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 #はい?



王が煌帝国へ行かれるということで、マスルールさんとジャーファル様もそれに付き添うらしい。


「突然ですまない。出発は明朝、一泊する予定だからそのつもりで」


はい?

一瞬思考が停止した。


▲▽


「マスルールさん起きてください!」

「・・・・・・・・・ぐぅ」

「人をおちょくるのはやめろ!」

「うるさい・・・・」

「静かに起こしても起きないことはすでに学習済みです」

「そんな学習能力あったのか」

「馬鹿にしてんですかぶっ叩くぞ」

「やってみろ」

「ごめんなさい!」


マッチョ怖い!

寝がえりをうって私のほうへと体を向けたマスルールさんは、こぶしを作る。勘弁して。ファナリスに殴られたらひとたまりもないし、おそらく一発でただの肉片になる自信がある。

って違う。


「起きて下さい。もうすぐ出発の時間ですよ」

「・・・・・・・・・・・・・・」


のそのそと起き上がるマスルールさんに、次いで「船に乗ればまた仮眠くらいは取れるでしょう」と言う。そうしたらうなずいたので、よしよしこれで動く気になったか?と一人でうなずいた。

しかし私は船なんぞ初めてだし、どうしたらいいのかわからないので、とりあえず必要なものは最低限バッグに詰め込んだ。前の世界での通学カバンだ。こういうときばっかりはこの無駄に大容量なバッグに感謝する。

このかばんに、置き勉が許されていなかったがために毎日教科書を詰め込んで持ち歩いていたあの頃が懐かしい。死ぬほど肩が痛かったし、辛かった。でも今となってはそれが思い出のようになってしまっていて、少し寂しさを感じた。


「(本来なら私は、)」


必死に、学校で、勉強してる時期なのだろうけれど。もうこちらへ来てから数か月が経ってしまっている。

本当に私は帰ることが出来るのだろうか?今更になって不安になり、思わず俯いていると、マスルールさんは私の異変に気が付いたのか頭を撫でてくれた。何を思っているのかもよくわかっていないのに慰めようとするなんて、とは思ったが、ちょっぴりうれしかった。


「不安そうな顔をするな。どうかしたか?」

「いえ。馴染むのが怖いな、と思って」


この世界に。

そう呟けば、マスルールさんは少し険しい顔をしたけれど、すぐに元の表情に戻った。もう馴染んでるじゃないか、と言われたらそれは確かにそうかもしれない。市街地で迷うこともなくなり、森でもある程度は動き回れるようになった。それもこれもマスルールさんのおかげだし、今こうして仕事をしながら生きていけるのは間違いなく王や、シンドリアの人達のおかげだ。

だがそれでいいのかと、考え始めたら止まらない。


「余計なことを考える必要はない」

「余計って、」

「帰れるか悩んだところでしょうがないだろう。帰るか帰らないか、そのときになって考えればいいんだ」


珍しくアドバイスのようなものをしてくれたマスルールさんに、それでも複雑な心境だった。マスルールさんは帰ってほしいとは思わないのだろうか、私に。



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