「ねぇ、何なの?これ」

名前はベットの上に足を組み腰掛けながら支配者然と承太郎を見下ろす。

足元には一冊の本。
表紙に豊満な体に赤い縄化粧を施された女が吊られ淫らな表情で写っている。

その本の後ろ、床に正座で俯いている男−−空条承太郎はじわりと冷や汗を滲ませながら打開策を必死に模索していた。杜王グランドホテルは旅館等と違い土足だ。自らの靴による汚れが純白のスラックスと長いコートを汚した。

重苦しい沈黙と息苦しいほどの威圧感が一室を包む



事の次第は数週間前、東方仗助の存在が明らかになった所から始まる。

承太郎の元観察対象としてともに暮らしている名前は承太郎に連れられ杜王町に来ていた。敵がいるならば彼女のスタンドは強力な対抗策となるし何よりDIOの娘を一人にはしておけなかった。

アメリカから渡日するため荷造りをする二人、名前がお気に入りの童話集をトランクに詰めるため本棚に手を伸ばした時の事。とさり、と腕が明らかに軽すぎる辞書にぶつかった。仕事の資料整理をする承太郎を背にカバーのみの辞書をひっくり返す。そこには件の本があった。


「…ねぇ承太郎。フライトまであとどれぐらいあったかしら。」

「あと2時間だが…飛行場までの時間を考えると1時間弱ってとこだろう。どうした」

「全部わたしにくれるって約束したのよね?承太郎。わたしはわたしのものを知っておくべきだと思うの。…日本に着いたら教えてちょうだいね?」


承太郎に振り向いて手元の本を見せる。口元は普段と変わらぬ微笑を湛えているが氷雪のごとき瞳が台無しにしていた。

俗に言うエロ本、しかも緊縛ものを飼い主に見つかった承太郎は喉を鳴らした。果たしてぞわりと背に走った刺激は恐怖か期待かは本人にすら預かり知らぬ事だった。




黒いビロードの空に白銀の星が瞬く夜
名前は瀕死の状態で傷に受けたDIOの血により太陽に嫌われているためそんな夜こそ彼女の時間だった。

煌々と照らす部屋の明かりが星の光を打ち消している。反射で窓ガラスに映る自分の姿を見ながら承太郎はぞわりとと名前の笑みに躾けられ切った体を疼かせていた。


「承太郎、わたしが質問しているの。黙ったままじゃあわかんないわ。これ、いったい何のつもりでどう使っているの?」

「……これ、は、その、おれが自慰に使ってる」

「じい?おれ?全然わからないわ。もっとしっかり『詳しく』教えてちょうだい」


そこまで、そこまで言わせるのか。もうあれから十年以上立ってるんだ。こいつも、名前もガキじゃない。あの頃と違いソッチの知識もある筈だ。

…ズクッと腰が鳴った。自分の口から淫らな事を言わせられる。こんな幼い姿の名前に全部、全部ぶちまけさせられる。どうしようもない程の衝動。この十数年で苛烈に刷り込まれた被虐心が承太郎の全身を包む。


「…承太郎?ぼけっとしてないの。」


蔑むような、しかしあふれんばかりの愛を湛えた瞳が承太郎を急かす。名前に見つめられるだけで半分ほど自身が勃ちあがるのがわかった。熱い息が漏れる。倒錯的な状況にくらりと眩暈がした。


「これ、は、このエロ本は…この承太郎が……自慰に、その…射精するため…せ、性器をこすったりして精液を出すために使っている」

「ふーん。なーんかわかりにくいけど、ま初めてだもの許してあげる。」

「けど、つもりわたしの知らない所で承太郎は出してたってことね?承太郎の全部はわたしのなのに。やっぱりお仕事があるからって外すんじゃなかったわ貞操帯」


名前は小首を傾げながら半目で承太郎を見つめた。彼女の強烈な独占欲は承太郎自身の行動にも及ぶらしい。まとまった休みが入ったらまた貞操帯で排泄まで管理しかねない、否このままでは平日でも装着されそうだ。思わず承太郎は反論した。


「ッ、あのな、こんな異常な事いつまで続ける気だ第一おれがどうしようと別にいいだろ」

「…へーえ?破るの。約束したのに?じゃあもうわたしが承太郎の味方である必要なんてないわね。ジョースケだっけ?まだ16なのに死んじゃうなんてかわいそうね。安心して?承太郎はちゃあんと手足落として飼ってあげるから」


すたりと名前は立ち上がると部屋を出ようとする。行き先は間違いなく東方家だろう。彼女は承太郎を偏愛しているがそれ以外に容赦がない。エジプトで「仲間の命」と引き換えに差し出した我が身。それが果たされなければ「承太郎の仲間」が無事である必要はないのだ。


「待てッ……、待って、ください。」


承太郎は膝をついたまま頭を下げ追いすがった。

他の世界線ならいざ知らず、DIOを倒したのは空条承太郎ではなく名前である。故にスタープラチナに時を止める能力はない。あの日からレクイエムを解いていない名前との戦力差は絶望的だった。以前でさえ承太郎達は名前に負かされたのだ。

勝てず殺させるわけにもいかない承太郎達が選んだのは協力−−−実際の恭順である。彼女が執着する承太郎を監視として置き、スタンドの弱点を探し対抗策を練っておく。承太郎は事実上のスパイであり人身御供だった。

プライドを傷つけながら乞うた承太郎を名前は無感情な目で見下ろす。さっきまであった温もりは最早なく無表情のまま冷たい声を発した。


「何。戦うの?」


ぶわり、と圧無き風が吹き起こり名前の掌に古びた洋書が姿を現わした。音もなく本が開きページが燐光する。ページが自然にちぎれ宙を舞った。いつかの夜に見たままの美しく強大な力を秘めたスタンド。それが牙を剥こうとしていた。


「違う……おれに、承太郎に貞操帯をつけて管理して、ください…」

「でも自分勝手に出したかったんでしょう?こんな本まで使って。……まさか縛りたかったの?」

「い、いいえ…おれは、お仕置きされたくて…しゃ、射精をしました……どうか縛って、くださぃ」


頬を真っ赤に染め名前の足を見つめる。一度は引いた熱が瞬く間に全身を走る。仗助達を守るためと大義名分を掲げ幼くも美しい支配者にかしずく。教え込まれた『おねだり』が承太郎の口から滑り落ちた。

あつい
ただただこの衣服が邪魔でしょうがなかった。息苦しい。興奮のあまり呼吸が浅くなる。くらりと眩暈がした。名前の視線もこの現場も全てが承太郎を責め立てる道具だった。


「…つまりわたしにこういう事がされたくて約束を破った、って事?……とんだスキモノね」


冷たく名前は吐き捨てた。
最早その手にはスタンドの姿は無く承太郎は安堵の息をこぼした。

窮屈そうに自身がスラックスを押し上げる。正に犬の様にはーっはーっと息を荒らげ酒に酔った様な表情の承太郎の前に名前は立った。


「ならやってあげるわ…けど変態さんと違って詳しくないの。縛るところまで自分でやってちょうだい。」


ふっと息を零したあといつもの笑顔で名前は承太郎に無茶を言った。再度スタンドを呼び出しページを一枚引き千切ると瞬く間に承太郎のエロ本にあった麻縄に変化した。



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