▽ ③推しの話をしよう。

　推しの話をしよう。
　日曜日朝にやっている子供向け特撮番組。『炎の戦士フレイム』、説明のために子供向けとは言ったが、子供から大人まで楽しめる熱いドラマがあった。
　悪の組織エタニティから地球を守る、たった一人の戦士、フレイム。
　金属質のボディ。というか顔全体も、金属に覆われている。メインカラーは赤で、ところどころ機械的な銀色も見える。
　ロボットというわけではなく、それは正岡焔という男子高校生が変身した姿ではあるが、その正体を知る者はフレイムを変身させた鶴見博士ただ一人である。

　フレイムの表情はわからない。だが、その言葉で、震えで、その熱が伝わる。
　フレイムは生まれ育った街を、人々を、愛している。
　だから、それを傷つけられることを許さない。
　見知った人々が苦しむのを見たくない。
　ただそれだけの理由で、たった一人で、敵に向かっていく。

　彼がそれを見たのは、偶然だった。
　たまたま、テレビをつけたまま眠ってしまって、起きたらそれがやっていた。
　彼は生まれ育った街を嫌いではなかった。だが、命がけで守るほど好きでもなかった。
　それなのに、テレビの中の戦士は、それをやってのけるのだ。
　ただ生まれ育った街を愛しているから、と。

　そんな青臭いこと、現実には起こり得ない。
　そう思いながらも、彼は、画面から目を離せなかった。

　フレイムの正体は普通の男子高校生。
　きらきらと眩しい青春と、正義とを見せつけられても、不思議と嫌な感じはしない。
　顔も整っていて、親友という理解者にも恵まれていて、その上正義の味方になんて選ばれて。天から二物も三物も与えられている。

　彼は、気がつけば、一週間後も、二週間後も、それを見ていた。
　三週間後、過去の話を見たくなったので、定額の動画配信サイトに会員登録した。
　四週間後、帰宅後にわずかな時間を作っては、フレイムを見た。

　フレイムは彼にとって「生きる糧」になっていた。
　それから半年ほどは、幸せだった。

　フレイムが最終回を迎えるまでは――

　その後フレイムロスになった彼が、トラックに轢かれて死ぬまでは――

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