■4.いつも感謝の心を忘れずに

コンポスト太郎の日常

息苦しい。
臭くて、気持ち悪くて、苦しい。
ぎゅっと折りたたまれた手足は胸と腹を圧迫する。十分に膨らむことができない肺は、小刻みに息継ぎする事で酸素を取り入れようとする。酷く、鼻が腐り落ちそうな悪臭の中ではそれすら苦痛だった。腐りかけのゴミを詰め込んだ胃からの息が臭い。狭い空間に密封された汚臭が肌の奥まで染み付いていく気がする。コンポスト内の温度は腐敗によってある程度の高音を保たれる。ポタリと垂れた汗がまた臭気を足した。じわじわと全身に湧き出る汗に対し与えられている水分量はあまりに少ない。脱水気味でぐらつく頭が壁に擦った。

しかし辛いのはそれだけではない。
まず土に埋まった部分。分解者として入れられたミミズが時折肌を舐めあげる不快感。身動きができないことでできる褥瘡。床ずれの痛みに加え、湿気にかぶれた痒みがありまんじりともできない。そして何より下半身が問題だった。ぐちり、と動かした足から水っぽく音がなった。どうにもならない深い嫌悪が湧く。コンポストとは、生ゴミを分解者に分解させ、糞等を堆肥に変えるもの。承太郎の役割はそれだ。たれ流しにされ、腰回りの土に染み込んだ尿やクソの臭いや触感に怖気が走る。粘膜もかぶれたのかちんこと尻穴が無性に痒かった。

微生物等が分解するのに時間のかかる大きな生ゴミを喰らって糞にし、分解を促すように身を震わせ土を混ぜ、適度に微生物達に尿で水分を与え、活動が鈍らないように体温で土を温める。承太郎は理想のコンポストだった

こうなるまで抵抗しなかった訳ではない。
罵倒し、動かない体で暴れ、日に一度生ゴミを捨てて行く少女を睨みつけた。吐き捨てた言葉は箱の中で反響し、巨躯に揺すられ蓋がずれた。しかしそれだけだ。にこやかに匙を差し出した彼女と別人のように承太郎へ無関心で何の反応も返さなかった。開いた蓋をしめ承太郎の頭上に廃棄物を注ぎ去って行く。来る日も来る日も来る日も



まず承太郎は叫ぶのをやめた。
箱の中にあの女が入れるのは野菜の切れ端や色の悪い肉片、魚の内臓だけ。湿度温度共に高い真夏のサウナのようなここではあっという間に体内の水分が奪われてしまう。だらだらと額から垂れる汗すら惜しい。乾きひび割れた唇を舐めた。臭気も相まって呼吸が苦しい。慢性的な水分不足に承太郎は苛まれていた。

次に動きが最低限になった。
食べ盛りの男子高校生には残飯は少なすぎる。ぐぅううと鳴り響く腹の音がうっとおしい。貧血気味なのか頭がぐらぐらする。もはや指先の感覚が薄い。一周回って吐き気がしてきた。暴れたくてもそんな気力はない。痒みと血が滞った痛みに腰をほんの少し動かすのだけでも精一杯だった。

それでも気力だけは萎えていなかった。
どうしようもないほどの不快感に侵され、食事も水も取り上げられても心までは折れなかった。今日もやってくる少女を睨む。順調に分解されているのかいくら注いでも首から上を超えない土の中、闘志を磨く。まごう事なき怒りを抱え、蓋が開くのをまっていた。






















承太郎は諸悪の根源が来るのを待っていた。









あの女が来るのを待っていた。






蓋が、開くのを待っていた






・・・・・・・・・



・・・・・・


・・・・・


・・・

・・







「ごめん、忘れてた!! ……生きてる?」

「っげほッ、…けひゅーっ……ぅ、ぁ………」


蓋を開けた瞬間酷い臭気が漏れる。
ぐったりとミミズのたくる土に頬をつけ、胡乱な目で天井を見た。久しぶりの新鮮な空気が美味しい。急に眩しくなった視界に目を細め救い手をみた。少女の不安げ、むしろ心配そうな顔が網膜に映る。無表情以外を見たのはいつぶりだろう。箱の中では時間の経過などわからず、それも承太郎の頑強な精神を痛めつける原因のひとつであった。いつ終わるのか、いつ少女が来てくれるのかもわからず無為に過ごす時間は苦痛以外の何物でもない。


