「てめぇええええええふざけんじゃねえええええええええええ!」
「いってぇ!」
 スパコーンっという小気味よい音と共に、台帳で殴られた。あの、ちょ、本気で星が目の前で散ったんですけど!
「何すんですかガルシアさん!」
「こっちのセリフだ!てめぇ今月に入って何件目だこらああああ!」
「ええと、3回目くらい…」
「3回も殺人未遂してんじゃねぇよ!」
「だって恋人にちょっかいかけられるから…」
「あほか!大体なぁ、遊び目当てでお前に声かけてくる奴もいんだよ!見極めろ!」
「えええ…」
 この厳つい見た目の屈強な男性は、俺の所属するギルドの長だ。ガルシアさん。奥さんがいなければ、抱かれてみたいなぁと感じるような体躯だ。俺はバイだもんで、女性も男性も抱けるし、抱かれてもいい。だって、気持ちいいならなんでも良くね?
 ちなみに、大切な愛しい相手がいる人には手を出さねぇよ。殺されたくねぇし。
「浮気相手を殺そうとすんのはてめぇくらいだこの馬鹿」
「むう…」
「どうしてお前はそう極端なんだ…あと、もうきちんとした相手を見つけて落ち着けよ…それとも悪評でこのギルドを潰す気か?」
 ガルシアさんは、ガックリとうなだれた。ギルドを潰す気なんて更々ないが、確かにギルドメンバーが犯罪者になったら色々と面倒かもしれない。だったら…
「ばれないように上手くやりますね!」
「そういう問題じゃねぇえええええ!」
 ラリアットが首元にきまった。あっ、意識刈り取られ…そこから先は、暗転。



 助けて。
 ごめんなさい。
 もうしないから。
 だから殴らないで。
 やめて。
 ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
「…っああああ!」
 がバッと布団から飛び起き、ガシャンと机の上に置いてあった花瓶を薙ぎ払う。そうして、胸元を押さえながら、その場に崩れるように座り込んだ。
 独りで眠るといつもこうだ。毎回毎回悪夢を見る。昔の、消し去りたい記憶。どうして俺はいつまでもあんなものに魘されなければならないんだ。ふざけんな。消えてくれ。
「くそ…っ」
 ぽた、と涙がこぼれる。
 ああ、苦しい。
 誰か、誰か助けて。
 温かさがほしい。愛されたい。包み込んでほしい。俺を受け入れてほしい。ただそばに居てくれるだけでいいんだ。俺が願うのはそれだけなんだ。


 

 しばらくして、少し落ち着いた。花瓶、新しいの買わないとなぁ、とか、床の掃除しないとなぁ、とか、そういえばもうすぐ輸入雑貨が届くなぁ、とか、そんなことをぼんやりと考えた。
 悪夢は、誰かと一緒に眠ると見ない。それが分かったときから、俺は独りで眠ることはやめた。苦しい思いをするのが分かってて、わざわざそうする馬鹿はいねぇ。俺にはマゾの気はないし。恋人がベストだけど、まぁ、別に一夜限りの関係と割り切っている相手でもいい。お互いが本気じゃないから、束縛もしないし、されないし、楽なもんだ。恋人にならいくらでも束縛されてもいいけどさ。
 ちなみに、寝る相手がいなかったら俺は何日でも徹夜する。
「あ…着替えないと…」
 どうやら眠っていたのは2時間ほどのようだ。ガルシアさんに意識を刈り取られたのは納得がいかないが、俺の家にわざわざ運んでくれるあたり、優しいな、とも感じる。
 今日は夜会がある。ギルドの締め元の息子が来るんだとか。あまり気乗りはしないが、ガルシアさんのメンツを潰すわけにもいかない。それとなく会話して、うちの株を上げようじゃないか。そのためには身だしなみを万全にしなければ。
 重たい身体を引きずりながら、そっとクローゼットの扉に手をかける。ああ、服を選んだら風呂にも入った方がいいかもしれない。汗だくだ。
 ああ、


俺は、愛が欲しいだけなんだ



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