コート外に引きずられた後、すずは遠征試合の反省や次のランキング戦について手塚とミーティングをし、部室の掃除やらドリンク補充やら、いつもの仕事に走り回った。そして部活が終わると、待ってましたとばかりにリョーマに飛びついた。



「リョーマぁぁ!!!」

「うおっ!」



再びの不意打ちにまたすずに押し倒されたリョーマだったが、今度は早い段階で手塚の助けが来た。



「新入部員を潰すなと言っただろう」

「すみませーん...」



宙ぶらりんのまましゅんとする姿は、まるで飼い主に叱られた子犬だった。リョーマはとりあえず立ち上がってズボンについた汚れを払うと、少し離れて1ミリほど落ち込んでいるらしい幼馴染を見遣る。しかし地上に降りればまた飛びつきそうな勢いを取り戻し、すずはリョーマに駆け寄った。



「ねぇ、いつ帰ってきたの?」

「最近」

「言ってよ!手紙書いてよ!」

「親父が送ったって言ってたけど。おばさんがすずに伝え忘れたんでしょ」

「あー、ママならやりそう...」



すずは少々天然エッセンスの入った、マイペースな母親を思った。あれ、言わなかったっけ?ときょとんとする姿が容易に想像できた。他のことならまだいいが、こんな重要なことは是非とも忘れないでいただきたかった。




「でもまぁ、なにはともあれ。また会えて嬉しい!」



今度は落ち着いて親愛のハグをすれば、リョーマも背中をぽん、と叩いて返してくれた。幼い時のようにお互いにぎゅっとするような事はないが、それでも胸に懐かしさがこみ上げて、すずは少し力を強めた。が、しかし。



「でもひとつ許せない」

「なに」

「なんでリョーマの方が大きいの!?」

「はぁ?」



すずはリョーマから離れると、眉間にシワを寄せて背を比べ始めた。リョーマとて小さいが、すずと比べればリョーマの方が目線が高かった。



「昔は小さくて可愛かったのに!ちっちゃくなくなった!」

「すずがチビなだけでしょ」

「なにぃ!?先輩に向かってチビって言うな!!」

「だってホントのことじゃん」

「もう!生意気なとこだけは変わらないんだから!」

「はいはい!そこまで!」

「おチビちゃんズ、ストーップ!」



間に入って止めにかかったのは、青学ゴールデンペアたる副部長の大石秀一郎と3年の菊丸英二だった。既に制服に着替えていて、後ろには同じく帰り支度を済ませたレギュラー陣が揃っていた。



「園田、越前とは知り合いなのか?」

「昔、お隣さんだったんです。私が引っ越してからは会ってなかったんですけど」

「幼馴染...って感じかな?」

「そうですね」



すずが穏やかに笑う3年の不二周助に肯定の返事を返すと、そうか、と言いながらノートになにか書き込む、同じく3年の乾貞治。何故か取られているすずの項目に書き加えられたのか、それとも新しくリョーマのデータを取り始めたのか、はたまた両方か。そこはノートを盗み見ない限りわからない。



「越前、片付けが済んだんなら上がっていい。ほかの1年ももう着替え始めてる」

「うぃーっす」

「リョーマ、一緒に帰ろう!支度終わったら部室の前で待っててね!先に帰っちゃダメだからね!」



手塚の指示で部室に向かったリョーマの背中に言ってみても、手をヒラヒラさせるだけで返事はなかった。これでは先に帰られてしまうかも、とすずはレギュラー陣への挨拶もそこそこに女子テニス部の部室へと走った。



「あんまり急ぐと転ぶよ、園田!」

「聞いてねぇっすよ、河村先輩」



心配する3年の河村隆の声も、呆れる海堂の声も、もちろんすずには聞こえていなかった。


20160927

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