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「#エロ」のBL小説を読む
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・もし最後、リンクにばれずに元の世界へ戻っていたら。
・ぶっちゃけ最初はこんな感じのエンドにするつもりだった。

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「戻って、きたのかぁ」

「ピッ」


ゼルダ王女に頼み込んだところ、困惑したような表情を終始ずっと浮かべていたが、なんとか帰してもらえた。目の前が真っ白になったかと思うと綺麗な青空が見えて、それからいきなり自室に景色が切り替わっていたのだが、何があったんだとかもうこの際野暮なことは言わない。あの世界は大体ファンタジーだからこんなことがあってもおかしくはないのだ。


いまいち自分の世界に帰って来たんだという実感が沸かずに、部屋をゆっくりと見渡す。相変わらず汚れているのかそうじゃないのか、微妙な散らかり具合の部屋。空気が篭っているような感じがするのは、しばらくあの世界の綺麗な空気を吸っていたからだろう。現に今、私の部屋の窓は全開である。


「まったく誰だよ。どうせお母さんだろうけど・・・・・」


自分で窓を閉める。こんなことも、リンクのいる世界ではしなかった。

それはもっぱら野宿だったり素泊まりだけの宿だったりしたからだろう。ベッドは欲しいと言っているのに、一向に敷布団から何も変わらない。目覚まし時計は相変わらず壊れてしまっている。頑張って兄弟と完成させた1000ピースパズルは、少し傾いて埃を被ってしまっていた。

大きめの鳥かごや本棚、乱雑におかれたぬいぐるみたちも、何も変わってなんかいない。

部屋のにおい自体は私がいなかったからか、空虚なものへと変わってしまっていたけれど。制服もあの世界へ置いてきてしまって、服装は旅をしていたときのものだけれど。帰って来たんだといざ実感すればするほど、足の力が抜けて立ち上がれず、畳まれている布団たちの上に座り込んだ。うわ埃やべぇ


「・・・・・・・・・・・・・・」


でもなんか、なんでだろう。

納得がいかないっていうか。ぽっかりと心に穴が開いてしまったように、何か抜け落ちてしまっている。

座ったままつま先を見つめても、何もそれ以上想うことはなかった。確かに懐かしい。嬉しい。帰ってこれたのだ、狂喜のあまり荒ぶったっておかしくはないだろう。・・・・・


「間違って、なかったよ」


これでよかったのだ。リンクが好きだった。ナビィちゃんもとてもいい子だった。王女様は結構感情が激しい人だったけれど、実は優しい人なんだっていうこともわかったのだ。ダークだって魔物とはいえ、人間の私によくしてくれた。

よかったはずなのに笑えない。

いっぱい何かを、残してきてしまったような気分だ。最後くらいリンクに何か言えばよかったか。行かないでと引き止めるリンクを説得して、見送ってもらえばここまで虚しくなることは、


足音が聞こえる。階段を上る音だ。

涙が出た。


「・・・・・・・・・っ!!夢主!!夢主なのねっ!?」


なんでこんなにも息苦しいんだろう


▼△


私の部屋にて、数ヶ月ずっといなかった私が突然部屋に現れたものだから、母は涙を流しながら発狂して、それから私を潰さんばかりに抱きしめた。よかった、よかったと頻りに呟いては私の存在を確かめるように、背中を擦った。

おかあさんだ。わたしの。

帰って来てよかったのか、悪かったのかもわからないのに、母のぬくもりに縋った。今まで知らず知らず溜め込んでいた寂しさを発散させるように抱きしめ返した。口を開いたって「ああ、あぁ」なんて意味のわからない音しか出ないけれど、このときばかりは安心感があふれ出た。

その後も兄弟が帰って来てからは。みんなして叫んで泣いて再会を喜んだ。父も会社を早退してまで帰って来てくれて、これまでにないくらい家族みんな笑って泣いていた。とても温かかったから、更に私はまた泣いてしまったのだ。


しかし見えてしまった。


「・・・・・・?」


妖精のようなものが、廊下をふわり。


(逃がさない)


なんで、この世界にはいないはずなのに!

見たことのある光に気をとられ、そちらに目をむけた瞬間、


「うっ・・・・!?」


背中を何かが押した。

階段の上から落ちる直前に振り返れば、青い瞳がスッと細められる。

笑っているのだ

私を見て、口角を歪にあげながら、何か言っている。


「うわあああああぁっ!!!」


ああああ!やめてやめてやめて!!なんでこんなところまでッ!!

浮遊感が体を襲って、まるで見たことのない彼に恐怖を感じた。ぎゅっと目を閉じる。じゃあ、じゃあさっきの妖精はやっぱり・・・・・!

手を無意識に伸ばせば、彼は私の腕を力強く掴んで引っ張りあげた。





ガタガタと体が震えた。背中にふわりとした感触。澄んだ空気。


「ねぇ、おはよう」


もう聞くことのなかっただろう声がする。酷くやさしげな声に寒気がして、目を閉じる前にみた、暗い笑みを思い出しては大きく身震いした。

彼は、あの彼なのだろうか。


「おきてるのはわかってるんだ。目を開けて夢主」


言われたとおりゆっくりと瞼を持ち上げて、隣を見て、私は「どうして」と絶望とはまた違う切なさに襲われた。

なんでここにいるの。私は帰ったはずなのに。家族みんなでどこかご飯を食べに行こうって、今日はみんなで夜更かしだって、明日はみんなで遊ぼうって、それでやっと戻ってこれてよかったと思えたのに。

どうやって私を引き戻したんだ。なんでわざわざ。私はここにいるべきじゃあないのに!


「おはよう、」


夢主。


掴まれた腕が現実だと、痛みと共に訴えかけてくるものだから、私は悲鳴を上げるしか出来なかった。

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