「ぎいぃいやああああっ!!!」

    任務も無く日和の良い穏やかな午後の3時。
    買い物から帰って来たカナタが、戦利品をベルとマーモンに見せつけている所で、事件は起こった。

    「なに、今の悲鳴。ルッスーリア……?」
    「うっせーな、あのオカマ。目の前にいなくても俺をいらつかせるとか、何様」

    カナタが確認するように呟けば、ベルがナイフを弄びながら怒気を含ませた声でそれに返す。

    「それにしても、何か様子がおかしくない?」
    「確かにそうだね」

    言葉とは裏腹に、さして興味もなさげにマーモンはカナタがお土産に買ってきた5円チョコレートを口に含んだ。
    ベルとマーモンったら、これだもんね。仲間が悲鳴をあげてるっていうのに、少し冷たいんじゃないかしら。
    カナタは半ば呆れ気味に二人を睨む。

    「カナタ、何これ。寿司?」

    そんなカナタを尻目に、ベルは彼女の買ってきた戦利品の中からトロ寿司を模ったUSBを引っ張り出した。途端にカナタの表情は嬉々としたものに変わる。

    「よくぞ聞いてくれました!これね、お寿司型のUSBメモリなの、可愛くない!?」
    「USBメモリ?食えねーなら意味ねーじゃん」
    「意味あるよ!可愛いじゃん!文句あるなら返してよ」
    「やだ」
    「何でよ!意味ないんでしょ!返してよ!」
    「駄目、これは王子が没収」
    「ぎゃー!いやああ!折角の掘り出し物なのに!そもそもベルにはUSBメモリなんて必要ないでしょ!ベルが持ってても意味ないから返してよ!」
    「却下。ていうか、王子が持つ事によって意味が出来るんだよ。良かったじゃんか。喜べよ」
    「何ソレ意味わっかんない!全然喜べない!」

    ルッスーリアを心配する気持ちは何処へやら。カナタはすっかり寿司型USBメモリに夢中になっていた。まあ、そんなもんだ。至っていつも通りである。

    「いやあん!もう信じられないわ!」

    カナタとベルがUSBメモリの奪い合いに夢中になっていたら、いつの間にルッスーリアが談話室に来ていた。

    「あら、ルッスーリア。どうしたの」
    「どうしたのじゃないわよ!アレが出たから怖くて悲鳴を上げたのに誰も来てくれないんだもの!酷いわ〜!」
    「全然元気じゃん。くたばってりゃ良かったのに」
    「ベルちゃんったら酷いわ〜!んもう、いじわるっ!!」

    くねくねとルッスーリアが体を揺らすと、すかさずベルが蹴りを入れる。野太く短い悲鳴を上げつつも、ルッスーリアは何処か嬉しげだ。

    「で、なんだい。アレが出たってなんのことさ」

    5円チョコの銀紙を剥がしながらマーモンがルッスーリアを見た。そうだった、忘れる所だったわ!とルッスーリアは表情を曇らし両腕で体を抱きしめながら震えた。

    「キッチンに出たのよ!黒くてテカテカしてて、動きの素早い、アレが!!」
    「何だ、ただのゴキブリかよ」
    「いやあああ!その名を口にしないでちょうだい!私本当にアレ駄目なのよぉ!ベルちゃん、嫌いじゃないなら潰して頂戴よっ」
    「はあ?何で王子がお前の為に働かなきゃなんないワケ?意味わかんね」

    すり寄ってくるルッスーリアを押しのけて、ベルは再びカナタの戦利品をいじくる作業に戻ってしまう。ならば!とルッスーリアはマーモンに視線を投げた。

    「虫ごときに僕をつかうつもりかい?高くつくよ」
    「酷いわぁ、マーモン!私と貴方の仲でしょ?お・ね・が・い!」
    「金がないならお断りだよ、他をあたるんだね」
    「そんなあぁ!今キッチンでおやつのスコーン作ってる途中なのに、これじゃあ台無しだわ!」

    おやつのスコーンという部分にカナタは目を輝かせた。困り果てているルッスーリアの肩に手を置き、柔らかに微笑む。

    「じゃあ私が潰すよ。だからスコーン多めにちょうだいね」
    「本当!?助かるわ!って、カナタ、貴方アレが怖くないの?」
    「別に。ただの虫じゃない、怖くないよ」
    「やーん!カナタったら、頼りになるぅ!それじゃあ早速宜しくね!」
    「おっけーおっけー、じゃあいってくるー」

    そんな訳で、ルッスーリアに見送られつつカナタは談話室を後にした。

    ***
    「んぎゃあああああ!」

    丸めた新聞紙で素振りをしながら廊下を歩いていると、キッチンの方から再び悲鳴が聞こえてくる。

    「おっかしいな、ルッスーリアは談話室にいるのに。誰だろ」

    首を傾げつつも足を速めると、キッチンからレヴィが飛び出してきた。腰を抜かしかけているのか、中腰になりつつカナタの元に走ってくる。そのまま怯えきった表情で、勢いよくこちらに飛びついて来た。

    「カナタ〜〜〜〜!!!」
    「あらあら、レヴィったらどうしたの。どうどう、落ち着いて」

    そう言って、腕にしがみついているレヴィを抱きしめようとした瞬間。レヴィが横に向かって勢いよく吹っ飛んだ。

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