彼はそれを愛と言った | ナノ





「意外。綺麗にしてるね」

「……物、そんなにないし」


そっかー、と間延びした声。
高里は喜代史の部屋を珍しそうに眺めては、そこにある物について尋ねてくる。


「あ、CD。この歌手好きなの?」

「………」

「ふーん。じゃあ僕も聞こうかな」


高里は嬉しそうに微笑んでいる。そんな表情を見ると喜代史も嬉しくなって、貸そうかなんて呟いた。

彼はCDから顔を上げると喜代史の方を見、顔をほころばせた。しかし急に顔から表情をなくした。
……何か気に障ることをしたのだろうか。


心臓が脈を打つ。

友達の時間が終わる?
手が喜代史の頬へ伸ばされる。喜代史はそのまま殴られるのかと体を硬直させ、目を閉じた。
しかし衝撃は訪れず、代わりに優しい手が喜代史の頬に触れていた。



「……ごめんね」


悲しそうな表情。



「……タカ」

「もう、しない。キヨを傷付けたり、酷い目にあわせたりしない」



悲しそうに、泣きそうに、けれど真剣な瞳が喜代史をとらえる。
もう彼が喜代史を殴ることはない。少なくとも、今の喜代史は心からそう思った。けれどどうしてだろう。その優しい手がひどく恐ろしかった。




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