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少女漫画パロ
2020/05/21 04:22



ーーなあ、俺たち試しに付き合わない?

よく見る夢だった。作りものではない中学の頃の記憶。
おそ松が帰り道にそんなことを言い出して。それに、自分はなんと答えたのだろうか。
兄に言われたことは一言一句違わず思い出せるのに、それに返した自身の言葉は靄がかかったように思い出せない。

覚えているのは、否定しなかったこと。

今でも後悔していた。後悔していたから、こうして繰り返し夢に見るのだろうけれど。
「なにを言ってるんだおそ松」なんて笑って、そのまま冗談として終わらせてしまえば。
他に好きな人がいると嘘でもいいから言っておけば。男同士なんて考えられないと断れば。

中学生だったカラ松にはまだ恋もなにもわかっていなかった。ただ与えられた好意がうれしいとだけ思った。だから。付き合ってしまえば好きになるだろうと、思ってしまった。


最初は、今までと何も変わらなかった。それから時々2人で出かけるよ うになった。
6人で遊ぶのが2人になっただけで。それ以上は何も変わらないものだなあとのんきなカラ松は思っていたのだ。

ーーカラ松

おそ松が、呼ぶ。
強く引き寄せられて、それから、唇に柔らかいものが触れて。

ちがう。

チガウ。

それまでの穏やかな時間が音を立てて崩れていく。


「やめろ」


それが、いつもの夢の終わり。









恋とはなんだろう。愛とはなんだろう。
松野カラ松にはそのどちらも絵空事のように思えていた。
だからだろうか、カラ松は『失敗』をしたことがある。兄弟から告白をされて、その表情があんまりにも真剣だったから頷いて。好きになれると思っていたのに、それは、兄弟以上になれるものではなかった。

だから、傷つけた。

取り返しのつかない失敗だと彼は思った。兄はあれ以来普通の兄弟として接してくれているけれど、彼が傷つかなかったはずがないのだ。それなのに。自分はその優しさに甘えていた。
好きになれなくてごめんなさいと謝りたいが、それはただの自己満足で終わるだろうから。また傷つけるだけだろうから。だからか、二人が過去の出来事に触れることはなかった。


カラ松がそれを見たのは放課後の体育館裏という、マンガの中にだけありそうなシチュエーションだった。
またあの夢を見たこともあって、なんとなく一人になりたくて、ふらふらと歩いていたら、マンガの中の一コマがそこにはあった。自分とそっくりの顔 の少年が、おそらく同級生に呼び出されたところ。
あれは、たぶん一松だろうな、と。物陰に隠れながら思う。こんなところを見ていてはいけないと思いながら。

「一松君のこと、好きなの」

小鳥が歌うような、愛らしい声。
相手は可愛らしい少女だった。まだ中学一年生と言われても信じてしまいそうな慎重と幼い顔立ち。ストレートと言うよりは少しウェーブがかかった黒髪。まるでお人形さんみたいだとカラ松は思った。
そ んなお人形に告白された一松は、なんと答えるのだろう。興味本位でつい、聞き耳を立ててしまう。

「僕、あんたのこと知らないけど」
「試しに付き合ってみてほしいの」

その言葉にどれだけの勇気を込めたのか。幼い顔はしっかりと決意を固めた表情で。カラ松よりずっと大人びて見えた。そういう種類のものをカラ松はどこかで見たことがあるように思えた。

ーーなあ、俺たち試しに付き合わない?


「試しに、ねえ」
一松が考えるように呟く。

「無理」
「なんで!?」

「好きになれる保証ないから、そういうの無理。他探して」


その言葉に、それまで彼に重なって見えていた過去の自分自身がはがれた。

それから少しだけ、悪夢を見なくなった。






***

本当はここからカラ松がイッチに恋して熱烈アタックで付き合うことになるんだけど過去の男であるおそ松兄さんがちらちらしてきてイッチがやきもきする話になるんだけど続きは十四松が野球のボールにしてホームランしちゃったよ!

ちなみにイメージはマーガレットの『菜の花の彼』でした。





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