「……ぃ、ず………」

「ん、お水ね」


差し出された水差しを咥えた
ゆっくりと傾けられ口内に流れる水が甘い。ねっとりと乾燥に糸引いた唾液が薄まり喉に押し込まれて行く。


「…んっく、…ぁ、もっと…」

「はいはい。こうしてるとお乳を飲む赤ちゃんみたいだね」

「………ぁ、ん…、…………」


少女にが何か言っているが聞こえない。
そんなことより一口でも多く水を飲みたかった。カサつき血の味が滲んでいた喉が潤って行く。次々と流しこまれ腹が冷えた液体で踊るのがわかる。どろどろと煮詰まり腐った血が巡る。全身に染み渡り生き返るような気持ちだ。ちゃぽん、と水差しの中で揺れる水音が心地よい。ゴクゴクと喉仏が上下する感覚が懐かしかった。


「お水はここまで」

「…ぁ、いやだ…もっと、ぜんぶのむ…」

「わがまま言わないの。…ほら、お腹減ってるでしょ。本当は花京院に止められてるからダメなんだけど…うん、秘密って事で」


かきょういん。
ぼんやりと曇った脳が大切な名前を拾う。そうだ、あいつは、あいつは無事なのだろうか。……花京院に止められてる…? 口にしようとした疑問は目の前の湯気立つ匙に潰された。とろりと白い甘みがとろけた白米を覆っている。腐臭に慣らされた承太郎の鼻が目の前のごちそうを嗅ぎつけた。たった一口、その一口が承太郎の目を奪う。


「おかゆ、食べる?」

「っ、たべる! ぅ、ぁあっ、くれ、それッツ!」

「ん、あーん」


パカリと間抜けに開かれた大口に七分粥が落とされる
きちんとした料理を与える気はないのか、よく見れば皿の中には生ゴミとして食わされていた野菜屑が浮きおかゆ自体も入れ粥だ。しかしまともに加熱されたものが、久しぶりに食えるものが与えられた喜びは大きい。まるで雛鳥のように口をあけ次を催促する。


「ん、あむっ…っくん、……ぁー」

「ちょっと! 大口あけないでよ。承太郎口くさいんだから!!」

「ぁ、わりぃ……っすまん、下、向いてるから…もっと……」


慌てて謝罪した
ずっと生魚のワタや出汁ガラ、向いた後の果物の皮を首だけで拾って食べていたのだ。口の臭いが酷くなるのも当たり前だ。そうなり原因を作ったのは少女であるというのに申し訳ない気持ちが湧いてくる。眉根を下げ、不安定に緑の瞳を左右させながら少女の言葉を待つ。この場の支配者、承太郎を生かす神。その意を損ねることは承太郎に酷いペナルティーが与えられることを意味する。


「…っく、は、あははっ! そこまで気にしなくてもいいよ。まだお代わりはあるし、こんな残飯でできたの承太郎以外食べないもん。はい、どーぞ」

「…ありがとう、な」


ホッと、安堵の息が漏れる。
湧いてくるのは感謝の念。確かに承太郎は今、少女に恩義を感じていた。自らを攫い、苦しめ閉じ込めた犯人に。喜びと、ともすれば親愛の情すら持って微笑む。何もこれは可笑しなことではない。非日常的な危機に長時間晒された時、人は生き残るために犯人へ共感しその心理に適応する。俗にストックホルム症候群と呼ばれた合理的判断はすでに承太郎の精神を蝕んでいた。


「…おいしい?」

「あぁ…うまい。もっとくれ」

「ん、こうなったらついでだし…土の入れ替えもしちゃおっか。食べ終わったら一回倒すからね」


そう言うと承太郎の口にスプーンを突っ込んだ
眼差しは柔らかで初日の頃を思い出す。そして同時に消して残してはならないと言う脅迫観念が湧く。こんな場所に閉じ込められたのは吐き戻したからだ。全て食べきらなくては。餓えた体なら余裕だろう。次から次へと渡される匙を飲む混む。そして、最後の一口。


「……ごちそうさま、だぜ」

「お粗末様ですっ、と! よく食べれたね。えらいえらい」


少女の手が頭をわしゃわしゃっと撫でる。
何日もゴミを浴び、洗うことも掻くこともできずにいた脂ぎった頭皮がくすぐられ気持ちがいい。カリカリとフケと腐ってカビたパンが一欠片落ちる。むずむずした部分が解放されなんとも言えない快感が走った。思わず手にあたまを差し出す


「…なに、もっと? 全部終わったらまたやってあげるよ」

「土の入れ替え、か」

「そ、じゃー行くよ。吐かないでね」


そこまで言うと少女は立ち上がる。
蓋を丸ごと取り外した状態で首だけ出ている『黒ひげ危機一髪』のようなアホらしい格好。そのまま少女を見上げる承太郎ごとコンポスト容器を蹴り倒した。急に重力のかかり方が変わり、膨らんだ腹が圧迫される。栄養が補給され冷静さを取り戻した頭が混乱する。


