私の男

跡部さまと女子生徒たちの黄色い声援が聞こえる。立海のマネージャーであり、副部長である真田は耳を貫くような甲高い声に耳を塞ぎたくなった。
氷帝と合同練習をすることになったのは二週間ほど前。そのとき氷帝レギュラー陣は必死にお願いをしていた。

なるべく、なるべく氷帝生徒にバレないように。内密に頼む。

今なら彼らがどうしてそんな必死にお願いしていたのか分かる。この声援は、辛い。跡部を先頭に練習などが始まるとその名前だけ連呼され指示が聞こえなくなるほどに邪魔されるのだ。

女子生徒たちのその声援のせいで立海メンバーはドス黒いオーラを放っているわ、跡部の機嫌は悪いわ、良いこと無しだ。それに何故か


「ちょ、そこの立海ゴリラ女!!氷帝に近づくなぁ!!」

「あ、跡部さまと忍足くんにドリンクを!!」

「私たちでも渡したことないのに!!」

「跡部さまと忍足くんに触るな!汚れちゃう!」

自分が罵倒の矛先にされていた。

怒鳴っても泣いても誰にも叱られない気がする。むしろ慰めてくれそうだ。

流れる汗を拭いながら真田はそう思った。熱烈なファンがつくと男子は辛いなと他人事のように感じる。取り合えず幸村に次のメニューの打ち合わせをするために女子の声援から逃げるように立海ベンチへと向かう。幸村と声をかけるととても素敵な笑顔にぞくりと鳥肌が立つ。


「・・・ゆ、幸村?」

「真田、ここにいる女子全員イップスしていい?」

「は!?」

「やめたまえ幸村くん。女子に手をあげるなんて・・・やるなら彼女たちを泣かすからいなら・・・」

「柳生それじゃぁダメだぜぃ。おもっきしボールを投げつけるくらいで・・・」

「そうじゃのう、あいつらの推しメンに成り済まして・・・」

「それだけじゃすまねぇーっすよ。復帰できなくなるまで潰してる」

「落ち着けお前たち。やるなら絶望の淵に落とすまでやれ」

「お前が一番落ち着け」

全員(ジャッカル除く)が怖いことを呟く中、「今日は水炊きがいいなぁー」と現実逃避をし始める真田だった。


そんな中氷帝もある今黒いオーラを放っていた。

「跡部落ち着きーや?」

イライラとオーラを放つ跡部の背中を鬱陶しそうに忍足が押す。

「珍しいな女子の声援にイライラしてるのか?」

クスクスと笑う宍戸に跡部の目が鋭く光る。どうやら本当にキレているらしい。
樺地と一言呟けば宍戸は樺地に背負い投げに近い仕打ちを受けていた。

『ちょ、そこの立海ゴリラ女!!』

『跡部さまと忍足くんに触るな!汚れちゃう!』

自分の彼女があんな風ないい方されてキレない彼氏はおらんわなぁ・・・とため息をつく忍足たちとイライラがマックスまで来ている跡部に気付かないまま、氷帝女子の声援は真田への罵倒に変化した。

すまんなぁと謝る忍足のバックから真田を罵倒する女子の声が聞こえる。真田は珍しく苦笑いをしながら忍足と握手した。その間も忍足くんに触るなだとか聞こえるがもう無視を決め込む。


「忍足、手加減はいらん。全力でこい」

「ふっ言うなぁ。皇帝さんに手加減なんていらんやろ?」

「わかっているではないか」


真田は羽織っていたジャージを投げ捨てた。皇帝と呼ばれる彼女は常に誰にでも本気で挑んでくる。負けてはならぬ。必ず勝て。それが彼女のポリシーであり、掟だ。そんな彼女は忍足にとってとても面白い存在だった。そんな彼女があの氷の王と恋仲であるとは誰も知らぬだろう。むしろ知られたら困る。跡部も真田も、互いに悲しむ結果になるのは目に見えていた。

