オリジナル | ナノ
「闇よ、行け」
ブラックナイトから放たれた黒い光のようなものが、フレイムへ向かう。
「ぐああっ」
力の差は歴然だった。
おそらく、ブラックナイトが追撃の手を弱めなければ、フレイムは死ぬだろう。
「こんなものか」
ブラックナイトはそれまで腰に下げていただけの剣に手をかける。
が、フレイムに背を向けた。
「きゃああああっ」
物陰で腰を抜かして震えていた少女に剣を向ける。
「た、たすけて!」
少女の悲鳴に、フレイムが立ち上がる。
「やめろぉおおおおお」
それは先程までのフレイムと違った。
燃え上がりそうな感情。
怒り。少女を守りたいという気持ち。
勝てないかもしれないという気持ちは吹き飛んでいた。
手のひらから、赤く燃え上がる、炎が生まれた。
大きな炎はブラックナイトへ向かう。
それを、ブラックナイトはただ、受け止めた。
「……少しはやるようだな」
まだ殺すには惜しいかもしれない。そう思ったのか、ブラックナイトの口元には笑みが浮かんでいた。
「また会おう、フレイム」
そう言って、夜の闇にとけていった。
※※※
「やばい。超やばい」
とあるマンションの一室。フローリングの床に座り込んだ少年が唸っていた。
「やばい。幸せすぎて死ぬ」
彼は先程からずっとそれしか口にできていなかった。
実はこの少年――黒川甲斐、高校二年生こそが、先程までフレイムと戦っていたブラックナイト。こう見えて悪の組織の幹部だったりするのだが。
「サインもらえないかなー、もらえないよなー、だって敵だもん」
甲斐は大きくため息を吐く。
まあサインのチャンスはいつか回ってくるはずだ。今は我慢しよう。
それよりは、今この幸せを噛み締めるべきだ。
「やばいよなーかっこいいよなーあのボディ。生で見るとほんとかっこいー」
「まだ序盤だから弱いけど、仕方ないよなー。俺幹部だもん。わりと終盤まで生き延びてたしね。でものびしろあったなー。あの技が……フレイムファイヤーが生まれたんだなー。俺がフレイムを導けたんだな……俺がフレイムを育てた男」
普段の彼を知る者が見たら、その饒舌ぶりと、だらしなくゆるんだ表情に驚くことだろう。が、幸い、マンションには彼しか住んでいない。
なので思い切り顔をにやけさせる。
「推しをこんな間近で見れて、しかも推しを成長させることもできるなんて、幸せすぎて死にそう……いや、まだ死にたくない。終盤までは生き延びて、あわよくば、最終回すぎても生き延びて、推しを見守りたい……だがあの完璧なドラマを変えるわけにもいかない……まあまだ序盤だから考えなくてもいいか」
黒川甲斐、高校二年生。
悪の組織エタニティの幹部、ブラックナイト。
そして、フレイムの大ファン。
「ああほんと死んで良かった、生まれ変わって良かった」
そして、大好きな特撮ドラマ『炎の戦士フレイム』の世界に転生した少年だった。
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