「ッツ、ぅ"、ぐぅう……っ!」

「我慢我慢、下開けるね」


迫り上がる胃液を抑え飲み下した承太郎
その下肢に冷気がまとわりつく。……冷気?疑問に思った瞬間少女の声が響いた。


「うわくっっさぁ……まぁでも、うん。たれ流しにしてたらこうもなるか…ってかかぶれてる?」

「っひぃ…、ぁ、そこ、もっと引っ掻いてくれ、」


カクカクと引き攣った足が痙攣する。
長時間固定された筋肉はすぐには戻らない。横倒しにされた承太郎には見えないが、側面の下の方に取り付けられた留め金を外すと底が金庫のように開いたのだ。そこは承太郎の排泄物でぐちゃぐちゃだった。尿で泥になった土が床に垂れる。泥と糞から突き出た尻と足の裏がなんとも間抜けだ。その中でも赤く爛れた粘膜、ミミズにまさぐられすっかりかぶれてしまった尻穴がひくひくと腸液を涙のようにこぼしていた。


「うーん、ゴム手袋して正解だね。やっぱかゆい?」

「ッツ、ぁ、我慢できねぇっ、んくっ、ぁ…」


必死で意識の外に追いやっていた感覚
耐えがたい痒みがゴム手袋に突かれた場所から襲ってくる。一度引っ掻いた虫刺されがひどく疼くように承太郎の後孔もじくじくとした掻痒感に苛まれていた。自由にならない体で腰を振る。少女の指先に集中するように目を閉じ唸り喘いでいた。そんな承太郎など露知らず、ガサゴソと何かを取り出す音が聞こえてきた。


「ちょっと待ってね、これ多分拭いた方がいいよね…」

「…ヒぃっっ! お、おい何を…」

「んー洗浄。出すものないと思うし一回でいいよ」

「ーーーっ、う"ぐぅ"ぅ、う……」


ぬちゅり、と爛れ神経が向きだしになった腸壁が擦られる。決して太くない、しかし細くもないチューブ。その先からこぷり、と薬液が流し込まれた。泥だらけの肛門を指で押さえつけ承太郎の排泄を拒む。何が自分の尻で起こってるのかすら分からぬまま目の前の承太郎は床に額を擦り付けた。ぐるぐると腹が唸りを上げる。火照った肛門が冷たい指に押されて気持ちがいい。吐き気がする。上からも下からも出したい。体の上げる嗚咽に脂汗を流しながら耐えた。


「……………もういいかな?」

「っひ、やめろ、 いや、やめるな、手、ケツをッツーーーーーーー!!!」


ぷちゅり、と汁が足を伝う
指がずらされ浣腸液が噴出しようと肛門括約筋をつつく。ひっひっ、と浅い呼吸が承太郎の口から漏れた。なけなしの体力を振り絞り尻穴を窄ませた。ぎゅううと力み必死で堪える。散々無様は見せた。たれ流しのクソも見られた。それでもその最中を見られるのは嫌だ。ギリリと歯をくいしばる。少女は目の前の努力に眉根を寄せた。


「出しなよ、辛いでしょ」

「……っい、や、だッツーーーーー!」

「…仕方ないね」

「っひゅ、ぃ、や、やめろ駄目だ、ぅ、ぁ、ああああ"っ!!!」


ぐい、と肛門に少女の両手がかかる
ぶんぶんと首を振るも承太郎には成す術などない。くいっっと軽く菊門の奥に指を差し込み割り開いた。それに合わせ、ブチュル、ぶブッ、ぽちゃん、ぶじゅうぅうう、と下品な水音がなり響く。耐え切れなかった肛門からわずかばかりの大便とほぼそのままの薬液が飛び出した。部屋の中に汚臭が漂う。耳を塞ぐこともできず恥辱の響きが鼓膜から脳髄を犯す。この歳で、17にもなって異性の前で脱糞した。その羞恥は、屈辱は、情けなさは承太郎の顔を見るまでもなかった。生きるための食事も生きている証拠の排泄も自由にできず、承太郎は今まさに人間以下、不要物を食って排泄管理され糞まで有効活用されるコンポストだった。


