短編 | ナノ スーパーマーケットの恋


近所のスーパーは自転車をとばして5分ほどのところにある。石鹸が無くなったと言い出した母にお使いを頼まれて、20時近くにスーパーに到着。
買い出しを任されることも料理をすることもそれなりにある俺としてはこのスーパーも馴染み深いものである。だが普段来るのは夕方ばかりで、こんな時間に来たことはない。
20時も近くなれば惣菜の類はぽつりぽつりとしか残ってない。安売りだったらしいパンは跡形もない。
ああ、インスタントコーヒーも安かったのか。残念ながら1つも残っていない。
そうしてめぼしいものはないか探していると売れ残ったコロッケ(5個入り)が半額になっていることに気付く。ラッキーだ。明日の弁当に入れるか、それとも明日の夕飯のオカズにするか。
一通り見終わって、カゴに少々の重み。レジに向かうと店員は見知らぬ顔ばかりだった。
少し時間が違うだけで、まるで違う店のようだ。

「――広瀬?」

店員が俺の名前を口にする。
見覚えのある顔。だけど、それは学校でであってスーパーでではない。

「――千葉?」

千葉は、同じクラスの男子生徒だ。
席は名前順ということもあり、近い。けれど話したことはあまりなかった。だから千葉がこのスーパーでバイトしているなんて知らなかったし、名前を呼ばれるまで気付かなかった。目の前にいるのに『どこかで見た顔だな』と思うだけでそれがクラスメイトだなんて気付きもしなかった。
「買い物?」
「そう。千葉はバイト?」
「ああ」
お互い見ればわかることを口にする。
話したことなんてない。だから、何を話せばいいかもわからない。お互いが戸惑っていることがよくわかる。
「あ、石鹸うちと一緒だ」
「そうなんだ」
ふわりと香る千葉の匂い。石鹸の匂いのようなのだが俺からするのとは少し違う気がする。
……何か千葉の匂い、みたいな。

「また明日」
「……また明日」


自転車のカゴにスーパーの袋を突っ込む。走ると少しやかましい音がする。
……同じ石鹸、か。
風呂に入る度に千葉のことを思い出しそうな、そんな予感がした。



―END―


ウロコボーイズさんに投稿しようかと思ったものの消化不良で諦めたブツです。
お揃いの石鹸とかすごく萌える要素だと思うわけですはい。



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