■2.新鮮なうちにお召し上がりください

達磨院の生活


ガチャリ、と扉が開く。
彼女が来る、と言うことは食材が尽きたのだろう。もはや歩く事もままならない体で扉へ向かう。ここは檻の中、キッチンの真横に設置されたケージに入れられた状態で花京院は目を覚ました。

彼女がケージの扉を開けるまで食事も、水も与えられることは無い。渇き、飢えた体は痛みを覚悟で生きようとする。開けた口から脱水により粘度の上がった唾液が垂れる。ぐぅう、鳴った腹が自己主張を繰り返す。肘から先が無い両腕、膝から下が切り取られた両足。起き上がった頭は極度の貧血でクラクラした。体が安定せず犬のように四つん這いで歩くしかない。切り口が床を叩くたびに傷口が潰れ酷い痛みを伴った。



しかし手足の肉を渡さなくては水の一滴も貰えない。
花京院は血肉を差し出し餌をもらう家畜となっていた。



ずるり、ずるりと腹を擦り歩く。
花京院は休み休みケージの柵に近づいた。消耗し、栄養も血も足りない身体ではたった数メートルの移動もおっくうだ。しかし急がねばならない。肉だけ削いで『遅かったから餌なし』とでも言われたら次少女がやってくるまで行きていられる自信がない。疲労困ぱいでよたよたやってきた花京院に少女は無機質な目線をくれる。ギラリと光を反射する包丁を取り出し言った。


「承太郎が美味しいって言ってたよ。友達の助けになれて良かったね。今日はハンバーグを作りたいんだけど…赤みが欲しいから足出して」


不便な手足を痛めつけながら動き、体の前後を逆にする。口に入るお肉に薬が残るのはよくないと言って麻酔もくれない。ただ静かに、従順にしていれば終わった後に鎮痛剤を貰える。そうすれば薬が抜けるまでの間は痛いことはない。痛くないだけで辛いことはあるのだが。

ぴとり、と鮮烈な冷気が傷口に当てられた。
鋭く研がれた刃は真水のような冷たさを纏っている。覚悟した事とはいえ分かりきっている恐怖に震えが止まらない。また、また傷口が焼かれ、血を絞られ、元の体から、日常から遠ざかる。激しく鳴る鼓動、荒くなる息を止め目を瞑った。


「い"ッッギ、っぁ"あ"あ"あっ!!!ーーーーぁ、あぁああぁああ"あ"あ"ッツ!!!」

「はいはい、痛いの痛いのとんでけー」


どうでもいい、と言うように少女は絶叫を受け流す。
まだ半分、鍛え上げられた肉体は厚い筋肉を持ち、途方も無い苦痛を味わい刃を埋められても骨にすら届かない。力が足らないのかカツリ、とわずかにぶつかった骨が包丁の邪魔をする。それを切り砕くため勢いよく包丁を殴りつけた。


「ッッギ!!ぅ、がっ、ああ"っ!ァア"っ!」


ひと押しひと押しする度に抑えきれない悲鳴が上がる。
生理的な涙が溢れる。暴れることもままならない肉体でぬいぐるみのような手足をばたつかせた。


「んー、段々骨が太くなってきた…もう包丁だけじゃ無理かなぁ」


不穏な一言。
しかし自らの悲痛な声に遮られ花京院には聞こえない。がちん、と骨にヒビが入り骨髄が抉られた。あまりの痛みに体が跳ね上がる。手足はもう無いが、綺麗に割れた腹筋が床から体を持ちあげる。中途半端な傷口から鮮血を撒き散らした


「ーーーーーーっ!!!っぁあ"あ"あ"あ"あ" ッ!!っひ、だッ!ぃ"っだい!!」

「うわっ、これ掃除するのめんどくさ…」


暴れた体はうつ伏せになり、意図せず包丁を食い込ませる。その痛みにまた体が動き、切り口は滅茶苦茶だ。何本も傷ができ、部分的にミンチのようにまでなっている。痛みに跳ね、傷を生み、また痛くて動く悪循環。慌てて少女はびくびくと感電したように痙攣する肉塊を取り抑える。


