*ボスしか出てこない。ギャグもない。ほんのり甘いかもしれない夢です。




     まばゆく煌めく星々が彩る空の下。海原を悠々と進む一隻の船があった。
     イタリアンマフィア、ボンゴレファミリーが所有する客船である。現在船内ではボンゴレ9代目主催の立食パーティーが開かれていた。同盟マフィア等の友好的なファミリーを集めた、親睦を深める事を目的とした物で、定期的に行われている催しである。
     当然、穏やかに会話を楽しんでいる面々は全てマフィアであり、和やかな雰囲気に反して、その実、会話内容は物騒な物が殆どだ。今朝見たニュースの話をするかのように、人の生死に関わる話を平然とする。ここに集まっている者は大半がそんな人間ばかりだった。

     盛り上がる人々から外れた場所で、しかめ面をしている男が一人。9代目の一人息子、ザンザスである。
     彼は黒く飾り気のないシンプルなタキシードで身を包み、細かな装飾の施された柱へ背を預けていた。表情は険しく、睨み付けるように窓の外へと視線を投げつけている。その様子からでは夜の海や、星空を楽しんでいるようには到底見えない。話しかけよう物ならば噛みついてきそうなくらいだ。
     その様な物々しい空気を放つ彼に近付く者などいる訳もなく。ザンザスは来賓の面々に挨拶をしてから、ずっとこの調子で一人外を眺めていた。
     しかし、そんな彼に臆する事なく近づく女が一人。

    「ボス、どうぞ」

    青いマーメイドラインのイブニングドレスを身につけたその女は、彼の付き添いで連れてこられた部下のカナタだ。
     彼女は人混みを掻き分けザンザスの前まで来ると、柔らかく微笑んだ。手にしていたワイングラスを差し出して来たので、ザンザスは不機嫌そうな顔はそのままに、それを受け取った。流れるようにワインを口にし、眉をひそめる。不快感を覚えた。
     ワインは彼の好みの味だ。文句はない。しかしザンザスは今この瞬間、気分を害している。

     船内には多彩な酒が用意されている。来賓の面々には酒に煩い者が多いため、集められるだけ集めて並べてみたと言っても良い。とは言えそれらは決して安物ではなく、どれも一級品の文句をつけようのない品ばかりだ。多少の好みはあるだろうが、普通ならばどれを提供されても満足出来るだろう。
     しかしザンザスは別だ。彼は基本的にどんなに高かろうが自分の好みに合わない物は一切口にしない。酒も、食べ物も。
     更には、ただでさえ偏食だというのに、その時々の気分で食べたい物もころころと変わる。好きな物を用意された所で突き返す事もざらだ。
     つまり、彼の好みの物を用意するという事は大変困難な事だと言える。けれどカナタは数ある選択肢から、ザンザスが喜ぶ物を自ら探し出し提供してきた訳で。

     ――この女はいつから自分の好みが分かるようになったのだろうか。

     八年前は、何一つ分からなかった癖に。
     胸の奥がむかむかとしてくる。
     ちらりとカナタの方を盗み見すれば、彼女はザンザスの隣で嬉しそうに星空を眺めていた。その横顔が八年前の彼女とだぶって見えて、微かにではあるがザンザスの機嫌は回復した。
     最近はいつもこうだ。彼女の存在がザンザスを苛立たせる。

     ザンザスが目覚めたのは少し前の事だ。目覚めて直ぐ彼はオッタビオに制裁を加えてから、沢田綱吉達に勝負を挑んだ。結果は敗北。彼はボンゴレ十代目の正統後継者から外れ、再び九代目に離反した罪で処罰された。とは言っても、その罰は緩いもので、九代目の監視下におかれ、その行動を規制されるくらいのものであった。寛容すぎるとも言えるその処置からして、九代目にも思う所があったのだろう。
     それからというものザンザスは、パーティ等の際にはこうして九代目の息子として連れてこられる。恐らく九代目はこういった機会を利用して、ザンザスとの触れ合いを図りたいのだろう。
     ザンザスにとっては、不愉快極まりない話だったが、今の立場では反抗も難しい。嫌々従い出席してはいるものの、ここは御曹司の息子だ。挨拶等はきちんとこなし、その名に恥じない振る舞いをする。
     こういった生活を送っていると、嫌でも周囲と向き合わなければならない環境が出来あがってくる。そして彼は直面するのだ。八年という長い時間の流れと。

     その月日は、ゆりかごの中で眠っていたザンザスにとっては一瞬の事だった。
     目覚めてザンザスが見た世界は、彼の知っている物と、全てがかけ離れていた。その一つ一つを目にする度に奪われた時間を見せ付けられているようで、ザンザスの胸の奥の怒りは沸き上がるばかりだった。
     ただ、ヴァリアーの部下達は違った。全く変わっていないという訳ではないが、皆昔のままだった。スクアーロの髪や、ベルの身長がのびたりはしていたが、ルッスーリアやレヴィは八年経ったのかを疑うくらいにそのままだったし、マーモンに至っては全てが変わらないだ。何気ない会話ややり取りも皆、昔そのままで、代わり映えがしない。それはザンザスにとっては――認めたくはないが――居心地の良いものだった。
     しかしカナタだけは違った。彼女は全くと言って良いほど別人になっていた。最初は誰か分からなかったくらいに。
     それも見た目だけではない。性格もすっかり変わっていた。外見も内面も変わってしまった彼女は、ザンザスからしたら完全に知らない人間だった。

     ザンザスにとってカナタの存在は、ヴァリアー内における八年という時間の流れの象徴なのだ。

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