カーテンの隙間から差し込む朝日が瞼越しでも眩しくて、スクアーロは瞳を開いた。そのまま寝起きの働かない頭を横に傾け、右隣を見る。

    「あ……?」

     スクアーロは眉間に皺を寄せた。隣にいるはずの人間がいない。昨晩は一緒にベッドに入ったはずなのに。
     ぽん、とシーツに手を乗せるとまだ仄かに暖かみがあった。どうやらここから離れて時間は経っていないらしい。水でも飲みに行ったか、着替えに部屋に戻ったのか、はたまたシャワーでも浴びているのだろう。
     そういえば喉が渇いた。喉を潤おしに行こうと、ゆっくりとした動きでスクアーロは起き上がる。

     ぶみゅ。

     ベッドから足を下した瞬間、暖かくて、柔らかい、何かを踏んだ。顔は正面に向けたまま、瞳だけを下しそれが何かを確認する。踏んだそれが愛しの恋人だと気付いた瞬間、スクアーロは慌てて足を上げた。

    「う゛お゛ぉい!? 何やってんだぁ、カナタ!!」
    「おはよう、スクアーロさん」
    「おはよう……って、そうじゃねえ!」

     恍惚とした表情でスクアーロを見上げているカナタの脇の下に手を突っ込み持ち上げる。そのまま恋人を膝上に乗せ、向き合った状態でスクアーロは話を続けた。

    「思いっきり踏んじまったけど大丈夫かぁ!?」
    「え、えっと、むしろ足りないくらいかもしれません……?」
    「……大丈夫みたいだなぁ……」

     何故か頬を赤く染めて照れた様子のカナタに脱力する。そのまま彼女の肩に顔をうずめて項垂れれば、カナタはスクアーロの首に腕を回し甘えるように抱きついてきた。

    「……なぁ」
    「はい?」
    「お前、あんな所で何してやがったんだぁ」

     問えば、勢いよくカナタはスクアーロの両肩を掴んで彼から剥がれる。その様子にスクアーロが怪訝そうに顔を顰めるとカナタは焦った表情で口を開いた。

    「盗撮はしてませんよ!?」

     恋人同士の会話らしからぬ単語が出てきたが、スクアーロは特に気に止めた様子はない。カナタの盗撮癖は今に始まった事ではないので、今更驚くような事ではないのだ。ただ、以前スクアーロが盗撮はやめろと注意してからは一切そういう事はしなくなっていたので、先程の怪しげな行いが盗撮によるものだとはスクアーロには思えなかった。

    「疑ってます!? 私スクアーロさんが嫌がることはしませんから!」
    「……それは分かってる。盗撮じゃないとしてだぁ、何してたんだよ」

     その問いにカナタはふわふわと視線を漂わせる。何か言いづらい事でもあるのだろうか。先程までと打って変わって落ち着かないような彼女の態度に、スクアーロの眉間にしわが寄った。

    「お前……」
    「すいません白状しますすいませんローアングルからスクアーロさんを眺めたかっただけですすいません最高でしたありがとうございます!」

     一切の息継ぎもなく、問題発言をする恋人を見てスクアーロの眉間の皺はますます濃くなった。ローアングル。なんでまた。

    「スクアーロさんってどこから眺めても素敵で本当、幸せです」

     スクアーロが何も言わないのを良しと取ったのか、カナタは彼の胸に額を寄せる。とりあえずそんな彼女の背に手を回しつつ、瞳を閉じた。

    「今度からさっきみたいな真似は一切却下だぁ」
    「ええええええええええええええ!?」

     再びカナタはスクアーロの両肩を掴んで彼から剥がれた。決死の表情をするカナタに対して、スクアーロの表情はあきれ返っている。

    「盗撮もダメ! 下から覗き見るのもダメ! スクアーロさんはひどいです!!」
    「酷いのはお前だろうがぁ!」

     今にも泣きだしそうな顔で抗議するカナタに、スクアーロはため息をつく。そんな彼女の表情を見て、盗撮等の犯罪行為を許してしまいそうになるのは、やはり惚れた弱みなのか。つくずくとんでもない女に惚れてしまったと、スクアーロは思った。

    「ともかく却下だ。起きて早々好きな女を踏んだ俺の身にもなれ……」
    「…好きな女」
    「あ?」
    「わ、私の事ですか?」
    「う゛お゛ぉい! 他に誰がいるんだ!?」

     スクアーロが怒鳴れば、カナタは嬉しそうににまにまと笑った。そのまま、思い切り抱き着いてくる。

    「もう。スクアーロさんは仕方がないなあ、本当」
    「今の流れでどうして俺が仕方ないなんだぁ……」

     その問いに返事はなく。カナタの抱き着く腕に力が入った。
     彼女のくすくすと笑う声を聴きつつ、スクアーロはそのまま後ろに体を倒した。ぼすっと軽い音がして、二人はベッドに倒れこむ。
     朝からどっと疲れた。

    「寝る」
    「二度寝ですか? スクアーロさんは仕方ないなあ」

     言葉に反して、柔らかなその口調を耳に入れつつ、スクアーロは目を閉じた。




     その後目を覚ました際、カナタがクローゼットの中からスクアーロを盗み見ていて怒られたのはまた別の話。

    (2015.10.8)


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