ダメダメ戦隊 | ナノ 第11話 英雄の日常


後悔したって時間は巻き戻せない。そんなことは知りつつも、人間は後悔する生き物である。
したがって、彼が己の行いを後悔しているのも仕方のないことなのある。たぶん。



   英雄の日常



「……腹減った」


空しく響くのは、腹の虫の鳴き声。
餌をやろうにも何もない。当たり前だ。一時間目が始まる前に彼自身が食べてしまったのだから。

……後悔しても仕方がない。
これは完全に彼の自業自得である。購買に行こうにも金はない。馬鹿みたいに軽い財布にはアルミニウムで出来た硬貨が数枚と、銅でできた硬貨が、たったの2、3枚ずつしか入っていなのだ。
それでも、育ち盛りな上に人一倍体を動かす彼に、空腹を我慢することなど不可能に近い。このまま家に帰ってしまおうかなんて考える。無遅刻無欠席2年目の彼が、そのくらいに追い込まれていたのだから食欲とは恐ろしい。


「はーらへったー」


この際助けてくれるなら『僕の顔を食べなよ』なんて若干気色の悪い英雄でもいいから、食料の登場を望んでしまう。なんてことを彼が考えていたかはよく分からないが。
ゴロン、と屋上の冷たい床に寝転ぶ。

上下が逆さまになった世界で、1人の男が現れた。


「食うか?」

それは頭部が菓子パンでできたようなやつではなく、ただの人間だった。上履きの色から、1つ上の学年だとわかる。
見覚えはない。誰だろう。ただ燃えるような赤い髪が目にちりりと焼きつくようだった。

ぽい、と放られたのはアンパンとカレーパンとおにぎりだった。


「いい、んですか?」

「おう!」


でも、自分が食べるために買うだろう、普通。それを他人にあげてしまったら、この男は何を食べるのだろうか。


「俺なら早退するつもりだったし、ちょうどいいからな!」


男は笑った。

一生ついていきます、なんて、若干本気で言ったら、おおよろしくな、なんて返された。


――それが彼と男の出会いだった。


 ※※※


「おはよう!」

藤村太陽。今年で19歳になる彼がやってきたのは高校の、3年生の教室。別に彼はちょっと若すぎる高校教師なんかではなく、単に1度卒業し損ねただけの高校3年生である。

年上のクラスメイトに最初は周囲も戸惑っていたが、まったく気にした様子の無い太陽とその明るい性格から、今ではすっかりクラスに馴染んでいる。
この分ならあと1年、いや、2年くらい留年しても問題なさそうだな、なんて担任が笑ったが、それはあまり笑えない冗談である。
――まあ、太陽はよく理解もせず笑ったのだが。

「おはよー」

クラスメイトから返ってくる返事に答えながら、太陽は自分の席に向かう。
そして、すぐに眠り始めた。

最初の頃こそ起こしていたクラスメイトや教師たちであったが、今では誰もがあきらめ、放っておいている。
……よって、彼が次に目覚めたのは放課後のことであった。





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