「……ふっ、く、ぅう……ぅ"、ぁ……」

「承太郎、泣いてるの? なんで?」


なんでもクソもあるか
こんなことをされて、人としての尊厳を踏みにじられて、辛くないわけがないだろう。頬を伝う熱は止まってくれない。勝手に漏れる嗚咽に一層惨めになる。グズグズと鼻を鳴らしても慰めてくれる者などいない。追い討ちのように吐き出したばかりの後孔にピトリ、と何かが触れた。


「やっぱかゆいだよね。大丈夫、すぐ楽になるよ」

「なに、 ……んォ"お"ぉ"ッツ!!、っひ、……ぁ、なん、らぁあっ、ウっ、ゃ"、アっ! けつ、おかしっ!!」

「気に入ってくれたみたいで嬉しいよ。花京院のお下がりだけど十分そうだね」


ぐじゅり、と真っ赤に腫れた腸壁をゴリゴリとシリコン製のおうとつがいたぶる。こらえきれない叫びが低く獣のように漏れた。すっかりこわばった筋肉が痙攣する。カエルのように突き出た足がビクビクするのは悪夢のように滑稽だった。ただでさえ充血したナカは過敏だというのに乱暴にすられ痛みともしれない快感を承太郎に叩き込む。唯一自由な首を仰け反らせ暴れた。


「ん"ッツ、ぁ"アっ!……、く、ぅ"…かきょ、いん…? っぉ"ぐッ、…ァ、てめ、あいつに、なにをッツ、んぁ"っ!!」

「ん? 普通に承太郎の食べ残しを食べてもらってるだけだよ。………気になるなら見れば」


花京院
今度こそ聞き逃さなかった名前に声帯を震わせる。ビリビリとした刺激が電流となって快楽神経を痺れさせる。そんな中で真っ先にしたのは友の心配だった。あいつは無事なのだろうか、噛みつくように問いた承太郎の前に答えが突きつけられた。少女が一拍置くとざわり、と壁が波打ち始める。その波紋の中心からスクリーンのように鏡の部屋が映り始めた。


「……………っ、な、ぁ…!」

『んっ、ぁ、あっ! きもちっ…ぅンっ!!、ぁまた出るッツ!!またお嫁さんに中出ししてしま、ーーーーっっ! あ、おしり、尻尾ばいぶもきたぁ!ん〜〜〜〜!!!』

「ほら、平気でしょ」


そこにいたのは短い肢体でガクガクとぬいぐるみに腰を振る花京院の姿だった。こちらは見えていないようだ。お嫁さん、などと言っているのはあの熊のことだろうか?お揃いにファー付きのバイブを咥え込みひんひん喘いでいる。鋭い観察眼は快感に蕩け、器用な手先は無く『お嫁さん』そっくりの丸い手足でホールドし精液を溢れさせている。すでに花京院のよだれと汗とちんぽ汁でふわふわの毛は濡れ、ベタついていた。

本能のままぬいぐるみに種付けする姿に絶句する
これは誰だ。あんな、あんなものは知らない。友人の変わり果てた姿に思考が停止する。声を殺すこともなく、包帯をぐちゃぐちゃにしながらテディベアと抱き合う様子はまるで獣だ。毛皮のある獣を孕ませようとする醜悪で淫靡なモノ。承太郎はその変わりようを恐れ、震え、そしてーーーー


「花京院見てこうふんしたの? 勃起してるけど」

「っち、違う!! そんな、そんな訳がねぇッ、これは、……そう!これはてめーにケツ掘られてるからだ。だから…ッ」

「そっか、じゃあもっと気持ちよくなっていいよ。お尻の中炎症を起こしてるみたいだし毎回やってあげる」

「んなっ、毎回っ!っっっぅあ"!……く、ぅう"、んんんっ!………、ひ、ゥ"おっ……んぐぐぐぐっ…!」


手加減無しで腹のなかを蹂躙される
浣腸液で滑らかなアナルがぐっぽぐっぽと音を立て始めた。女にケツ掘られて欲情する方が親友に興奮するよりまだいくらかマシだった。埋められた手は動かせず唇を噛み締め声を殺す。ケツ穴でそんな声を出すだなんてプライドが許さない。マシとはいえそんなオンナのように達するのは嫌だ。ギリギリと噛んだ下唇から鉄の味が口内に広がる。そこまでして言い繕っても目の前の痴態から、花京院から目を離すことができなかった。


