「はぁ」
「……」
「ふぅ」
「……」
「あ゛はぁああ」
「う゛ぉおおい!さっきから気色悪ぃぞぉ!」
いい加減我慢の限界だった為、スクアーロは横でへらへらしているカナタに向かって怒鳴った。途端、写真から顔を上げカナタがこちらを睨みつけてくる。
「ちょっと! 乙女の悩ましげな溜め息に対して気持ち悪いとか酷いくない!?」
「だらしなく涎たらしながら顔を緩ませて盗撮した写真眺めてる乙女がどこにいるか!」
「目の前にいるじゃない」
「んな乙女がいてたまるかぁ!」
「とか何とか言って、スクアーロ……この写真狙ってるんじゃないでしょうねぇ!? この変態ドエロコソ泥カス鮫!」
「んな薄気味悪い写真いるかぁ! つか変態ドエロコソ泥カス鮫は言い過ぎだろうがぁ!」
「薄気味悪いなんて失礼ね! ボスの半裸写真だよ!? 鼻血で出血多量死できるくらいのエロエロ激レア写真だよ!? これの良さが分からないとか、あんたどんだけアホ鮫なの!?」
「んなもん、分かってたまるかぁ!」
二人が言い争っていると、そこまで静かにソファで寝転がっていたベルが起き上がった。何やら機嫌悪そうに、懐からナイフを出している。
「さっきからカス鮫先輩うるせーし。騒ぐなら今すぐ談話室から消えてくんね?」
そして向けられるナイフ。
「う゛ぉおおい! なんで俺だけにナイフ向けんだベル! どう考えてもこの女だってうるせぇだろうがぁ!」
「先輩が声かけなきゃカナタは静かにしてたっつの。てかマジうるせーよ、消えろよこの世から」
――えっ?この世から?死ねって事?
幾らなんでもベル少し言いすぎなのではないだろうか。
「はいはい、二人とも落ち着いてちょうだい! 武器なんかしまってしまって! カナタは涎をおふきなさいな、ボスに見られたら笑われちゃうわよぉ?」
スクアーロが内心ダメージを受けていた所で、ルッスーリアが助け船に入ってくる。面倒くさそうにベルがナイフをしまうのと同時に、カナタがはっとしたように飛び上がった。
「やだ、私ったら涎垂らしているなんてはしたない! ありがとうルッスーリア!」
顔をほのかに赤らめてカナタが涎を拭う。スクアーロは、人前でにやにやしながら思い人の半裸写真を眺めるのははしたなくいのかと問いたくなったが、我慢した。
「でもカナタったらそんな写真いつ撮ったの?」
カナタの隣に腰掛けながら、ルッスーリアは写真を覗きこむ。カナタは嬉しそうに微笑むと写真を掲げながら言った。
「私が撮ったんじゃないよ、マーモンが撮ったんだよ」
「あらん、そうなの?マーモン」
「ム、小遣い稼ぎに、ちょっとね」
ルッスーリアの問いに、何故かマーモンは決まりが悪そうに口淀んだ。それに対し、スクアーロは首を傾げながら割り込む。
「う゛ぉおい、よくあんな写真撮れたなぁ。一体幾らで売ったんだぁ」
「日本円にしてレンタル1時間10万円だよ」
瞬間。ルッスーリアとスクアーロが凍りついたように固まった。
暫しそのまま止まり続け、先に我に返ったルッスーリアが飛び跳ねて声を上げる。
「たっか! 高い! 高いわよマーモン! 何で日本円で換算したのかはよく分からないけど、幾らなんでも高すぎるわよぉ!」
「つかレンタルだぁ!? その金額なら普通に売ってやれぇえ! そしてカナタ!テメェはそれで良いのかぁ!?」
「だって買い取ろうとしたら法外な金額請求されたから……レンタルでしか打つ手がなくて……」
「いや、レンタルでも充分法外な金額よ!?目を覚ましてカナタ!」
「ボスのお写真だぞ、このくらいの値ですんだのだから良かった方だ」
「ほら、レヴィもそう言ってるし……」
「カナタはいちいちこの変態タラコ唇の言うこと真に受けんなよ」
「えー、そう? ねえ、マーモン。ベル達がこう言ってるんだけど、レンタルじゃなくて普通に写真10万円で売ってくれない?」
カナタの言葉に皆の視線がマーモンに集中する。暫しの沈黙が場を制した後、マーモンは観念したように溜め息をついた。