オリジナル | ナノ

▽ Fフレイムにそんな展開はあっただろうか?


「……どういうことだ?」

 思わず呟く。どういうことだ。たしかに、正岡焔が黒川甲斐の正体に気づくこと自体はシナリオ通りだ。だが、あまりに早すぎる。
 たちの悪い冗談なのだろうか。だとしたら真面目に返してはいけない。なんとか誤魔化さなければ。

 焔は無言のままスマホを取り出す。


『まだ序盤だから弱いけど、仕方ないよなー。俺幹部だもん。わりと終盤まで生き延びてたしね。でものびしろあったなー。あの技が……フレイムファイヤーが生まれたんだなー。俺がフレイムを導けたんだな……俺がフレイムを育てた男』

 ……焔のスマホからどこかで聞いたことのある声がする。
 それも、つい最近聞いたような内容の台詞。
 あれ、これ、俺の声だよな?


「好きなやつに弱いと言われた俺の気持ちがわかるか? その日は夜も眠れなかった。のびしろがあるというお前の言葉を信じて毎日死ぬ気で修行したよ」

「……えっと、悪かった……?」

 焔の言っていることが全く頭に入ってこない。が、向けられる視線と責めるような声に流されるままに謝ってしまう。
 そもそも何故、甲斐の声が焔のスマホから聞こえてくるのだろうか。妙に饒舌で興奮しているから外で話しているとは考えがたい。そうなると自室しか考えられないのだが。

 気がつくと目の前に焔の顔があった。近い。睫毛長いなこのイケメン。吐息がかかりそうな距離で見るイケメンは迫力があった。
 こんな距離はイケメンじゃなければ許されないだろう。女の子相手にしたらセクハラすぎる。顔面偏差値が高くなければ非難される。
 いや、だからといって男同士でする距離でもないのだが。

「ずっと好きだった。付き合ってくれ」

「――は?」


 思考が追い付かない。
 この男は何を言い出した?

 フレイムにそんな展開はあっただろうか?
 少なくとも子供向けのドラマの中でそんな描写はなかった。たしかに、物語終盤で黒川甲斐の正体に気づいた正岡焔が正義の心と友情に挟まれて思い悩むシーンはある。だがそれはあくまで友情である。同性愛などではなかったはずだ。それとも行間にそんなものが隠されていたのか? いや、ヒロインは隣のクラスの星野光だったはずだ。

「一目惚れだったんだ。一年前からずっと好きだった」

 両肩に手を置かれて、更に距離が近くなる。

「俺と付き合ってくれ」

 ……冷静になろう。
 何でこんな展開になっているのか、焔がどうしてこうなってしまったのか、さっぱりわからない。わからないが、少なくとも、黒川甲斐と正岡焔が付き合う話は「炎の戦士フレイム」の中には存在しない。歴史をなんとかして元のルートに戻さなければならない。
 そのためには、まず、断らなければならない。

「無理だ」
「そうか……」

 辛そうに歪む焔の表情を見ると、可哀想だったかなと思ってしまう。だがこれがお前の幸せのためなの。許せ、親友。
 そう思ったのだが。
 焔が何かを甲斐の前に出す。
 高校生には似つかわしくない、赤いライターに似たそれには見覚えがあった。

「初期変身アイテムのフレイムライターじゃないかっ! 子供が本物のライターで遊びかねなくて危険だって問題になって、途中から変わっちゃったんだよな……次のフレイムエクスティングイッシャーもたしかにかっこいいんだけど、消火器モチーフだから、持ち歩くためにはどうしてもサイズがミニチュアみたいになって可愛くなってしまうんだよな。あと名前が長いし。そもそもフレイムなのに火を消すっていうモチーフでどうなるんだって思ったけど、その後の展開が上手くて……あっ」

 思わず語りすぎてしまう。ネタバレだっただろうか?
 それでも焔は興味無さそうに続ける。

「お前が俺を捨てるなら、俺もフレイムを捨てる」
「――はあ!?」
「傷心の俺は二度とフレイムに変身できないだろう。うっかり変身アイテムもなくしてしまうし、たとえ新しいアイテムができても絶対に受け取らない」
「正気か!? 世界が滅ぶぞ!?」
「黒川が俺を拒む世界なんていらない」

 でも、

「黒川が俺と付き合ってくれるなら、フレイムを続けてやってもいいんだがな」


 そう、ライター片手に笑った焔の表情は、甲斐よりよほど極悪人のようだった。




prev / next

[ back to top ]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -