#「なんだよつまんねー奴」
ここなら蜜柑、ありそう。そう思い、煌帝国へとたどり着いてからしばらくして、空いた時間を有効活用しながら町で蜜柑を買ってきた。通貨が違うらしいから戸惑ったものの、二つほど気前のいいおじさんが分けてくださったのだ。あれ?これは買ったんじゃなくてもらったことになるね!
どうでもいいが、一人で出かけたことを激しく後悔してるなう。
「なんだよつまんねー奴」
「つまんなくてすみませんねぇ。大体、魔法なんて使えたら使っとるわバカ」
今私の隣にいる黒いやつ。名前をジュダルというらしいのだが、先ほどからお前のルフが変だのなんだの・・・・・よくわからない理由で付きまとわれている。しかも最終的には遊びに行こうとか言い始めたので、こっちは忙しいんだよ!と思いながらも断り続けていた。
つーか急になんだこの人?魔法使いであることはわかるのだが(杖みたいなのが見える)なんでこんなにも絡んでくるんだ?
あ、暇人だからか(解決)
「馬鹿っていうほうが馬鹿なんだぜ?」
「(小学生かこいつは・・・・)」
「お?お前蜜柑もってんじゃねーか」
「やらんぞ」
「誰も欲しいとは言ってねぇだろーが」
「だったらその手は何!」
「もらいっ!!」
「ぎゃあ!ちょっ・・・・・ちょっと!!本当にそれは駄目!!通貨が違うから蜜柑なんてそうそう買えないの!お願い!」
「?・・・・・・・あぁ、お前、シンドリアから来たやつ?」
「そ、そうだけど。・・・・もう、どうでもいいじゃんそんなこと。返してよ」
「ほらよ」
「!!」
なんだ、案外すぐに返してくれるのか。そう思った私が馬鹿だった。
彼は二つしかないうちの一つの蜜柑を、投げるフリをして地面に落とし、なんと踏みつぶしやがったのだ。
「何、してんの」
「いや?よっぽど大切そうだったもんだから、潰しちまった」
そう言って楽しそうに笑う彼は普通の人間とは思えない。正気の沙汰ではないだろう。
唖然として蜜柑を見つめていると、ジュダルは「蜜柑ごとき、買えばいくらでもあんだろ」とか言い始める。言ったよね、私。一回通貨が違くて蜜柑が買えないからって言ったよね?そう何時間も前に言ったことではないはずなのに、こいつはもうすでに忘れているのだろうか。
ムカッと来て何か彼が言っているが、全部無視する。
しばらくそのまま歩いていれば、ジュダルが舌打ちするのが聞こえた。瞬間。
「っ、いだああぁ!!」
背中を蹴り飛ばされた。本当もなんなのこいつ!なんなの!
見事顔面からスライディングした私は悲鳴をあげる。ジュダルはまたも楽しそうだ。こいつっ・・・・!!
「い、いい加減にしろ!!さっきからなんなのお前!」
「この俺を無視するなんざいい度胸じゃねぇか」
「いや、だって当たり前でしょ。怒ってるのにアンタとなんか口ききたくないよ」
「ぷっ!お前顔キズだらけだな!」
「何楽しそうに笑ってんだおめぇえ!!お前のせいだろが!アァン!?」
「やんのか!?」
「上等だこの!!」
城付近で取っ組み合いを始める私たちを、警備の男の人達が困惑したような顔で見てくる。最後のひとつである蜜柑は大切に懐にしまってから、ジュダルを背負い投げしてやった。
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