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 #「ジャーファルさん・・・・!」



思えばおかしいとは感じていた。


「ッ!?っこほ、」


朝食をわざわざエルゼさんが持ってきてくれた時に、もっと警戒して怪しむべきだったのだ。この世界は日本ほど平和ではないということも、頭の隅にはおいておくべきだった。毒殺なんて身近なものであると考えておけば、

日本でもそういったことが全くないわけではないにしろ、向こうが三秒に一人死ぬ計算であればこちらは一秒の間に二人は死んでそうな世界なのだから、ちゃんとしておくべきだったのに。どうして平和だと思い込んでしまっていたのか。


「ゲホッ!っぐ・・・・!」


視界が揺らぐ。ぐらぐらして視点が定まらずにバランスもとれなくなって、立っていた状態から思わず倒れ込んだ。次第に息がし辛くなって、意識が吹っ飛んでいた。


▲▽


「ジャーファルさん・・・・!」


一瞬、誰かと思った。

ジャーファルは仕事をしていた手を止めると、扉を勢いよく蹴り破った犯人を見た。しかし、視覚的に確認したとしても一瞬だけ、誰かわからなかったのだ。取り乱したマスルールなど滅多にお目にかかれるものではなく、だからこそジャーファルもフリーズした。

どうした、何があったのだと問いかけようとして彼の腕をみると、そこには使用人が大切そうに抱きかかえられている。


「!どうしたというのです!?」

「わからないッス、部屋行ってみたらこいつが倒れてて、」

「呼吸が断続的・・・・・どうして・・・・」


声をかけても返事はなし。発熱しているようで額を触ると物凄く熱かった。ただの風邪かとは思ったがそうでもないようだ。顔の皮膚には蕁麻疹のようなものができている。

これはどこかで見たことがある。確か毒草の類でこういった症状を出してしまうものがあったはずだ。

ジャーファルは思い当たるものがあり、とにかく医務室から効くであろう薬を持って来ようと部屋を出る。コナギはソファに寝かせておくようにと言いつけて。

他の文官もいることだし何か大事が起こることはないだろう。

数分で行って戻ってきたジャーファルは苦しそうにしているコナギの傍に薬を置くと、なんとかして目を覚まさせた。涙をぼろぼろと流しているのは苦しい呼吸のせいだろう。痛ましい。しかし確かこれを飲めば治るはずだ。

三つほどの薬をぬるま湯に溶かして飲ませる。不味いだろうが我慢してもらわなければ。


「苦しいでしょうが飲まなければ治りません。大丈夫ですよ、すぐによくなりますから」


腕に力が入らないだろうことも予測して水差しで口に入れれば、言ったことに頷きながらすべて飲み込んだ。マスルールはコナギの上半身を起き上がらせるために添えた手に、汗がにじむのを感じる。

自分は薬などには詳しくはない。だからこれで治るのか、よくわからずに不安であった。いくら毒薬について多少詳しいジャーファルが言っていることであっても、だ。

薬を飲ませるとちょっとしてから、コナギはまた目を閉じた。今度は呼吸が安定している。


「・・・・・大丈夫でしょう。これで次の日には普通に動けますよ。ただ、今日は安静にしておかないといけませんから、仕事は無理でしょう」

「・・・・ありがとうございます」

「おや、」


ハッキリとお礼を述べるなんて珍しい。

ジャーファルの言葉に、マスルールは首をかしげる。自分はそんなに感謝の言葉を普段から言えていなかったのだろうか?

けれどもジャーファルが言うにはそういうわけではないらしい。どういうことだ?と思いながらも、医務室に運ぶべくコナギを抱き上げる。極めて優しく、揺らさないように。


「よっぽどその子が大事なんですね。顔に出ていますよ」


頷く代わりに、マスルールはゆっくりと目を伏せた。



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