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乱雑に破った紙に文字を書いた。必死だったんだろうなぁと自分で思った。何もしていないのに息は切れて苦しくて、涙は止まることしらなかったのだから。

傍で倒れているリンクの血を手につけたまま紙を握ったものだから、読めないところは色々とあったけれど、見返したら読めないわけではなさそうだ。それに小さく頷いてヤクシャさんを見た。ヤクシャさんは最後のさいごで優しい笑みを浮かべて、私の涙を拭って、血を全て消してくれた。文字通り消えたのだ。ヤクシャさんが触れたところから全部、最初からそこになかったかのように。

私は自分の力をコントロールできるようになった。だからその力を使って、リンクの怪我を全て治してから立ち上がる。呼吸は安定しているので大丈夫だろう


「・・・・ほんとうに、けんをすてるの」


貴方がそれを手にして戦わなければ、世界も女神も私も、救われないというのに


▼△


あぁ、いないんだなあとぼんやり思った。綺麗に覚めてくれない頭で現状をのみ込もうとしたら、そんな言葉しか出てこない。隣にはマスターソードが落ちていた

ボスとの戦いによって勝ちを手にしたのはいいが、出血量も多く耐え切れなくなって倒れたのだ。きっと怪我は夢主が治してくれたのだろう。血はこびりついているが、傷口などどこにも見当たらない


「行こう」


たぶんもう自棄になっていた。もう全部どうでもよかった。空の神殿へと向かうべく足を進めると、一歩一歩歩く度に、空を飛んで近づいていく度に息苦しさが出てきた。こうなるだろうことは少なくとも予想できていたのだ。夢主が、自分を犠牲にして得るものがあるのならば、その犠牲になるだけの勇気があることくらい知っていた

スカイロフトから空の神殿へと行くと、中は大きな聖堂のような場所になっている。だだっ広い空間の大半が緩やかな階段になっていて、それを上りきると華やかに飾り立てられた祭壇が見える。

ヤクシャさんはいない。本当に封印されたのだろうか


「・・・・・・・夢主」


小さく名前を呼んで涙を流したら、とても冷たい、見慣れた手が頬を滑った。

ゆっくりと顔をあげればそこには、見慣れない姿の、夢主が、顔を歪めたまま立っていて。

触れようとしても透けてしまうから、剣を持つべきだった右手は行き場を失った


「・・・・夢主」


聖堂に似つかわしい格好をしている夢主をじっと見つめれば、ぼんやりとした、まるで水に浸透していくかのような響きをもった声が、鼓膜を震わせる。何故か意味もなくまた泣きそうになった


「 りんく 」

「いくら責めても僕は後悔しない」

「 そんなこと、わかってる だってそういう人だもの。 いいのよ、りんく 」

「そんなこと思ってないくせに」

「 命あるもの、いずれは死に行く定め 」

「・・・・だからって世界を見捨てる理由にはならないのに」

「 ううん。あのね、リンク 」


本当に、いいと思うよ。リンクが決めたことだから、いいと思う

結局女神が犠牲になるか、魔王が死ぬかの二択だった。そこにリンクが無理に入って女神を救い、魔王を封印するなんていう平和的解決なんかしなくてもよかった。私がもしどちらかの力として本当に動いていたならば、リンクでさえも消えていたことだろう

私は、リンク。あなたを責める権利はない。

だって真っ先に逃げたのだから。誰かに牙を剥くのが怖いからとこの道を選んだ。


「 ごめんね 」


謝らなくてもいいのに。謝るくらいなら、こんな格好をしてまで死ななくてもよかったのに。

思うことはたくさんあったが、リンクの意思はもう変わらなかった


「・・・・・ねぇ、夢主。僕のほうこそ、ごめん」

「 どうして 」

「僕、は。言ったとおり戦わない。ゼルダも世界も見捨てる。夢主、君の死も全部無駄にする」

「 ・・・・・・・・・・ 」

「いくら君が愛した世界でも、どれだけ力を使い果たしてまで守ろうとしたものでも、君が存在しない世界なら僕は守らない。たとえそれだけの力量があったとしても、君がいないのならそれも捨てる」


君が憎んでいたやつらの死を待ち望む。それがかつての友人だったとしても、家族のような人達だったとしてもだ。この世界の住人が魔物に食い殺されていく様を、最期まで見届けよう

世界を憎んだ君が世界の犠牲になったのならば、僕はそれを無駄にしてでも女神を見殺しにして人がうたう理想の世界を壊す。

君のために。君がそれを選んだ。選択肢はあったのに、滅亡を選んだから。僕はそれに従う


「愛する君が望むままに」


君と一緒に、

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