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連れ去られる花嫁



「いだっ!痛いよダーク!」

「うるせぇ黙れ」


まぁいつもどおりの返答ですねありがとうございます。しかしながらどうして今日に限ってダークは珍しく私の元へ来てくれたのだろうか。来てくれたっていうか、来ちゃったんだろうか

今日は私の結婚式なのに。

というのも、私の家は少しだけ一般市民より地位が上にある家系だった。兄弟も多ければつくる子供も多いような家で、兄弟が多ければ姉や兄がいるということで、つまり姉か兄が結婚して子供をつくってしまえばそれでもう私や弟や妹の“血を残す”という役目はなくなるわけだけれど、でも結婚だけは全員しないと駄目なんだと親はのたまう

何が不満なんだ。私たちは別に結婚なんてしなくても自分で稼いで生きていけるし、子供も欲しけりゃそのうち勝手に結婚するというのに。親はお見合いの話ばかりを持ってきては私たちをうんざりとさせていた

自分で言うのもなんだが、私の兄弟は特におかしな部分がある。

お嬢様らしくなんて出来ないお嬢様だし、紳士らしくなんて出来ないお坊ちゃんだし、とんだやんちゃ者で野営も大好きな感じの家であった。思考だってどこか斜め上を向いていると思う。それは私自身はどうかわからないけれど、少なくとも私以外の兄弟はそうだ

私は結婚しなくてはならない。相手も見つけなければ。その相手というのがこの前、つい数日前に見つかった。好きではないけれど一緒に居て楽しいところはあるし、まぁ一緒に生活するのなら文句はないだろう男性だ。

本当は好きだという気持ちもあったほうがいいのだろうが、残念ながら私の乙女心はダークへと一生向きっぱなしになると思われるので、どこぞの男のものになることなんか絶対にない。これだけはいえる。

子供もつくらない。そのための夫婦の営みとやらがまず、好きな相手じゃないので出来ない。ダークの子供ならば喜んで産む。

だったらいっそのことダークと付き合ってしまえよという意見がそこかしこから聞こえてきそうなもんだが、生憎と魔物と結婚だなんていう常識からは並外れたことは親が許してくれなさそうなので、したくても出来ないのだ

家を逃げ出すわけにもいかない。だって私にはすることがたくさんある。弟や妹たちのこともある。

こういったことを全部ダークに話せば、ダークはすぐさま拳を私の頭めがけて振り下ろした。強烈な一撃に思わず撃沈してしまうかと思った。


「もう!私これからドレス着たり化粧をされに行かなくちゃいけないんだよ?たんこぶ出来たらどうするの」

「あぁいいこと思いついた。お前の顔を人前に晒せなくなるまで殴りつけて傷だらけにしよう」

「ど、どどどどどうどう落ち着いてダーク正気じゃないよダーク!」


いや、ダーク相手にどうどうと言いながら馬を落ち着かせるような行動を取っている私も、大概正気ではないけど。でもいきなり顔面崩壊するまで殴ってやる宣言されて動揺しないやつのほうがおかしい。

一体どうしてしまったんだ。そんな思いをのせてダークを見れば、ダークは眉間にシワを寄せて怒っている顔をしていた。何回か見たことはあるけどこの顔は正直怖い。顔が整ってるから余計になんか怖い

ダークが私の腕を掴んで、それから私に問いかける。逃げられない


「お前の今までの言葉は全部嘘だったのか?」

「え?」

「よく嘘で俺にあんな気持ち伝えられたもんだな」

「あ、あぁ・・・・・好きってやつ?あれは本当だよ!ダークのこと死んでしまうくらい愛してるしダークと結婚したかったよ!」

「・・・・・・・・・・言ったな?」

「うん?」


今言ったからな、お前


そういってにんまりと口角を吊り上げたダークに、ひくりと頬が引き攣る。まずい。何か私言っただろうか

ダークの雰囲気に押され気味だった私は、やがてダークが喉をくつくつと鳴らしながら笑うのを耳にして、本能的に逃げようとダークの手を振り払った


「ひ!?ぁ、ぐっ・・・!」

「逃がすかよ」


ダークの真っ黒な手が私の首をとらえて、そのまま引き寄せると、私の耳裏にキスをひとつ落とした

状況が理解できない私の脳内はダークにキスをされたというだけでオーバーヒートしてしまい、意識を吹っ飛ばしてしまったらしい

ダークは愉快そうに笑って、真っ白な純白のドレスを踏み潰した


「お前に白は似合わねぇ」


お前は俺のだ。あいつのものなんかじゃない。




(例え上辺だけの結婚だとしても夫婦の契りをあいつと交わすなんて絶対にゼッタイに許さねぇ)