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命宿るお腹に不安



「私は結婚はしないよ」

「?なんで?」

「だって、大変だから」


姉は失敗してるし、いい結婚の例だなんて見たことがない

それは別に結婚自体を嫌ってるとかそういうわけじゃなくて、ただ私の周りがうまくいってなかっただけで、他の人はきっとそんなんじゃないんだろうなって思う。でも極端に私の知ってる結婚生活というものが駄目すぎたのだ

結婚ってすごい。血の繋がりもない赤の他人と一緒に人生を歩んでいくんだもん。そんなのきっと、私には無理ね。特別優しい人じゃないと無理。それも、今の私じゃあどれだけ優しい人が居たって結婚には踏み切れないだろう

私はまだ16だけれど、もう結婚という形を見るのはうんざりだ

それくらい幸せな結婚を見たことがない


「だってね、この前もお姉ちゃんが家に帰ってきたんだ。殴られたって、旦那さんに家追い出されたって、子供四人も引き連れて」


離婚するって何度も何度も言ってるのに、何度も何度も無駄に仲直りをしては殴られて、子供だって託児所行きになったりしてるのに姉は懲りなくて、

馬鹿だなぁって思う。早く離婚してくれないと迷惑なのは私やお母さんや他の兄弟なわけだし、いい歳して駄々をこねるのはやめてほしい。別れるなんて言っておきながらまだ旦那さんのことを好きだとか、離れたくないだとか、もう聞き飽きてしょうがなかった

お姉ちゃんはきっと運や縁が悪い人なんだと常々考えずにはいられないくらいそうだ。寄ってくる男は変なやつらばっかりで、惚れる男も駄目なやつばっかりで、喧嘩するタイミングも、子供を産むタイミングも、後先考えないところだって頭が足りてないんだろうから可哀想。私もいずれはああなってしまうのかと思えば、結婚なんてしたいとは思えない

姉が幸せならばそりゃあ全力で結婚を祝って、ウェディングドレスを着た姿だって綺麗だねって褒めて、笑顔で私も喜ぶことだろう。なんたって実の姉の、晴れ舞台なのだから。でもそれが旦那になった人物が酷い暴力男で性格も駄目なやつだったもんだから、姉が本当に幸せなのかもわからなくて、家族だって素直に祝うことはしなかった

あぁ、どうしてこんな風になってしまったんだろう。お母さんがそう呟いていた

子供だって暴力を振るわれて、おまけに託児所なんて場所に預けられ、家に帰ったってまた理不尽なことで怒鳴られて、どうしろっていうんだよって叫びたいだろう。

全部姉がつくった家庭だ。

全部姉が選んでした結果だった。

だから結婚は駄目だと思った。似たようなことになったら、それこそ私は生きていけないと思った。無意味に子供をつくるのも嫌だと思ったし、そもそも恋人をつくることさえ抵抗を感じ始めるくらいにはすごかった

姉だって将来を誓い合った男なのだから、子供をつくったのだろうけれど

自業自得で姉は泣いて苦しんでるんだと思うと、逆にこちらまで悲しくなってくる


「結婚して豹変する人だっているくらいだから、怖いね」

「そうだな」

「ただでさえ私の家系は子供が出来やすくてボロボロ産まれるような体質してるのに、なんでわからないんだろう」

「そうなんだ?」

「つい最近、五人目を妊娠したんだよ」


お姉ちゃん

私だって兄弟が多い。つくろうと思えば子供だってもっとつくれたと親は言っていた。でも今の人数で十分だったからつくらなかっただけで

お祖母ちゃんだって子供は二人しか育てていないけれど、流産した数も数えればそれなりに産んでいる

私だってそうなのだろう。姉だってそうだ。ああ嫌だ。どうして幸せじゃないんだろう。どうしてお姉ちゃんは泣いてしまうんだろう。私には何も出来ないのに。私には何も出来ないから、余計にどうしようもなくて、私が辛い思いをするのに

気持ちは周りに伝わってしまうものだとわからないのだろうか


「きっと、頭が足りてないんだね。子供のことも考えてない。考えてても先を考えないで産んだお姉ちゃんが駄目だったんだね。なんであんなことしちゃったんだろう。旦那さんは悪い人だよ。お姉ちゃんは馬鹿な人。洗脳だってされてるんじゃないかってくらい、旦那さんに引っ付いてさ」


酷い目にあうのはお姉ちゃんだけじゃないんだ。子供だって同じ目にあう。


「だから、リンク、お願い」

「嫌だ」

「不安でどうしようもないの。怖いよ。リンクは優しくて、頼もしくて、強いけれど、私はそんなにないの。子供だって守れない。歳だってもう結婚できる歳だけれど、まだまだ子供に近いわ」

「それだけ大人びててよく言うな。けど俺は嫌だ。なまえ」

「・・・・・・・・・・・・・・だ、って」

「安心して。俺がちゃんと守るから。なまえのお姉さんが失敗しただけなんだ」

「リンク・・・・・っ」

「なまえは考えすぎなんだよ。そうだろ?お姉さんばっかり見すぎだ。心配だからってなんでもかんでも見てしまって知恵を頭につけるもんじゃない。あれは悪い例だってわかってるならなおさら、なまえは良い例があるってことを知ってるんだろ?」

「・・・・・・・・・・・・ご、め」

「いいんだ。俺こそごめん、不安にさせてしまってて」


知識程度にでも、幸せな結婚は知っている。身に感じたことがあるわけではないけれど、それでも頭の中ではそれはよくわかっていた

だから私は怖いけれど、産みたいと思っていた

私の子供だもの。リンクとの子供なんだもの。きっとお姉ちゃんもそう思ったんだよ。でもお姉さんは残念だったねってリンクは笑って、私はそれにつられて頬が緩んだ

お姉ちゃんはきっとこの先もずるずると重たい家庭事情を引きずっていくのだろう。そこに今は何もできなくとも、これから先私が何か出来たとしても、手を差し伸べたところで無駄だということはお母さんたちを見ていてわかった


だったら、ねぇ


「見なければいい。トアル村に引っ越すのだって日を早めたらいい。お姉さんを見てなまえがそこまで泣くのなら、俺は攫ってでもなまえを村に連れて行く」


お姉さんのために泣かないで。

リンクは私のお腹を撫でて、それから私を抱きしめた。リンクの腕の中はとても暖かくて、泣いた後の気持ちの昂ぶりが嘘のように落ち着いて、心地が良かった



(リンクとなら幸せになれると思ってるから)