恋の味



『恋は甘いお菓子なのよ、敦。』
『お菓子なの!!?お菓子、お菓子!おれ、お菓子、大好き!!』
『だから敦も大人になったら甘い恋をして、甘いお菓子を食べるの。』
『うん!!おれ、おかあさんおよめさんにしてお菓子食べる!』
『あら、敦ったら…!』

キラキラとした目でそんな事を母に告げていた10年から12年程前。今の自分はどうだろうかと紫原敦は下を見下げる。
2メートルを超える背。身長相応の体重。あの時より色々な事を知って、色々な事を学んで、色々な事に傷ついて。
自分は傷がついて、すさんでしまったと今も少し子供の様な頭で思う。

「…。俺、お菓子すき。」

だからきっと、あの時母が言っていた甘いお砂糖の様な恋も好き。になる予定だった。

「敦?」
「…赤ちん。」

きっと自分は、赤司が好きなのだ。そう自覚したのはいつだったか。中学1年か、2年の時。
3年の時にはキスをしていたと思うからきっとそれ以前だ。
恋をして、甘いと思っていたものはまったく甘くなくて。なんだかその思いはとても苦くて。
でも、苦くてもいつか甘くなると信じて赤司の事を思い続ける恋。

「なにを考えているのかな?」
「なんでもないよ。」

ほんの些細な事だと、自分に言い聞かせる様に呟くと、なにかが胸にじわりと広がる。
「ただ…、俺、好き、ってだけ。」
「ふぅん。で、敦は何が好きなんだ?」
「俺は、お菓子が好き。甘いものが好き。美味しいものが好き。食べる事が好き。楽しくて、甘い時間も好き。俺、大人になったよ?」
「うん。敦は大人になったな。」

大人になったと、色々な意味で思う。考え方や体や、味覚や、色々な部分が成長したと思う。
絵本を抱き締めながら母親に駆け寄ったあの時。ランドセルを背負って、初めて知らない同じ歳の子達と教室で時間を共有した時。
初めてバスケに出会った時。その時々で、なんとも言えない気持ちに胸を押さえた。

「ここ数年の敦しか、僕は知らない。だけども、敦はとっても大人になった。敦は、自分でそう感じているんだろう?昔は、子供じゃないもんと言ってた。今は、大人になったと言っている。大きく変わったじゃないか。」
「俺、変わってない。昔からお菓子が好き。だから、赤ちんが好きなのは甘いからだって、今も思うよ。」

恋は甘いお砂糖。敗北はしょっぱい塩の味。勝利は刺激的なタバスコ。色々な味をしって、色々な事を知った。
違う形で、違う味で、違う匂いで、楽しいものもあったし、楽しくないものもあった。

「思うだけ?敦は、僕が好きだと思う気持ちを味わえない?僕は味わっているつもりだよ。」
「…そっか。じゃあ、赤ちんにとって、俺との恋は何味?」
「そうだな、敦との恋は…。カフェオレかな。」
「…美味しくないよ?」
「そうか?僕は、割と好きだけどな。甘くて、でも、ほんのり苦くて。そんな味だよ、敦との恋は。」

ふわり。胸に何かが落ちる。
ふわり。胸に何かが広がる。
ふわり。胸に何かが。
赤司の言葉で、紫原はなにかが分かった気がした。

「赤、ちん。俺、分かる。俺、ちゃんと赤ちんに恋してるよ。赤ちんとの恋はふわふわのショートケーキなんだもん。ふわふわのスポンジ。甘い甘い生クリーム。間に入ってる苺はケーキ用に少し酸っぱくてさ。刺激的なの。」
「ショートケーキなのか。じゃあカフェオレのお供にショートケーキを食べよう。」
「うん。」

暖かい愛で、ミルクを温めよう。
コーヒーをいれて、そこにミルクを入れて。混ざり合えばほら恋の味。
カフェオレを引き立てるのはきっと、美味しく出来上がった美味しいショートケーキ。苺は、最後に。




初めて原作で紫原と赤司の関係を知ったときは息が止まりました。
京都と秋田で、高校は離ればなれですが帝光時代にこんなことが……!と3日程赤紫の事が頭から離れなかったです。この話は自分で書いていたくせにランドセル姿のむっくんに酷くもだえた記憶があります。






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