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あいのかたち(グラライでシオ→ライ)* [ 65/196 ]
※学パロらしい
※ほんのりえろす
いつだって眠そうな声を出している彼が、どこか切羽詰まったような、震える声で、抵抗を示す。
力なく男の胸を叩く。
「やめろ……」
小さな声は、どうにかシオンの耳元まで届くくらいだった。
あいのかたち
動かなくてはいけない時に限って、動けないものだ。
足が地面に縫いつけられたようにピクリとも動かない。目を閉じたいのに、耳を塞ぎたいのに、シオンはただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
理解が追い付かない。何が起こっているのか、理解したくない。
ライナ・リュートという同級生が、組み敷かれている。
シオンと同じ制服を纏った彼が冷たい床に押し付けられている。
少しずつ少しずつ、状況を理解していく。
本当は、全て理解しているのに。脳が理解を拒むのだ。
どうして。
どうして。
どうして。
男がライナに顔を近づける。ライナは首を捻って逃れようとする。だが、容易く捕まる。荒々しく、まるで獲物に襲い掛かるように口付ける。キス、という単語が上手く脳内で再生されてくれない。ただ、ひどくいやらしく響くぴちゃぴちゃという音に、舌が絡み合っているのだなと冷静に考える自分もいた。
「……っ」
男が眉をひそめ、ライナを離す。舌を軽く噛まれたらしい。にやりと「痛いだろ」と笑った。
「……やめてください、エブルルド先生」
今度はもう少し、ハッキリとした口調でライナが男に告げる。
「グラフドって呼べよ、ライナ」
その名前を聞いて、シオンはようやくそれがグラフド・エブルルドという教師の言葉だと理解した。
どうしてエブルルドがライナを組み敷いて、キスをして、「ライナ」と呼んでいる?
どうして、
「あ…うぁ……やめっ」
「ああ、やっぱりお前の中はいいな」
どうして、エブルルドがライナを犯しているのか。
「ふ…やだ、もうっ」
涙を流すライナ。ああ、無理矢理犯されているのだ。ライナはこの男に脅されて、無理矢理押さえつけられて、抱かれているのだ。
そう思うとひどく苛立つ。
苛立つのに、シオンの足はピクリとも動かない。
そこから視線を外すこともできず、耳を塞ぐこともできず、ただ立ちつくしてその行為を眺めている。
じわりと、熱が集まる。
(助けたい)
ライナが泣いているから。
(抱きしめて、大丈夫だと言ってやりたい)
あんな男、殴り飛ばして、ライナを救いだして……それから、
(それから?)
――犯したい
愕然とした。
認めたくなくて、すぐに首を振った。
(俺は、ライナのことが好きなのだろうか)
どちらにしても親友が襲われているのだから教師を殴り飛ばしてでも助けに行かなければいけないことは確かだ。
それでも、足が動かない。
ライナの吐息を、聞き逃したくないとさえ思う。
ただ、憎しみをこめてエブルルドを睨みつけようとする。と、彼も急にこちらを向き、にやりと笑った。
得体の知れない悪寒のようなものに身震いし、シオンはそっと引き戸を閉めると廊下を駆ける勢いで進む。
(見られた)
見られて困るのはあの男だ。けれど、どうして笑ったのだろう。
決まっている。シオンが何もせずに覗いていたからだ。あの男はたった一瞬目があっただけでシオンの興奮まで読みとって笑ったのだ。「お前も抱きたいんだろ」と。
そうだ、抱きたい。
だけど、ダメだ。あの男と同じことをしたのでは。
「俺は……必ず、お前を幸せにしてみせるぞ、ライナ」
***
「……グラフド」
「ん?」
ライナの腕がグラフドの首に回る。
「……すき」
「ああ」
ちらりと閉められた引き戸に目をやる。あの男も、可哀想になあ、とグラフドは思った。
淫らなこの少年は情事前は素直じゃないくせに、最中や事後にはやたらと甘えてくる。本当は寂しがりなのだと理解している人間は少ないだろう。
結構本気で抵抗してくるのは傷ついたりするのだけれど。それでもそれが彼の精一杯なら、受け止めてやらなくてはいけないから。そんな大人らしい事を呟いてみながらも、最低な大人である自分はそれを楽しんでいる。
抵抗してみたり、甘えてみたり、忙しいこの少年は見ていて楽しい。
……まあ、実際には身体を繋げることがあまり好きではない、ということだろうけれど。
「俺も愛してるよ、ライナ」
だから、あの男子生徒を可哀想になあと思う。彼は間違いなくライナを好きだ。犯されるライナに興奮していた。
けれど、ライナはそれに気付いていないだろう。
……もちろん、気付かせるつもりもないのだけれど。
ライナと自分を引き離そうとして、それで、ライナに嫌われれてしまえばいいのに。そう思う自分は思ったよりもこの少年に夢中で、子供のようだった。
―END―
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