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亡者は飢えている




「あんた、なんかついてるわよ・・・・?」

「え?ついてる?虫?」

「そっちの“付いてる”じゃなくて“憑いて”んの!」


なんだか最近肩こりが激しかったり、急にお腹が痛くなったり、部屋を歩き回る足音がするもんだからまさかとは思ったが。

御祓いを職業として日々霊と戦っている友人の元へと訪れれば、まず顔を合わせて最初に言われた言葉がこれだった。私は「まじか」といった感じでとりあえず促されるがまま椅子に座る。友人は苦い顔をしていた。まずい霊なのだろうか

でも今のところ、別に体調に問題があるだけで死にそうになるとか、そういったことはないんだけれども


「あんたに言ってもいいもんかわかんないけど・・・・私のところに来たってことは、何かあるんでしょ?」

「あ、そう。そうなんだよ。実はね」


そこで私は友人に洗い浚い話した。

階段を上ったり降りたりする音が、誰もいないのに聞こえたりすること。お風呂の洗面器は最初から床に置いているはずなのに落ちる音がすること。それから体調と、視線のことを伝えた

友人の苦い表情は変わらなかった

私が首をかしげながら「でも別に、これといって大きな支障はないんだよ」といえば、友人は「だろうね」とだけ返してくる。だろうねって何


「ちなみに聞くけど、それはなまえの周りに常にいる感じなの?」

「ううん。割と私が一階にいるときに二階にいたりするっぽいけど・・・」

「体調は?どれくらい悪くなる?」

「うーん、ちょっと痛いかなぁぐらい」

「そう・・・・・・・じゃあ、」


そこで言葉を区切る友人。

私は怪訝な目を友人に向けるが、友人は言うか言うまいか迷っているみたいで、しばらくすると意を決したかのように顔をあげた。普段から楽観的な彼女がこうも真剣になっているところを見るとなんだか不安になってくる


「じゃあ・・・・・あんた今、恋人とか、いる?」

「・・・・・・・・・・・・え?」

「恋人。彼氏よ。婚約者でもいいわ」


急に、何。そうは思ったが、私は素直に答えた


「いない、けど。それはよく知ってることじゃぁ・・・・・・・うっ!?」


瞬間だった。

肺が圧迫されるような苦しさに、私は呻き声をあげる

友人は慌てたように私を立たせると、私の肩をぱんぱんと払ったり背中を叩いたりしはじめた。それでも息苦しさはなくならなくて、息を切らせるように呼吸をする私を助けようと声を張り上げる。


「退きなさい!あんたがここにいたら駄目でしょ!?さっさとどっかに消えて!」

「はぁっ・・・・!はぁ、」

「辛いのはわかるけどあんた本当に駄目!それはしちゃいけないことなの!」


誰に話しかけてるんだろう。幽霊とやらだろうか

涙を流し始めた私は、ついに床に座り込んでしまう。過呼吸になるとこんな感じなんだろうか。あぁ、辛い。苦しい。誰だ私にはりついてるやつは

酸素不足で意識がぼんやりとしてきたころ、ふと、肺の圧迫がなくなった


「っげほ!」

「な、何・・・・・?」

「げほっ、ごほっ」


咽る私の背中を撫でてくれている友人に縋りついて、怖い思いを消すように夢中で酸素を取り入れる。まさか、ここに来てこんなことがおきるとは思っていなかった私は、ただひたすらに自分に憑いているものに恐怖を感じた

怪奇現象までは許せたが、これは、まずい


「っ、ねぇ、私の・・・・・」

「ちょっと!やめなさい!」

「え・・・・?な、に」

「なまえ!私の腕を離さないで!今お札取るから!」

「腕?」


腕?私はゆっくりと友人の腕を見ると、確かに友人の腕を私は掴んでいた。これを、離すなといっているのだろうか

でも、でも

私はあまりの衝撃的な光景に、咄嗟に友人の腕を離してしまった


「腕・・・・!だって、腕、ただれてるよ!」

「それは幻覚だから気にしないで!そいつは悪魔の類よ、」


そこまで言いかけた友人の声が、途端に聞こえなくなる

外にいる人達の声も聞こえなければ、本当に、何も聞こえなかった

どうして。友人の口はまだ動いているのに。外だって人はたくさんいるはずなのに。鳥でさえ囀っている時間帯なのに

どうして友人は泣いているの

目を見開いたまま固まっている私の耳元に吐息がかかって、ハッとして自分の肩のほうを見たら、見たら







「ボク ガ イル デショ」



綺麗な金の髪と、青い瞳が視界を占領した

いないはずなのに。彼はもういないはずなのに!

綺麗な口元を歪めて笑う彼に、私はどうしても見覚えがあって思わず絶叫しようとした。けれど口から出てきたのは声でもなんでもなくて、ただの真っ赤な、血のかたまりだけだった





(君は僕だけのものでしょ、ねぇ)

(だから一緒に来てよ。こっちを見て。僕だけ見て。お願い。寂しくて悲しくてなまえが見るものすべて憎く思えて仕方がないんだ)




「え?死んだ?」

「いや、なんか知らないけど、町の女の子が幽霊に連れて行かれたんですって」

「怖いわねー、本当にそんなことあるのねえ」

「女の子も可哀想に・・・・・」