「ンンンンーーーーーっ!!ぅ"あ"あ"あ"あっ、いやだ、やだ、けつで、ケツなんかでぇッツ!!!………っひぐっ!」

『んっほぉ"、あっ! きもちいっ!! そこ、そこっ!!ぼくのぜんりつせっ、ぅ"あ"んっ! ァ、お嫁さ、の前れっ! おひりでいっちゃっっっ!!っく、ァああっ!」

「…………ふたり一緒って仲いーね」


どくどくと金玉が迫り上がる
花京院の嬌声が響く。少女の手は弛まぬままぐちり、と過敏なしこりを抉られ熱が駆け上る。尿道がめりめりと押し開かれゼリー状の精液がゆっくりと上がる。ゾワリと総毛立った。久しぶりの射精に心臓がばくばくする。睾丸が第二の心臓になったように脈打ち中身を打ち出す。すっかり落ちた体力では一回の射精でも妙に消耗していた。


「…っ、ハーッ、ハーッ、んぐっ、ふ、ぅ"……」

「うん、気持ちよかったね。自分でお尻気持ちいって言ってたもん。明日から楽しみが増えたじゃん」


なんてことのないように絶望を告げる
こんなことを毎回されるのか。ぐったりと項垂れた承太郎の視界でまた花京院が腰を振りだした。お嫁さんと呼んでいたぬいぐるみに種付けし陽根から快感を得る雄の動き。自由に性感を貪れる花京院が羨ましい。こっちはこんな汚泥の中残飯を気まぐれに与えられて食いつないで生きているというのに、そこまで考えて我に返った。あんな姿にしたのは、あんな体になるまで肉を喰ったのは自分ではないか。深い罪悪感と、飢餓。白いうなじが汗を輝かしなんとも肉感的だったのだ。あの時、花京院を見た時渦巻いたのは肉欲か食欲か? …そんなもの、考えたくもない。ぼんやりと視界に少女を捉える。承太郎はもう十分すぎるほど憔悴していた。その頭に温もりが触れる。


「よくがんばったね、えらいえらい。ちゃんと明日からは忘れずくるよ。かぶれてるみたいだし薬もあげる。大丈夫、私のスタンドの中では死なないから、ね」

「………ん。…おい、この中では他に何がある」


穏やかに髪を撫でる。
頭皮からの脂と垢でベトベトだ。かゆくてかゆくて仕方ない場所を刺激されて気持ちがいい。快感に流されつつも情報を集める。始めと比べてだいぶ人間らしくなった、というか言葉が通じそうだったのだ。これを逃す手はない。少女はその問いに少し悩むと口をひらいた。


「何ができるかってこと? 言っても意味ないと思うけど……んー、死なないし老いないし…あ、あと時間はかかるけど元通りになるよ。花京院のお肉、いくらでも食べれるから心配しないで。きっちり反省できたらまた作ってあげる。二人の友情っての? 感動しちゃったからもう一回やろうよ」


とんでもないことを言い出した
また、だと…いやしかしもっと重要な内容があった


「っ治るのか! あの手足が!!」

「え、うん。でも時間は無茶苦茶かかるよ。普通の病気とか怪我も数倍かかるし…あれなら10年くらいはいるんじゃないかな」


10年
それだけあれば元に戻るのか。あの無残に切り落とされた手足が、元に。それは紛れも無く希望だった。変わり果てた友人の姿に揺さぶられた精神が縋り付くには充分なほどの。


「花京院の肉はいらねぇ…だが傷が治るまで置いてくれ、おれならどうなってもいい。おれになら何をしてもいいから、だからっ」

「うんうん、友情っぽいね。あれでしょ? 映画でよく見る身がわりっての。友達思いなのは良い事だよ。ひとまず終わってから考えようね」


ひとまず終わったら
一旦何かが区切りよくなったら、チャンスがある。それまではこの女に従わなければならない。実に単純でわかりやすいルールだ。『良い子』であることが要求されているだけ。与えられた救済に比べ軽すぎる責務。承太郎は楽しそうに笑った少女に媚びるような笑みを向けた。











「今日の分だよ」

「おう」


またいつものようにやってきた少女を出迎える
あれから従順にしたからか、それとも他に要因があるのか上機嫌に食べものをくれる。もちろん依然と同じ残飯だ。しかし麻痺しつつあるのか初めよりマシになってきた。入れられたばかりの頃は、カビの生えた土に触れた野菜の切れ端に口をつけるのも嫌だったが、今では魚のハラワタだってすすれる。頭上から降り注ぐ生ゴミにももう慣れた。蓋を開けるたびに臭いに眉根を寄せるのは屈辱的だった。しかしこの状態で、こんな現状で顔をしかめるなという方が酷だろう。

臭気に吐き気をこらえながら蓋をひらき、眉を寄せながらも健気に水を与え汚い尻穴にまで薬を塗ってくれる少女に恩義、とでも言うような感情が沸くのを止められなかった。

mae ato

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -