切れんばかりに膨れ、とろ火で炙られるような官能を蓄えた淫らな女体。承太郎は『これから』に期待するように名前を濡れた瞳で見上げた。


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