*本編の会話内容等は出しませんが、ボンゴレ式修学旅行ネタバレになるので注意。
一応本編を見てない方でも分かる内容にはなってます。
ちなみに当サイトではマーモンは♂設定です。
「ああ、疲れたー」
「あら、おかえりなさい。カナタ」
長期の任務から帰宅したカナタは肩を鳴らしながら談話室に入った。ルッスーリアに笑顔で出迎えられ、カナタはソファに倒れ込むように飛び込む。そのまま安定する姿勢を探し体を動かしていると、ふんと、誰かが鼻で笑う音がした。
瞬間。カナタは疲れなどは忘れ勢いよく顔を上げる。
「ぼ、ボス……!」
「あら、ボスったら駄目よん。カナタはボスの為に頑張って来たんだから、いじめないでよ?」
「何もしてねぇ」
華美な装飾の施されたイスに深く背を預け、長すぎるその足をテーブルに乗せてふんぞり返っているのはまごうことなく愛しのボス、ザンザスだ。
彼がいるとなれば、だらしのない姿は見せられない。カナタは乱れた髪を手で梳かしつつ、疲れた体に鞭打って姿勢を正し座りなおした。
「お見苦しい所をお見せしてすみません」
「ししっ、今更取り繕ってもおせーって」
そう言ってにやつくベルを軽く睨み、再びザンザスに視線を戻す。しかし彼は気にも留めていないのか、構う事無くテキーラを呷っていた。喉仏が軽く上下する様が妙にセクシーでカナタの視線は釘づけになる。
「今ねえ、慰安旅行しましょって話してたのよん」
「慰安旅行?」
ルッスーリアから紅茶の入ったカップを受け取りながらカナタは首を傾げた。ルッスーリアはそのままカナタの隣に座り、テーブルに置いてあったクッキーを一枚頬張る。
「思い出作りに、たまには皆で楽しもうじゃない?って」
「へえ、良いね。旅行かあ」
「で、今場所を考えてるって訳なのよお」
紅茶に口を付け、カナタは思案を巡らせる。なるほど、旅行か。それは良い。話し合っている中にザンザスが一緒にいるという事は、当然彼も来るという事であろう。ならば尚更楽しみというものだ。
意外にもこの男は、面倒だとかうっとおしいとかうるせぇとか死ねとかドカスがとか言う割には、こういった行事ごとを気まぐれに許可し普通に楽しむ。とはいえ大半はイスの上でふんぞり返って寝てばかりなのだが、まあ来るだけましだ。
さて、ザンザスも来るとなれば、当然ゆっくりと落ち着ける所が良い。
「だったら私、温泉に行きたいな」
「温泉っつーことはジャッポーネかよ?」
「そ。きゃあきゃあ観光しながら騒ぐっていうよりも、ゆっくりしたいし。あと、砂糖とか蜂蜜の入ってない緑茶が飲みたいの」
「そんなのただの苦い汁じゃん」
「苦いのが良いんじゃない」
「ブラックコーヒー飲めない癖に緑茶はありとか、お前味覚どうかしてんじゃね」
どうにもベルとは意見が合わないらしい。カナタは馬鹿にしたような笑みを浮かべるベルを忌々しげに睨みつけた。とは言え睨みつけた程度ではきく相手ではないのだが、ザンザスの手前、激しく言い返す事が出来ない。なんとももどかしいものである。
「温泉か」
ベルと視線で攻防を繰り広げていたら、ザンザスがそう呟くのが耳に入り、カナタは体ごと弾けるようにザンザスへ向けた。
もしかしてお気に召したのだろうか。温泉旅行となれば、風呂上がりの色っぽいボスを拝み放題拝める上に、超激レアな浴衣姿も見る事が出来るかもしれない。すごく行きたい。絶対に行きたい。なんとしてでも行きたい。
期待で胸をときめかせながら、ソファに正座してザンザスを見つめる。そうすればふと視線が合い、意味ありげに口の端を上げられたものだから、カナタは興奮しきってしまい、そのまま鼻血を出して気を失った。
「おっ、倒れた」
「いやん、もうっ!疲れてるのにボスなんて見つめちゃうからこうなるのよっ」
「なんだそれは。ルッスーリア、テメェ俺にケンカ売ってんのか」
そんな訳で。
ヴァリアーの慰安旅行の行き先はジャッポーネへと決定した。