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「ファイ、泣き止んでくれ」
「理解不能です」
「涙を、止めるんだよ。わかるだろ」
「ファイは涙を止めるという方法を知りません」
「ファイ・・・・・」
目を覚ましたエイルが見たのは、涙を流すファイだった
当然驚きはしたがそれ以上は何も言わず、困ったように笑うだけ。どうにか泣き止んではくれないかと言葉をかけてみるが、もともと人間ではないファイにとって、通じないことばかりだった。通じていても出来ないことだらけだった
「ファイにも感情があったんだな・・・・」
「ありません」
「まだわからないのか?」
「理解不能です」
「ファイには、泣くことが出来てるんだ。つまり感情がどこかに、あるんだよ」
冷たい手を負けず劣らずの冷たい鉄に滑らせる。まさか自分が助かるとは思っていなかったが、何も好きな人を泣かせるためにこうやって目を開けているわけではい。だからファイには泣いてほしくなかった
泣いてほしくないのに、ファイは泣く
こりゃあ貴重な光景だ、と笑いながら、背中がじくじくと痛むのを感じて、あぁ俺はきっと助からないんだろうな、と思った
「あぁ・・・・・・」
言い忘れてはいけない
「ファイを愛せて・・・・俺は、しあわせものだった・・・」
鉄でも剣でもファイはファイだった。ずっと好きだ。これからもずっと、死んでからだってたった一人を愛し続ける自信が俺にはあるよ
駄目な男だったかもしれないけど、駄目な男は駄目なりに頑張ったんだ。ファイにずっと好きだといってきた。結局それが返ってくることはなかったが、十分だ
俺は幸せなんだ。だって、居なくなる前に恋をした相手の顔を見ているのだから
「でも・・・・っ」
もう少しだけ、ファイを、愛していたかったかな
君の感情なんて望まない。言葉もいらない。本当は、涙もいらなかった。俺には一切何も与えてくれなくてよかったのに、ここまできて泣かれてしまったら、俺はついつい閉じそうになる目をこじ開けてしまう
意識だってもう正常ではない。苦しいくらい大好きで、辛いくらい愛していて、ぜったいに叶わない恋だった
「随分とまぁ、早い別れだ・・・・!」
君のせいで俺まで泣いてしまったじゃないか。あぁ、どうしてこんなに、悲しいんだ
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