「っひだいッ!っがぁッツ!!いっいた"っ!!あし、あ"しが、っツ!!」

「わかったってば、すぐ切ってあげるから落ち着いて」

全裸を自分の血で彩りながら花京院が泣きじゃくる。
パニックで過呼吸になったのか、おかしな息遣いで少女の胸に顔を埋める姿はまるで母に甘える稚児のようだ。暴れ、短い手足がどたどたと床を叩く度包帯に血が滲む。涙と飲み込めない唾液と溢れた鼻汁で顔を汚しながら、所有者にすがりついた。早く、はやく終わって、ご褒美をくれ。その一念で驚異的な精神力を絞り出し、ぐちゃぐちゃの傷口を差し出す


「ッヒー、ひーっ!っけひゅっ、ぅ、あ、ぁしッ!いだいの、とっれくれッ!!」

「はーい」

深々と骨に食い込んだ切っ先を力任せに引き抜く。
ぶしゃりと噴水のように吹き上がった血飛沫を浴びながら新しい道具を少女は傷口に埋める。途中まで開かれた肉を通り骨にそのギザ歯が当たる。ーーーごりり、ごりり、と鈍く、低い音がした。小さなノコギリを持ち出した少女は自らの腹に泣き縋る青年の骨を削り切ろうとする。それは確かに包丁よりも効率的で、残虐な方法だった。脳内麻薬が溢れたのか薄れ行く痛みに花京院は恍惚とし始めた。自分では入れない忘我の地。血が足らず、あまりの痛みに本能が『最期』を少しでも楽にしようともたらす快感。陶然とした目で少女を見上げ、よだれを白痴のようにこぼす花京院の性器はこれ以上無いほど勃起している


「……ぅ、ぁ"あ"……」


ヒクヒクと痛みでないものに体が反応する。
綺麗に太ももを半分まで短くされた花京院は呻きながら手当を受けている。金属のベルトの様なもので傷口を圧迫し太い血管を止め、中央を多めに抉ることで余らせた両端の皮膚を縫合する。生々しく赤い肉が照り輝き、骨と脂肪の白が混ざって潰れた練乳いちごのようだ。未だに焦点の合わない目で、勃起を擦り付けようとへこへこ腰を振る花京院の体に抗生物質が打たれた。ここまではいつもの処置。ここからは耐え切った花京院への『ご褒美』だ。


「…ほら、腰上げて」

「……んっ!」


黒ずみ、女性器の様に縦に割れたアナルに指が差し込まれる。切り終わった後痛みに嗚咽する花京院を置いてキッチンに肉を運んだ。鮮度が高いうちに血抜きまでしたのでゆっくり嬲る事ができる。うっすら脱肛しているそこをかき混ぜ、いたぶられすぎて腫れ、淫猥な自己主張をする前立腺を捏ねあげる。ぐにり、とおす度にバカになったちんぽからだらりと精液が漏れた


「……ん〜〜〜っ!っは、そこ、そこ、すぃすりしてっ!」

「すりすり、ね。バイブはいいの?」

「っ、いる!ぼくの…ぉ、おしり、ぐちゃぐちゃにっ!!」

「どーぞ」

すっかり痛みの後の脳内麻薬でとろけた肉体に注がれる快感を覚えた花京院は実に素直だ。泣き喚いても罵倒しても懇願しても終わらない暴虐は別の何かでそらほかない。抗生物質と一緒に与えられた鎮痛剤が効くまでの間アナルを犯してもらい、甘い快楽に鳴くのが常であった。死に瀕した身体はβエンドルフィンやドーパミン、セロトニンを分泌するが、それは通常のセックスの200倍とも言われている。それらは多幸感をもたらし、花京院の反抗心を少しずつ、手足が短くなる度に削ぎ落としていった。


「………ぅ、ぅう"アっ! んっ、ぁああっ、……っは、ぁ、ん……っっつ! ふ、ぁ……」


ずりずり、と細身のバイブが腸壁を擦った
何枚ものヒダがおうとつを阻もうと絡まり、そして花京院にひどい快感を与えながら突破されていった。痛みから気を逸らそうと目を瞑り、後孔の感覚に集中する。死への本能と生殖機能の累乗で異常な快感が花京院の自我を壊していく。加虐の少女の膝上で丸くなり鳴く姿は猫に似ている。白い背中にうっすら汗をかき、きゅうぅうっと肛門括約筋を締め上げる。ぷつぷつと竿部分の出っ張りが腫れ上がった菊紋を弾き、その度高い声をあげた。

