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思春期は周りより本人が一番辛い



どこへ向かうでもなくふらふら、ふらふら。覚束ない足取りでよくわかりもしない道を通り、とにかく家から離れたい一心で歩いた。

けれどもやはり夜中に、しかもたった一人で家から離れるというのはいささか不安も付きまとう。だからか、ある程度離れたら自然と足はそれ以上行こうとはしなかった。不気味な路地裏も、昼間であれば涼し気で凛としている神社も、夜になれば静まり返って怖い。

だからと表通りの大きな道を歩こうとすれば、すぐに探している親や友人に見つかってしまうだろうことはわかっていた。


とにかく見つかりたくなかった。


家に帰りたくなくて、嫌な事ばかり考えてしまうようなこの頭を、不安などで塗りつぶしてしまいたかった。考え事なんてしたくなかった。泣いているところを、見られたくなかったのだ。

それは親が心配してしまうかもしれないからとか、そういうおめでたい気持ちからくるものではない。こんな格好悪いところを見られたくなかっただけ。なんで泣いているのと問われて、何かを答えられる自信が、今の私にはなかった。

確かに心配は多少するかもしれない。今家に帰れば怒られるかも。けれどもどうせあと一時間もすれば親だって友人だって探すのをあきらめるだろうし、結局そうなれば逃げることなんて考えなくなって、頭が冷えて、冷静に家に帰ることができるかもしれない。

すべて憶測にすぎなかったのだけれど、どうしてかそう確信した。


しばらく歩き回っていたが疲れてしまって、神社の鳥居によりかかって座り込んだ。

雨が降り始めて携帯の着信音もかすれていく。マナーモードにしないのは、寂しいからかもしれないなあと、また涙を流した。どうせ雨にまぎれるし、何より情けない自分にお手上げだった。

ぼーっとする。指先が冷えていくのがわかった。このまま死んでしまいたいとも思った。消えてしまえば何も考えなくてもいいのにと。

膝に顔をうずめて体温が下がっていくのを実感していると、どこからか声が聞こえる。


「・・・・・?」


じょじょに近づいてくるその声に、耳を傾けた。こんな雨の中、こんな道を歩くひともいるんだなあと思いながら声のほうを見ていれば、なんだかすごく見たことのある姿が見え始めた。

声も近くで聞こえる。街灯の光で姿が少しの間見えた。


「なまえ・・・・・?」


急いで私は神社の奥へと逃げ込む。どうして!そう思わずにはいられなかった。

だって彼が探しているとも思っていなかったし、探していたとして、こんなピンポイントで私がいる場所にくるなんて誰が予想するだろうか?

あまりに突然だったものだから、焦って逃げてしまった。何してるんだろう、私


「おい!ここにいんのはわかってんだぞなまえ!!」


社の後ろに隠れて座り込む。見つかったらどうしよう、見つかったらどうしよう・・・・!急に寒さが増した気がして震えた。静ちゃんの足音が近くで止まる。

どこかへいって、お願いだから!

息を殺して止まった足音に緊張する。張り詰めた空気に瞬きもできずにいると、ポケットに入っている携帯が音楽を鳴らし始めた。

やばい、


「ああ、やっぱりな・・・・」


足音が近づいてくるのに対して心臓がばくばくとリズムを速めていく。混乱しそうな頭では何も考えられず、とにかく逃げなければと思いながらも足は動かない。

夜でもわずかにわかる金髪が、見える。バーテン服の白いシャツが暗くても浮いて見える。


「なまえ、」


よく見たら静ちゃんもずぶぬれだった。そこでハッとして、私はまた泣いた。


「ごめん、ごめっんなさい!怒らないで・・・・・!!怖いよ怒らないでごめんなさい!!私っ、だって私・・・・」

「別に怒っちゃいねぇ。落ち着けなまえ」


迷惑をかけてしまったのだと、わかっていたことなのにそれを目の前にして怖気づいた。私一人で抱え込むだけならばよかった。けれどもそれによって周りを巻き込んでしまうのが、どれほど心配や迷惑をかけるのかなど、これっぽっちもわかっていなかった。

きっと静ちゃんは、私のことをずっと探していたのだろう。まるで服を着たままお風呂にでも潜ったんじゃないかってくらい、私も静ちゃんも雨に濡れていて。


「正直お前が逃げたことに対してはすげぇイラッとしたがな」

「ごめん、ごめんね、」

「なんで謝るんだよ」

「静ちゃん風邪、風邪ひくよっ。すごい雨ふってるから、寒いよ・・・・私のせい、なの」

「んなこと言ってたらよぉ、お前もそうだろうが。いいから帰るぞ。んで風呂入って飯食って寝ろ。風邪ひくぞ」

「・・・・・・・・・・」

「あとな、お前のせいじゃねぇからな?確かに嫌々なまえを探してたっつうんなら話は別だけどよ、俺は自分の意志でなまえを探してただけだ。これでもし俺が風邪をひいたとしても、こんな雨のなか走り回ってた俺が悪いだけなんだよ。わかるか?」

「・・・・わ、からない。わかりたくない」

「ならそれでいい。正直お前、このままだったら本気で家に帰らねぇつもりだろうと思ってな」


探して正解だった。家に帰りたくなきゃ俺んとこに来い。お前の家にみてぇに一軒家じゃねぇからよ、風呂も狭ぇし部屋も狭いけど、ここよかいいだろーが。


「・・・・・・・なんで、」

「なんでわざわざこんなとこに隠れるかねぇ・・・・」


体が冷たい。そういって私を抱きしめてくれる静ちゃんも冷たかった。けれども触れ合っている部分からじんわりとうまれる熱は、確かにそこにあって、私は唇を噛みながら涙をこらえた。


「っありがとう、静ちゃん」

「・・・・おう。んじゃ、帰るか」


もう不安や嫌な思考は頭の隅にだってなかった。ただただ安心を求めて、静ちゃんの首に腕をまわしてしがみついた。


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