ほんま、あんな女子たちがおらへんかったらなぁ

忍足はあり得ないことを頭の片隅で考えた。二人が幸せなのが一番幸せな忍足はもし女子たちがいなければ、二人は・・・など真田が聞けば戯れ言だと一喝されてしまう考えを蹴散らした。

今は試合に集中しよう。目の前の皇帝を倒すことが今回の課題だ。忍足は高笑いする真田を見つめてラケットを握り直した。


「お前の所のメス猫だろ。どうにかしろよ。」

不機嫌な声を隠さずに言う幸村に跡部は頭を抱えた。

「俺がどんなに言ったってアイツ等にとっては御褒美なんだよ。」


跡部が例えバカにしたように何を言おーうと彼女たちにとったらただ跡部が此方に意識を向けてくれたという事に都合よく変換される。もうお手上げだ。という意味を込めて言うと立海メンバーは顔をしかめた。


「ゲームセット!!ウォンバイ真田!」


審判の声に女子生徒たちは悲鳴をあげた。やだーとか、きゃーとか、しんじられなーいとか。忍足は少し悔しそうに真田に握手を求めた。


「ごめんな、ほんまにうちの女子が煩くて。」

「モテる男は大変だな」


嫌味ったらしく言ってくる真田に忍足は笑い流れ落ちる汗を拭った。

「モテてもええことないで」

そうか?彼女に困らないじゃないかとまた冗談を言い笑う真田に忍足は彼女の耳元で囁いた。

「でも、跡部がモテんのはイヤやろ?」

「!!」

分かりやすく顔を赤くする真田に忍足はニヤリと微笑む。なぁ?と聞き返すと真っ赤な顔で睨んできた。然程怖くないその目に忍足はよしよしと頭を撫でた。コート交代だCー!と丸井を着かんで叫ぶ芥川にわかったと答えコートを空ける。コート外のベンチに座ると真田がぽつりとなにか呟いた。


「・・・だ」

「ん?」

「・・・跡部が、モテるのは・・・いや。声援も・・私だけがしたい」


そんな真田の言葉に忍足はふふふ、と笑う。彼女はどうやら跡部にベタ惚れのようだ。跡部が聞いたら嬉しがるやろなーと思いながら忍足とふと自分に影がかかっていたことに気付く。忍足があっ、と声を出すが真田はどうやら気付いていないようだ。

「ふーん、なかなか可愛いこと言うじゃねーか」

聞こえた声に顔をあげた真田が自分の口を両手で押さえた。その反応に声の人物、跡部はニヤニヤと嬉しそうにこちらを見ている。

「まさか、お前からそんな言葉が聴けるとはな。普段は素直じゃねぇ癖によ」

ん?と真田にのし掛かりクスクスと笑う跡部が、真田には悪魔のような微笑みに見えたのか、赤い顔をさらに赤くして、素手に涙目になっていた。さすがに可哀想になってきたので忍足はさらりと助け船を出す

「跡部、次丸井とジローのダブルス相手やろ?準備せんでエエんか?」

「あーん?もうあっちはできてんのか?」

「準備万端みたいやで?」

跡部早くするCー!!と叫ぶ芥川の声が聞こえる。味方コートにはペアの仁王がダルそうに跡部を待っていた。仕方がねぇなと真田から離れる。

「おい真田。次は俺様をちゃんと応戦しろよ?」

そう囁いて真田から離れる跡部に真田は後ろからタックルをかます。ぐはっと声をあげる跡部と女子の悲鳴にその場にいた全員が忍足のいるベンチに視線を向けた。

「さ、さなだ!?」

「てめ・・・なにしやがん」

「必ず勝て」

「あーん?」

後ろから抱き付かれたまま跡部は顔をしかめる。真田は恥ずかしそうにそれでも全員に聞こえるように発した

「私の男なら勝ってみせろ」

言って恥ずかしくなったのかぼふっと跡部の背中に顔を埋める。跡部も突然の事に頭がついていかないのか目を丸くし、優しく微笑む。



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