03
「お願いがあるんだ、ファイ」
「何か御用ですか」
「御用というかなんというか・・・・あの、ちょっとだけ抱きしめさせてもらってもいい?」
「問題はありません。エイル様のご要望を了承いたします」
「よっしゃああああ!!」
「別にそんな喜ぶことでもないよね」
ぶっちゃけていうと、エイルからしてみれば「好きな人に抱きつく」というよりも「人型の鉄に抱きついたらどんな感覚なんだろう」といった好奇心に近かった。ので、確かに了承を得たときはテンションマックスで舞い上がったが、それよりもわくわくのほうが大きかった
リンクの微妙な視線をビシバシ受けながら、恐る恐るファイを抱きしめる。鉄に抱擁。冷たい。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・?」
「・・・・・・冷たい」
「だろうね。むしろそれで人肌のぬくもりがあったら、僕びっくりだよ」
硬いし冷たい。確かに鉄の塊に抱きつくなんて早々生きていても体験することではあまりないのだろうけれど(しかも人型)、なんていうか・・・・・想像していたのとまったく同じでいまいちピンと来ない
ま、まぁ鉄だしな。当たり前なんだけれども
なんだか釈然としない気分になりながらもファイから離れて、リンクのベッドに座り込む。今日は偶々リンクがスカイロフトに帰ってきていたので、冒険話を聞くついでに部屋にお邪魔させてもらっているのだ
とはいっても俺もたまにリンクについていくし、大体の場所は見たこともあるし知っているんだけれども
「なんで俺ファイなんか好きになったんだろう・・・・・」
「(急に落ち込んでる・・・・)仕方ないよ。好みは人それぞれだしさ」
「そうは言ってもな・・・・大体俺普通に今まで恋愛してきたはずなのに」
「まぁいいんじゃない?逆に言えば僕だってキュイ族が好きになるかもしれないし、ファイを好きになる可能性だって0ではないんだよ」
「ファイはやらんぞ!!」
「僕の剣だってこと忘れないでね、エイル・・・・しかも例えの話だってば」
そう、0ではないのだ。自分が何を好きになるのかもわからないし、好みはあれどエイルのように予想斜め上をいくものを愛してしまうことだってあるかもしれない。だからといってそれが高確率かと聞かれたら可能性は極端に低いとしか言いようがないけれど
「でもリンクはたぶん、ゼルダのことを好きになるだろうな。その調子じゃあさ」
「え?なんで?」
「そうやってボケてる内が楽なのになぁ」
「人を老人みたく言わないでよ・・・」
「一度好きだってわかってしまったら、どうしようもなく気持ちを持て余すことになる」
それが、辛い。
リンクは初めてこのとき、エイルの本当の弱音を聞いた気がした
ファイが無言でエイルを見つめていたので、何か言いたいことがあるのかとも思ったが、今ここでファイが発言をするなんて選択肢はきっとファイにはないと思ったので、知らないフリをした
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