君が幸せだと言ってくれたら
他人の幸せなんてわからないもんだ。
それは人に限らずで、例えば自分の手持ちであるポケモンが、私に懐いてくれているからといって幸せとは限らない。ストレスばかりの日々なのかもしれない。元々はそのポケモンからみて、主人であるトレーナーはあまり好きではない相手なのかもしれない。
与えられている食べ物だって好きな味じゃないのかも。本当は戦いが嫌いなのかもしれない。気になりだしたらとまらなかった。
「お前は幸せかなぁ」
フォークでパスタをくるくると巻きながら、椅子に座っている私の足元でポケモンフーズを食べているポケモンを見下ろす。相変わらずみすぼらしいと紹介されるポケモンなだけあって、みすぼらしいし、その見た目は冗談でも綺麗とは言いがたい。
いやうちのポケモンは、割と綺麗に清潔にしてるし。泥とかそういうのはついていないんだけれども。そういう問題ではなくて。
私のポケモン・・・・・ヒンバスは、こちらを見上げてはじっと私を見つめてきた。それに負けじと見つめ返して「やっぱりお前は、綺麗じゃないね」と呟いた。そうしたらヒンバスは拗ねたようにビチビチ跳ねながら、口にご飯を詰め込んでどこかへ行ってしまったんだ。それでも反省なんてしない。綺麗じゃないね、とは言ったけれど、可愛くないねとは思っていないのだ。言ってもいない。
あんなみすぼらしいと罵られ続けているポケモンであっても、私は自分のポケモンだから愛おしいし、可愛いのだ。
ヒンバスがどこかへ行ってしまったのを見送って、あいつちゃっかり全部自分の分食べてってるな、とどこか感心した。
「あの子は幸せよ。少なくとも虐待されてるわけでも、なんでもないんだから」
「そうかなあ」
「そうよ」
「そうだといいけどなぁ・・・・」
お昼ごはんのカルボナーラを口いっぱいに頬張りこんで急いで食べ終わると、自室へと戻って気になっている本の続きを読むことに。
この小説、なかなか面白くて人気がある本なのである。もうご飯を食べているときも読んでいたいし、外出先でも暇を見つけては読んでたいくらいあるほどだ。別に感動のストーリーというわけではないけれど、コメディな感じはなかなかにハマる。
敷布団を敷いて寝転びながら本を開く。しばらくずっと、とはいっても一時間程度ではあるが、そのままヒンバスのことも忘れて読みふけっていた。あまりにも集中しすぎて近くにいる存在にも気づかなかった。
「おわっ」
そろそろ中断しようかと本を閉じて、起き上がろうと体を起こしたところで、ごろん、と私に寄りかかっていたであろうヒンバスが目の前に現れた。
うつ伏せになっていた状態から四つんばいになった私のしたで、ヒンバスはじっとこちらを見つめる。この物言わぬ目がなんともいえない。何を伝えたいのかなんてわかったもんじゃない。
しかしそんな目でさえも愛おしいのだ。これは重症である。
「ヒンバス、ごめんね」
さっきはごめんね。お前のこと、綺麗じゃないとは本当に感じてるけど、でもとっても可愛いと強く想ってる
小さく笑ってそのまま身を限界までさげると、ヒンバスに潰す勢いで覆いかぶさった。ちゅっちゅっと目元にキスをしてやれば、見てわかるくらい喜ぶヒンバス。あんまり魚の体にしたいスキンシップではないけれど、ヒンバスが喜ぶのだから多少の生臭さなんかは我慢できる。
「お前は幸せものなのかな」
ちなみに私は、ヒンバスがいるから毎日幸せだよ。