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私は素早く馬を走らせた

いくらリンクの脚力や足の速さでも馬には追いつくことなどないだろうと思って、ヤクシャさんの馬の最高速度まであげる。ヤクシャさんの馬は速かった

けれどもリンクの反応の早さというのも中々なめたものではなくて。


「なんっ・・・・・・!?」


なんでここにいるんだ。そう呟く前にリンクを見ると、リンクが弓矢を構えているのが見えた。びっくりして飛んできた矢を咄嗟に避けようとすれば、体のバランスが崩れて落馬してしまう

ゴスッと鈍い音と体が地面と擦れる音がして、馬の蹄の音が遠ざかるのがよく聞こえた。頭に違和感を感じる。血が出ているのだろう。けれども痛くはなかった。ぼんやりと、あぁ頭怪我してんじゃないのこれ、と考えて、それからゆっくりと意識を手放した








血が見えた。手が見える。手首が赤くなっていて、何かの痣が出来ていた。誰かの口がパクパクと動いている。何か、喋っているのだろうか

それはしきりに同じ動きを繰り返していて、単語を口にしているようだった


「・・・・・・・・・・・・?」


意味がわからない。というか聞こえてはいるが上手く聞き取れない。なんと言っているのだろうか

私が眉間にぐっとしわを寄せて「聞こえない」といえば自由だったはずの手首が痛んだ。縛られているのかなんなのか、あまりの痛みに体を左右に捻って痛みを堪える。離せとじたばた暴れても意味などなかった

指先の感覚がなくなっていく

息苦しい

金切り声を出そうとした私の口からは息よりも先に、ごぽりと何かが零れてあふれ出た

それがなんなのかわかった途端に誰の声だったか、聞き馴染んでいる声だったはずなのに思い出せなかった男の声がわらう。わらって目を細めて首をかしげた。(――痛い?)






「っ、・・・・・あ!?」

「おきた?」


がばっと起き上がった私は、聞こえてきた声にそちらの方向へと顔を向ける。ずきずきと痛む身体に一瞬驚いたあと、すぐさまリンクとの出来事を思い出して、リンクにどういうつもりだという視線をなげかけた。寝起きだからか視界はすこしぼんやりとしている

布団を触って自分のものではないことを確認し、部屋を見渡してこれまた自室ではないことも確認。大分見たことのあるこの場所は、リンクの部屋だった。ゼルダ姫が少々強引にリンクに与えた部屋は少し広いもので、私の部屋とは比べ物にならないくらいいいものだった

ベッドも自分のものより広いからか落ち着かない

リンクは私の様子に「逃げないんだ?」と訊いて、それから近づいてくる。それに危機感を覚えたがそういえばヤクシャさんになんとかしてもらったことを思い出して、ひとまずリンクの顔を見上げた


「逃げるって、」

「怖いんだろ、俺のこと」

「だって、そりゃあ、あんなに怪我してたら怖くもなるわよ・・・・!!」

「だったら俺を突き放せばよかったのに」

「そんなこと私が出来ると思ってるの!?誰に対してでも出来ないわよ!出来てたら・・・・とっくにしてる・・・・」


消え入りそうな声でそう言えばリンクは首をかしげた。俺の思いには気づいてた?俺がこうして追いかけてくることも、全部全部わかってた?

訊きたいことはたくさんあるけれど、リンクにとってもうそれらはどうでもいいことだ


「俺さ、メイナのこと好きって言っただろ」

「なかったことにしてよ。結局私が好きだったって二人とも報われないじゃない」

「どちらか片方が報われるとしたらどうする?」

「え?」

「それならメイナは、いい?」


リンクは何を言ってるのか。私に触れられない、ましてや近づくことでさえある程度の距離が必要だろう状況で付き合ってもリンクは楽しくないだろうし、おまけに私だって気持ちがリンクにあるわけではないのだから、必然的に付き合ったところで得することなど何もないだろう。出来ればリンクとはあまりかかわりたくないのが現状であるのだし

何を、言ってるの。そう呟けばリンクは口角をあげる


「俺が報われる形にはなるけど」


私は即座によくない、よくないと首を左右に振ってベッドから降りた。嫌な予感がする。逃げようと思って扉に手をかけたら鍵が閉まっていて、まるで死刑宣告でもされたかのような状況に涙が出るかと思った


(何が起きてるの何が起こるの何があんなにリンクを、)




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