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心の声が聞こえるカラ松が一松の想いを知っているのに知らないフリしてた
2020/05/21 04:23

※心の声が聞こえるカラ松が一松の想いを知っているのに知らないフリしてた






「どうしてお前そんなにポジティブなわけ?」

兄が不思議そうに言う。
俺が兄弟にどれだけ塩対応されてもケロリとしていることが疑問らしかった。が、そんなこと言われてもみんな本当は俺のこと好きだし俺も兄弟達が大好きだからな、としか言いようがない。そんなこと言えばおそ松が体のどこかに痛みを負ってしまうこと間違いなし。ということくらい最近の俺にもわかってきている。

どうして、って言われてもなあ。だってわかるからとしか答えようがなかった。


――俺だって結構言い過ぎることあるけどさ。なんでカラ松は俺たちのこと嫌いにならないんだろ

ほら、わかる。



そうやって思ってくれるから、たぶん、俺は兄弟達を嫌いになんてなれないのだ。



俺にこの能力が目覚めたのはいつだったか。物心ついた頃には声以外の『心の声』みたいなものが聞こえてきていた。
といっても何でもわかるわけではなく、兄弟が俺について考えたこと限定だった。
これが正直言ってあまり使えない。しかもこれが『兄弟が俺について考えていること』なら絶対拾えるのかというとそうでもないようで。更にある一定の条件みたいなものがあるらしい。なんとなくだけれど、俺への発言に後悔した思い、みたいなものは頻繁に聞こえてくる。

聞きたいことを選んで受信することはできないが、聞こえてくる『声』は比較的嬉しいものばかりではあった。
言い過ぎたなとか、そういう『声』。
嬉しくないはずがなかったから。


だから俺はよくわかっていた。
兄弟達が俺に関わると痛い思いをすること。
それでつい言い過ぎてしまうこと。
でも俺のことはちゃんと好きなこと。


――やば、言い過ぎた。でもカラ松兄さんってもはやそういうポジションだからなー

なんてトド松の『声』が言っていた。
どういうポジションなんだろう?









「死ねよクソ松」


表面上の言葉は気にしても意味がない。心の声こそが本物だから。
そう知っている俺でもやはり兄弟達の言葉は悲しい。特に、一松の言葉は心臓に突き刺さる。
だけど『声』を一番聞きたい人でもあった。


――すき

聞こえてくるのは消えそうなほど小さい『声』。


――すき、すき、カラ松


――カラ松ごめんね。いえなくてごめんね。だいすきなんだ


――傷つけたくなんてないのに



優しい『声』。
ずっと聞いていたいくらい。
俺はずっと前から俺に恋するその『声』に恋をしていた。





***




「――だから、お前の気持ちには応えられないんだ」

「は?」


僕、松野一松は目の前の馬鹿兄貴の真剣な顔をじっと見つめた。
言ってることが全然わからない。
いや、心の『声』が聞こえる。そこまでならいいだろう。百歩どころか一万歩くらい譲らないと信じる気になれないけど、まあ、信じてやるとしてもだ。

だって僕はずっとこのカラ松のことが好きだった。その気持ちがずっとバレてたとして、結果的に相手も同じ想いを持ってくれた。それなら万事オッケーじゃないか。
ちょっと厨二こじらせすぎだけど、まあ、元々そういう痛い奴だって知ってて好きになってるし。それにみんながちょっとやりすぎたなあとか思ってるのも事実だろうし。それらを知られていてもなんの問題もない。

問題は、どうして両想いなのに振られなきゃいけないのかってことで。


おかしいでしょ。どう考えてもおかしいでしょ。
可愛い可愛い弟がですよ。何年もこじらせた恋心をついに素直に打ち明けたってのに。厨二妄想で話をそらす。まあ、それは思い込みってこともあるからいいでしょう。
両想いなのに、振られる。

何この思考回路教えてお兄ちゃん!?


「わけわからん」

せっかく素直に優しい弟としてカラ松と向き合ってたのに。

わけわからなすぎて胸ぐらを掴んでしまったじゃないか。俺の努力を返せクソ松。

「ちゃんとわかるように説明して」

「わ、わかった」


怯えながら頷いたのでとりあえず解放してやる。


「俺は怖いんだ」

カラ松はぽつりぽつりと話し始めた。




「表面上の言葉に意味なんてない。ずっとそう思おうとしてた。でもさっき一松に好きって言われてすごくすごく嬉しかったんだ。
俺は一松の心の声が大好きだった。俺のこと好きってずっと言ってくれてた。素直になれないって後悔してた。でもちゃんと聞こえてたから、一松のこと嫌いになんてならなかった。

両想いなんだから、告白しようって思わなかったわけじゃない。何度も考えた。だけど、怖かったんだ。俺にとって心の声こそが本物で。だからこのまま心の声だけ聞いていたかった。それだけで幸せでそこから変わりたくなかった。

もし、一松が口では好きだと言いながら心変わりをしてしまっているのを隠しても。俺はすぐ気づいてしまうだろう。それが何より怖かった。
応えなければ一松はずっと俺を好きと言ってくれるかもしれないって。そう思ってしまった。

俺に、一松と付き合う資格なんてないよ」




答えになっている気はしないけれどカラ松の言いたいことはだいたいわかった気がした。

わかっても、納得はできない。


「資格があるとかないとか決めるのは俺でしょ」


一人でいろいろ悩んで悩んだ挙句一人で決めて。じゃあ俺の気持ちはどうなるの。

「俺はカラ松と付き合う。心変わりはしない。
しないって言っても信じてもらえないだろうから約束は違うことをする。心変わりしたらすぐカラ松に言う。嘘で好きなんて絶対に言わない。俺が言う好きはいつだって俺の本心であることを誓う。

正直心の声が聞こえるとか厨二すぎて信じられないけど、いいよ、お前と付き合えるならそれで。
応えたってずっと好きって言ってやるよ。声に出すし『声』にも出す。ずっと想ってただけだから、まだまだ言い足りないくらいだから」


それから、カラ松を抱きしめて、


「それに放っておいたらもう好きって思わなくなるかもよ」


脅し文句をひとつ。

「……それはやだ」
「じゃあ、付き合う? 返事はイエスかはいで」


「……はい」






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