版権2 | ナノ
※カラ松がトト子ちゃんに腐男子ってバレたけどトト子ちゃんも腐女子だった話
松野家に生まれし次男、松野カラ松にはとある秘密がある。
――それは、彼が腐男子だということである。
それは彼が高校生の時のことだった。すでに尾崎リスペクトは始まっており、カラ松ガールにちやほやされるための方法を模索していた頃。とある雑誌におかしな特集がされていたのだ。
『いま、腐男子がアツい!!』
聞きなれぬ言葉ではあったが、それがカラ松をワンランク上の存在にしてくれるなら何でも良かった。とにかくモテるためなら何でもよかった。
そんなわけで、カラ松は軽率にBLというジャンルに近づき、そのまま沼にハマりきってしまったのだった。
とはいえプライバシーなんてあってないような家である。そういう本なんて置いておけるはずもない。
カラ松が腐った頃はケータイ小説なんてものが流行っていたし、ネットを見ればいくらでもBLを読むことができた。だから紙の本なんて買わなくてもいい。そう思い続けていた。
だけど、今日は違う。
カラ松がいるのはアニ〇イト。普通の書店よりは買いやすいだろうし、何よりここなら特典のペーパーというものがつく。インターネットで手に入れた情報をもとに、カラ松はこの場所を選んだ。
そう、BL小説を買うために。
今まで買おうと思ったことがなかった訳では無い。ただ、勇気がなかった。そして勇気を持つだけの理由がなかった。
でも、今日は違った。
(先生のデビュー作だからな)
カラ松が心の師と仰ぐ、カラ松をこの沼に引きずり込んで離さなかった小説サイトの管理人がついに商業デビューしたのである。
ここで買わなければ腐男子じゃない。
掲示板には絶対に買いますと、勇気を出してコメントを残してきたし、あとはこの本を手に取ってレジに持っていくだけ……なのだが。
ハードルがクソ高かった。
女性向けコーナーだし。
周りは女子しかいないし。
表紙はドピンクだし。
近寄るだけで、浮くのだ。
それでも表紙の絵はネットで調べて、目に焼き付けてきたし、目的のものは一度目にゆっくりと通過した時に見つけてある。
二度目に確認しつつ、通過。
三度目こそは手にとろうとしつつ、やはり通過。
……やっぱり無理かもしれない。
ぐるぐると歩き回っているからチラチラと見られるし。そんな中、あの本を手にすることなんてできるのだろうか?
でも、あの本を手に入れずに帰るなんて、できるはずがない。
(ええいっ)
そして、とうとう手を伸ばした。
――その指先が、同時に伸びてきそれに触れた。
「「あ」」
すみません、と口にしようと、その指の持ち主を見る。
見覚えのある可愛らしい顔。
「トト子ちゃん……?」
「カラ松くん……?」
少女漫画のようだった。手にした本がもっと違っていれば、だけれど。
▼▼▼
「驚いたー。カラ松くん、腐男子だったのね」
ところかわって、トト子ちゃんの部屋。
あの状況で言い訳なんてできるはずもなく。というかトト子ちゃんも手を伸ばしていたんだからもちろん彼女も腐女子なはずで。じゃあ隠さなくてもいいかな、とも思ったのだ。
そうじゃなきゃあのトト子ちゃんにバレたくなんてない。
でも秘密の共有って恋愛に発展する可能性もあるのではないだろうか。
部屋に二人っきりという状況に胸を高鳴らせながら、カラ松はトト子が代わりに買ってくれた本を受け取った。
あれから、沢山のことを彼女と話した。幼い頃から知っていたのに、こんなに長い間話すのは、不思議なことに初めてのことだった。
「カラ松くんはツイッターやってないの?」
「あ、ああ。別に呟くこともないしな」
「今始めるならトト子がフォローしてあげるけど」
「やる!」
最近のアニメの話や、お気に入りの小説サイトの話。ピク○ブのイラストやマンガに小説の話。話し出せばキリがなかった。
リアルでもネットでもこんな風に語り合える相手がいなかったカラ松は、しどろもどろになりながらもトト子の質問に答えていった。
「あ、じゃあこの作者さんが、カラ松くんの初めて買うBLなんだ」
トト子が自分の分を開きながら言う。
「でも、カラ松くん。この本どこに置くの?」
「っ!!!」
そうだった!
あの5人の悪魔からこの本を隠し通せるはずがない。
「トト子が持っててあげようか?」
その代わり――と、彼女は続けた。
「カラ松くんにお願いしたいことがあるの」
一緒にツイッターしよ、と。
彼女はとてもとても可愛らしく微笑んだ。
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