何度も切り落とされ、犯される。
正常であろうとする精神に反し身体はどこまでも堕ちていった。一度快楽の海に溺れたらば後は沈むだけ。自分の言葉で盛り立て、性感を高ぶらせる術を学ばざるを得なかった花京院はためらうことなしに喘ぎ叫ぶ。


「……っん、ヒぁっ!!………う、んっ、…っはぁ、ぁ、そこ、ぼくのおしりっ!…もっかい、…こりこり、やってっ!〜〜〜〜〜〜っんんんっ!!、っぁ、そ、それ、すきぃッ!」

「ここ?」

「そっ、そう! ぼくの、……ぇ、めすあなっ!…もっとしてぇ……っ!、ァ、んんっ、ぁあ"っ


肘までしかない手で少女の細腰を抱く
大幅にコンパクトになった肉体は小柄な女の膝の上に十分乗る大きさだ。ぐりぐりと鼻を押し付け清潔感のある柔軟剤の匂いを嗅ぐ。二度と戻れない日常の、平和の匂いだ。いつでも殺せる花京院を生かしているのは、こうして頭を撫でて、気持ちよくしてくれるのは諸悪の根源たる少女だけだ。抵抗する事すら叶わず、ガリガリとやすりがけられる心は加害者の憐れみに温もりを感じてしまう。溢れる涙を快感のせいにして腰を振る。黒ストッキングに鬼頭が擦れてびりびりとした電流が腰を通り抜けた。


「ちょっと汚さないで、……もう、下ごしらえしたいから行くね。バイブのスイッチ入れて置いてあげるから止まるまで遊んでなよ」

「…ぇ、や、やだ…もっとしてくれよ…ぁ、スイッチ、ーーーーーッツ!!っぁあああ"あ"っ?! …な、んで、ぇ……っひゅッ!!ぁ、いくっ、いくいく、いっちゃ、っっっっ!!!」

「あ、それちょっと改造したから気持ちよくなってるはず。別に精液は使わないから好きなだけ出してていいよ」


動けず追いすがる事も出来ないまま喘ぐ
この間まで気持ちよかった刺激が格段に強く、痛いほどになっている。ブィイイイイイイン、と凶悪な音をさせながら花京院のナカへと入っていった。ぎゅうと押し込まれてしまえばもう自力で出すことは出来ない。両手が無く、イキっぱなしの肉襞は愛しい擬似ちんぽを抱きしめ離そうとはしない。先ほどとは違う刺激に跳ね回る身体でトコロテンをし、床に精液を撒き散らしながらじたばたもがいていた。

足元で無様な声をあげているいも虫を一瞥する
このケージ、と言うか柵はギリギリ跨げる程度の高さしかない。たったそれっぽっちの高さも超えられない花京院の心情はいかほどのものだろうか。絶頂地獄に落ちた肉塊の悲鳴をBGMに冷蔵庫を開けた。今日はハンバーグにしよう。あぁでも中華もいい。シチューも捨てがたい。迷ったら全部作ってしまえばいいのだ。どれもきっと承太郎は美味しく食べてくれるのだから

















ぐにゃり、とキッチンの壁が歪む。

その正面にあるケージ
その中で花京院は信じられないものを見た。

ぐったりと倒れた大男
それを片手で引きずる少女のぶすくれ顔
ぬるりと床に垂れた花京院のものではない血

意識を失った承太郎を連れて少女がやってきた


「…っ、じょ、承太郎!!」

「あぁ、花京院。もう解放してあげるね。こいつには美味しいお肉を食べる権利なんてないよ。だからおしまい」


不機嫌を露わに吐き捨てる
何が気に入らなかったのか、片手で鷲掴みにされた髪はぶちぶちと抜けながら承太郎の全体重を支えている。どこにそんな腕力があるのか軽々と引き回していた。それを放り捨てケージの扉を開く。檻から出る様子もなく花京院は少女を問い詰めた。


「食べる権利、だって…? 一体何の話しだ!ぼくの肉で十分満足しただろう?!」

「私はね。承太郎はそうじゃなかった見たい」


くい、と刺された指の先
一周鏡ばりの異様な空間、そこに見るからに美味しそうな料理が並ぶ食卓と椅子、そして床に垂れた大量の吐瀉物があった。まだ食卓の上の料理は暖かく、湯気と食欲を誘う香りを放っている。最後に餌を与えられてからすでに3日たち、一切の飲食をしていない腹がぐぅと鳴る。


「美味しく作ったのに、吐いちゃった。だから私の料理でできた分のお肉、返してもらおうかと思って。…だって勿体無いもんね。食べ物を無駄にする屑はそれぐらいしか役に立たないよ」

「……なら、無駄にしなきゃあいいのかい」


口内のなけなしの唾液が湧く
とてもいい匂いが隣の部屋から、開かれたケージの向こうから漂ってくる。おなかがすいた。喉もからからだ。もう、解放されたと言うのなら檻の中にいなければならない事はない。


「え? うん、そうだね。でも承太郎にはあげないよ」


ぐっと肩に力を入れる
獣のように這って歩くにはかなりの筋力が必要になってくる。ここしばらくでたくましく育った筋肉が前に前にと身体を進めた。少女は何も言わずただ見ている。花京院がなにをする気なのか図りかねているのだろう。花京院の背丈では到底食卓になど届かない。ようやく塞がりかけてきた傷口を押し潰し、縄の絡まった椅子の前にたどり着いた。


「………どうするの? 持ち上げたりなんてしないよ」


知っている。
それに食卓の上の料理を平らげところで彼女は納得すまい。あれは食べなかった事よりも吐き戻した事に怒っている。背中に視線が刺さった。

幸いにも、消化はさほどされていなかった


「……うっわぁ…普通食べる? それ」


明らかに引いている声
しかし飢えた身体は美味しそうな食事に弱い。一瞬躊躇したもののすぐさまがっついた。承太郎の唾液が混ざったもの。承太郎の口内で噛み砕かれ、すり潰されたもの。承太郎の体温か料理の温度か、どちらにせよ生暖かい。どろりとペースト状になっている中所々浮いた野菜屑や肉片が嬉しい。どれほど詰め込まれていたのか、ちっとも胃酸の味がしない。まるで流動食だ。しかもいつも与えられている餌よりずっと上等なもの。大河のように溢れた承太郎の吐瀉物を舐め啜る。こっちはデミグラスソース、こっちは味噌汁、か? 随分ごちゃごちゃしているメニューだ。そしてどれも絶品だ。空腹は最高のスパイスと聞くがそれだけではここまで美味しくないだろう。餓えにまかせて半分ほどすすった後、顔をあげる。


「ぼくが食べる。それなら無駄にならならだろう? だから承太郎には手を出さないでくれ。冷蔵庫の中にはまだぼくの肉はあったはずだ」


ケージ正面のキッチン
常に見ていた光景から話す。大切に、肉の元である花京院よりも大事にされしまいこまれた肉塊はまだいくつかあった。あれを全部承太郎に食べさせるまで終わらないつもりだったのだろう。それとも花京院が死ぬまでか? どちらにせよ消費しきれば無駄にはならない。


「承太郎の積を背負うってこと? 」

「あぁ、だから承太郎には何もしないでくれ」


んー、と呟きながら逡巡する
長い時間がたった。どうしよう、どうするべきか。承太郎の悪事は裁かれるべきだけれども花京院の姿勢には敬意を払いたい。あいつは関係ない、 だなんて叫んだ承太郎には勿体無いくらいの友情だ。


「……いいよ。承太郎にあった場所に置いてくるけどそれからは何もしない。ただし、ちゃんと食べてね。連帯責任だから花京院もダメだったら……ひどいよ?」


そこまで行ってゴミ捨て場に足を進める。
後ろからはまた、嘔吐物を舐める水音が聞こえてきた

mae ato

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